全米小売業協会(NRF)年次総会「NRFビッグショー」がフルサイズで戻ってきた。前回2022年はオミクロン株感染急拡大で参加者数は1万5000人以下、主要出展企業のキャンセルにより展示会場は寒々しい光景だったが、今年は世界70か国から3万5000人が参加、出展企業数も1000社以上、身体がぶつかり合うほどの混雑ぶりだった。今回は初日のキーノート・セッションから小売業が向かうべき「次の時代」についての示唆が得られるテーマとその取り組みを紹介したい。そこにはつい最新テクノロジーだけを追いかけがちな近年のNRFに対する見方とは明らかに異なる視点を見つけることができる。
ウォルマート米国部門CEOとハーバード大教授の対談で幕開け
NRF2023のキーノート・セッションはウォルマート米国部門CEOのジョン・ファーナー氏とウォルマートを始めマイクロソフト、GE等フォーチュン100社の取締役会のメンバーを務めてきたジェームス・キャッシュ博士の対談で始まった。キャッシュ博士はハーバードビジネススクール初の黒人教授として30年近く教鞭を取り名誉教授の称号を得ている。米国では日本人が考える以上に人種や性差別が根強く、同氏の輝かしいキャリアの影には大きな苦労と忍耐があったと伺える。
NRF2023では、多くのセッションで「コロナ、サプライチェーン問題、労働力不足、インフレと、逆風の止まない経済環境をどう乗り切るか」がテーマとなっていた。そして、2023年度上半期は厳しい状況が続くだろうことが全米小売業界ではコンセンサスとなっている。
この対談でも「いかに困難に立ち向かうか」が話の中心となった。キャッシュ博士は常に高い水準を目指すよう諭していた母親の「もしエレベーターが壊れていたら、階段を使いなさい」という言葉を引用し、不都合なことが起こってもそれを理由に今やっていることをやめてはいけない、またキャリアの浅い人々へのアドバイスとして「何かあなたが本当に情熱を持てるものを見つけなさい。そうすれば仕事だから仕方なくやっている人たちの上に行くことができるでしょう」と述べた。さらに「自分はより良い方向に向かっているんだという(楽観的な)視点を持つこと」の重要性も説いた。
例年ならウォルマートやターゲット等大手小売企業のCEOが業界にエールを送る開幕の時間枠にキャッシュ博士を迎えたのは、厳しい時期に現場を動かすには、現場で働く多様な人々の見えない痛みにまで配慮しながら、そして必ず良い結果が来ることを信じながら、今まで以上の忍耐と努力をしなければならないというメッセージなのだろう。
気候変動、インフレ、ウェブ3等大きなディスラプションを乗り越えるリテール戦略とは
初日のもう1つのハイライトは、「厳しい危機を乗り越えるリテール戦略」のセッションだった。リテールイノベーションコンサルティング企業GDRクリエイティブインテリジェンスのケート・アンケティルCEOは、世界共通の危機に対する戦略を、事例を基に紹介した。
世界的に
・・・この記事は有料会員向けです。続きをご覧の方はこちらのリンクからログインの上閲覧ください。