H&MやZARA等が原価下回る価格で取引を強要 SDGs時代にこんなことが起こる必然の理由

河合 拓
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生産領域の実態を全く分かっていない
有識者達の呆れた議論

 私は、政府の有識者会議に呼ばれ議論に参加することがある。だがほかの参加メンバーはいつも、もはや的外れも良いような人ばかりで、かならず枕詞に「私も若い頃はものづくりをしていましたが」が付く。つまり、ものづくりの実態を知らない人たちなのだ。

 15年前のものづくりと今のものづくりは全く違う。05年当時、中国人の人件費は日本人の1/20で、それでも国内生産比率は3040%程度あった。ニットはまだ日本での生産が可能だったし、ジャージと布帛は国産の方が競争力があったほどだ(当時は、まだ輸入関税は今より高く15%程度あった)。

  私のような“ペーペー”の商社マンは、日本語で書かれた縫製仕様書を「すべて」英語になおしていたが、その数は一日に20枚は当たり前だった。問題が起きた場合、とにかく金銭問題になる前に、問題の原因を特定して染め直し、補正工場で編み直しなどを山のようにやった。私は、綿(わた)から糸までの工程もやっていたので、化合線と天然繊維、また、それぞれの染色との関係なども体で覚えていった。悪いが、有名な「有識者」連中とはレベルも実績も違う。私が最も驚いたのは、バングラデッシュの人権問題の専門家と自称していた有識者が、なんとバングラデッシュに行ったことがないという事実を知った時だった。もはや漫才のような話で、さすがの私も腰くだけになってしまった。 

“グローバルアパレル”は、悪魔か天使か

ajfilgud/istock
ajfilgud/istock

 一事が万事この調子で、政策は失敗を重ねてきた。流石の政府も、こんなことに私たちの血税を払い続けていいのかと思うようになった。

 しかし、そんな茶番劇をせずとも、真面目な私たち日本人の間では、確実に消費者の意識が変わってきた。若い人を中心に余計な服を買わない、着ない服を捨てない、という生活意識が定着してきた。

 その流れのなかで、ファッションを毎シーズン楽しむという「文化」は過去のものになり、自分を着飾るという消費者の大事な「文化」も消えてしまいつつある。女性がもっともきれいになるシーズン、街の華やかな風物詩が日本から消えてきており、まるで日本人は人民服を着るかのごとく、ユニクロのベーシック衣料ばかりになりつつある。

 文化人や有識者は、「古着が流行りつつある」と、リサイクルやアップサイクルの流れを吹聴するが、これも分析が間違っている。古着が流行っているのは、国民の知的レベルがあがったからでなく、国が貧しくなり高い服を買う余裕がないからだ。つまり、度重なる政策の失敗により先進国で最も貧しい国になった日本人は、99%が輸入品である服がまともに買えないのである。

 

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