さて、2022年も残すところあとわずかになった。2019年から開始したこの「アパレル改造論」はなんと4年目となり、毎週アパレル業界で起きている話題について私独自の視点で解説をしてきた。2022年最後となる今回は、アパレル業界、2022年の総括と2023年の予測をしたいと思う。
2022年の振り返り全体論
2022年、どのアパレルも新型コロナウイルス明けのリベンジ消費を期待していた。だが蓋を開けてみると、現実には優勝劣敗が明確となった。
通販は業績を落とし、代わりに強いブランド持つリアル店舗アパレルは回復を成し遂げたが、弱いブランドは徹底して負け越した。もはや総論で「アパレル業界は」などと語れないほど格差がついた1年となり、「生き残るアパレル、死ぬアパレル」が明確になった。
一向に進まないDXと混乱を極めるPLM
アパレル業界では2022年も、一向にデジタル化が進まなかった。その一方、それを尻目にファーストリテイリングは、デジタル人材に10億円を支払うと発言し業界を驚かせた。
また、メディアでは報道されないこととして、「PLM」をめぐる混乱があった。サプライチェーンの効率化と産業エコシステム構築の違いが理解できない人たちがプロジェクトを混乱させ、
世界に台頭する中国企業と座して死を待つ日本企業
日本企業が停滞、混乱している間に、中国Shein(シーイン)はグローバルに張り巡らしたネットワークで究極の節税と最低価格の原価コストで勢力を伸ばした。
売上が2兆5000億円(正確な報道とはいえないが)に達したと話題になり、世界のZ世代のほとんどを囲い込んだ。
また、MDをキッチン、ペット用品、電化製品などに拡大。さらに、リアル店舗を大阪(期間限定ポップアップ)と東京に開設すると4000人以上の人間が列をなし話題をさらった。
シーインの「次」を担うべく、次々と中国に新しいアパレル企業が現れ、中国市場に関していえば「日本優位の神話」は崩れた。
これに対し日本人は、シーインに対する米国版権侵害訴訟を都合の良いように解釈し、理解できないロジックで「インチキをやっていたからシーインはあれだけ成長できたのか」とうそぶき、ユニクロが原宿に進出したときと全く違わぬ負け口上で彼らを評価。この5年のうちに必ず来る「対中国ブランド対策」をおそろかにしている。
的外れな投資を続ける百貨店
また、百貨店はコロナ明けのインバウンドで若干の巻き返しを図るも、レナウンの破綻のみならず、オンワードや三陽商会などの大量閉店が相次ぎ、数千店舗のテナントを失った。
結果、地方では売場面積を埋められない状況となり、駅チカなど一等地の百貨店はインバウンドとリベンジ消費の一部を囲い込むも、本質的なビジネスモデルの改革には至っていない。
また、マネタイズの方法などがいまだ見えないメタバースなどを、
進む日本買いと外資に奪われる日本の宝
アパレル=オワコンという根拠のない空気とバブル期から数えて2度目の「1ドル=150円」という超円安も手伝い、ブランド力や価値のある不動産の「日本買い」も進んだ。
PEファンド(Private Equity Fund おもに、非上場株を買い上場させることで利ざやを稼ぐ投資会社)は、立て続けに日本企業を買収していった。
T-CAP (ティーキャピタルパートナーズ)はストライプインターナショナルを買収。続いて、ヨドバシ・フォートレス連合による西武・そごうの買収があった。そして、極めつけは、巨額の2000億円で、ベインキャピタルがマッシュスタイルホールディングスを買収した。
日本政府の放置プレイによりSDGsがアパレル企業を殺してゆく
このようなアパレル業界に押し寄せたのがSDGs(持続可能な開発目標)である。
私は、SDGsを否定する立場ではないが、この世の中の大きなうねりの裏には、「米中経済戦争」があったということを理解しておきたい。
「環境破壊第2位の産業」という汚名を着せられたアパレル業界を、日本政府は見捨てたかのように無視を決め込んだ。どっちつかずの態度を取った結果、どの企業も山のように中国綿糸を使ったシャツなどを輸入しているにも関わら
このように「国家」から「企業」が攻撃を受ける時代になった。何をしようが全く環境破壊にも人権侵害にも関係ないほどの小粒な日本の零細アパレルが、原料組成からトレーサビリティを約束し、原料代が通常の3倍もするような素材を使わざるを得ない状況に陥った。。それでも、上代を価格に転嫁することはできず、ロシアのウクライナ侵攻と円安による原料高のダブルパンチとなり、赤字が相次いだ。
さらに、「消費者が必要なものだけをお届けする」という、そもそも無理な約束をした結果、現場では「無駄なQR」が加速し、工場の稼働率を低くしてしまった。その結果、海外工場は儲からずに手間ばかりかかる日本向けの仕事を敬遠するようになり、「日本向けのリードタイムは半年から一年」が常態化。アパレルの発注は一年前に行う「丁半博打」と化し、いっそう余剰在庫が増えたのである。直貿比率をあげていったアパレルほどリードタイムが長くなり、SDGsが反作用を起こした年だった。
2023年のアパレル産業の行方 概要
このように、2022年の課題を分析すれば、23年度に日本のアパレル企業がすべきこと、進む道はきわめて明確だ。
ひと言で言えば、似たような企業が工場、素材、物流などのサプライチェーン、加えて人事、総務、経理などのバックオフィスを共有化し、産業効率を上げて最低コストを実現しながら、日本の東京、神戸などのファッション感度の高い都市を「ショールームシティ」とし、成長著しいインドネシア、タイ、ベトナムなどで売りさばく、いわゆるTokyo showroom city戦略で成長することだ。
「シーインの逆モデル」もありうる。また、D2Cによる越境三国間ECを組み立てるのも一案だ。それもグローバル基準の本当のD2Cだ。
世界で日本のブランドが受けているのは、無印良品のような「禅」の世界を連想させるミニマリズムの境地のものか、TOKYO BASEのように、コンテンポラリーモードともいえるファッションのいずれかである。
こうした分析をしっかり行い、海外の成長市場で日本の衣料品が差別的に評価されているポイントを明確にする。前回紹介したようにAIを使えば、「売れ筋」から、我々人類が見たこともないようなデザイン企画がいくらでも量産できる時代なのだ。日本的テイストをパラメータ化し、無限に「日本的ヒットアイテム」を量産できる。
これが、楽観シナリオだ。ただ、そう簡単にはいかないのが、がんじがらめのアパレル業界である。現実シナリオを見ていこう。
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勝ち戦を阻害する23年の現実シナリオ
しかし、23年のこうした勝ち戦を阻害するものがいくつかある。
一つは「老害」による「バブル時代への執拗なまでの固執」だ。
アパレルに生息する「老害」は、デタラメなKPIをいまでも使い、変えようとしない。自分の派閥をつくり報復人事を乱発する。商社の「老害」はOEMに固執し、商社のビジネスモデルを変えようとしない。というより、その不勉強から変え方が分からないのだ。
その結果、アパレルは進む円安と人口減少、SDGs対応によって赤字続きとなり、幾度もリストラを繰り返す。トップラインの落ち込みが治っていないにもかかわらず、リストラ黒字で再建したとうそぶく人もでる出てきたほどだ。
こうした「老害」の結果、アパレル産業の基本的な「負け構造」、つまり、進まない世界化とDX、商社や企画会社をいれた異常に長く複雑なサプライチェーンによって、この5年でジワジワと赤字が膨らむだろう。そして、正確に世界の潮流を読めるアパレル企業との差が開き、「生き残るアパレルと死ぬアパレル」がさらに明確になり、多くのアパレルの事業価値が下がってゆく。
こうして、「死にかけたアパレル」は外資ファンドに買収され、日本買いがどんどん進んでゆくだろう。日本にPLMを入れられる企業など商社もいれて20社もないのだから、混乱を極めたPLMによるエコシステムは失敗に終わる。
また、ROIがそもそも成立しない(=投資に見合わない)ことがわかり、PLMベンダーは日本から徹底する可能性もある。私はいっそのこと国が
結局、進化していくのはライブコマースやリッチコンテンツによるECの高度化だけだ。
しかし、こうした技術も、“3周”先を走る中国企業の前には無力だ。彼らはAR (拡張現実)によるバーチャル試着やスマホやタブレットを利用した採寸技術と組み合わせ、地方都市の過疎化しつつある町で無店舗販売を行い、日本のアパレルはまた度肝を抜かれることになるだろう。
勝ち筋が見えているのに「大人の事情」が邪魔をする
このように、23年は勝ち筋が見えているにもかかわらず、「大人の事情」で、企画、生産、流通という重要な部分のDXは失敗を繰り返し、販売領域のみ進化してゆくという結果となる。
また、多くのアパレル企業は外資企業か、ファンドに買収され、ロールアップ(小さい企業を束ねて大きくする)するか、世界化、あるいはDXを外圧で実行させられることとなる。
そして、いきなり出現する中国の怪物デジタル企業に対し、経営陣を総入れ替えし、業界外のプロ経営者が経営の舵取りをするアパレルが、戦いを挑むことになるだろう。
百貨店は、地方はゴーグルをつかったバーチャル店舗、中間地点はデベロッパーとなり、元の百貨店業務は一等地だけになり、大きく数が減少する。インバウンド需要も、中国のゼロコロナ対策によって遅れ、思ったほど成長の果実を味わえるわけではないだろう。
商社は、総合商社は伊藤忠商事一強で、あとは丸紅が少量を受け持つ。残りは、専門商社が細々とOEMを続けるが、先進的専門商社はOEMから脱退し、ブランド開発やアパレルへのファイナンス、世界化の手伝いをしながら何が商社の生き残りのための業務かをあれこれトライすることになる。
以上が私が描く、2023年の「楽観シナリオ」と「現実シナリオ」だ。このどちらかに揺れながら、この一年が過ぎてゆくことになるだろう。
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プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/