ESG(環境・社会・ガバナンス)経営が、これまでとは比較にならないほどアパレル産業にとって重要となり、もはや無視できないほどになってきた。
私は、ESG経営とは、
しかし、地球のどこで生産されているのか掴むことさえできないほど複雑になったサプライチェーンは、早晩トレーサビリティ(透明性)責任が課せられ、DX(デジタル変革)によるEC化と相まって、結果としてD2C(Direct to consumer 製造業が消費者にデジタル技術を使って直販するビジネスモデル)化が加速することになる。しかし、その結果われわれが直面する「事業リスク」
環境規制が進めば、アパレルの
自社工場化も進む
国内アパレル産業の市場規模はついに8兆円を切り、もはや、人口減少と実質所得の低下だけではアパレル不況を説明できなくなった。加えて、SDGsの広がりは、既存アパレル業界にとっては、ネガティブ要因にしか働かない。「買い替え需要の長期化」と「二次流通の大きな拡大」を助長したことは、いまさら定量的に証明する必要も無いだろう。
しかも、SDGs対応について多くの企業はIR活動やPR対応と考えてい
SPA(製造小売)であり自社ブランドで販売している以上「
SPAにも関わらず製販分離が進むアパレル産業
過去論考で書いたように、アパレル企業は企画の「立案」機能を川中、あるいは、川上に外注してきた。今でも、アパレル企業の企画立案の「トリガー」(きっかけ)は「工場への訪問」が起点だ。だから、デザイナーという職種は商社や工場に生息し、
イタリアや韓国の歴史を見ればこうした構造は明らかで、イタリアはフランスの、そして、韓国は日本の企画機能を取り込み、イタリアは世界へ、そして、韓国は中国大陸へ「ファクトリーブランド」として力をつけていった。これに対し、日本は安い人件費を求め「南下政策」(コストの安い国へ生産拠点を移転)を推進した。技術承継も5年ごとにリセットした結果、産業の空洞化を招いた上、戦前戦後日本を支え今でも世界で有数の技術力を持つ繊維・テキスタイル産業が日本から消えようとしている。米国のように、産業を金融とデジタル技術にダイナミックに移転しようという国家戦略があるなら話は別だが、そうではない。むしろ素材産業は日本が国際競争力を持つ最後の技術だし、非衣料品分野の世界市場規模は成長しているのだ。
早くも3刷!河合拓氏の新刊
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」好評発売中!
アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。
D2Cがもつ余剰在庫リスクとは
いかなる変化にも、必ず「必然性」と「トリガー」がある。今、D2C という名を見ない日がないほど「D2C」というワードがあちこちで踊っている。今も昔もアパレル業界に「中間流通を外せばコストは下がる」という発想があるからで、これは上記に上げた「南下政策」と無関係でない。
しかし、アウトソーシングというのは、本来は、その機能が競争優位の源泉であれば、例えコストが高くとも内製化すべきだ。単ににコストだけでものを考えるから、気づけば全てが「空洞化」するのだ。持つべき機能を外注化すれば、短期的利益を求めても中長期にジワジワと競争力を削いでゆく。こうした日本市場の歴史の必然的結果として生まれたのが日本のD
工場が企画機能をもち、縮小著しい日本の小売やアパレルに供給を繰り返していても業績は下降線を描くだけである。当然、彼らはなんとかしたいと思いダイレクトに消費者に販売したいと考える。今ECモールさえあれば、日本中、いや、世界中の消費者に商品が届けられる。こうして、あちこちに無数の工場のECサイトができあがったのである。これをD2Cと呼ぶかどうかは読者の判断におまかせしよう。
ポイントは「返品在庫の拡販機能」 中間流通の価値を考えよ
D2Cにより、
工場のKPI(重要業績指標)は稼働率で、生産活動を休転させればCMT (工場の工賃)が跳ね上がる。バイオーダー生産をすればよいではないかというが、流れ作業とセル型バイオーダー生産は、工場をゼロから作り直すほど工程の再設計と設備投資が必要だし収益管理も全く別次元の手法が必要となる。
工場側からすれば、「当然、出荷した商品は買取してもらう」と考
私は正真正銘、越境D2Cである中国Shein(シーイン)モデルを日本でやればよいと考えている。幸い、円安基調で輸出にとって追い風だし、この国の産業政策では金利も当面上がりそうもなさそうだ。
さて、このように、
早くも3刷!河合拓氏の新刊
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」好評発売中!
アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)