焦点:経済安保、対応急務も企業は手探り 人材難で支援ビジネスも

ロイター
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都内のオフィスビル
11月15日、経済安全保障が西側諸国の最重要課題の1つとなり、日本企業も専門部署を立ち上げるなど対応を迫られている。都内のオフィスビルで2020年5月撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 15日 ロイター] – 経済安全保障が西側諸国の最重要課題の1つとなり、日本企業も専門部署を立ち上げるなど対応を迫られている。共産圏に機微技術が流出しないよう管理していた冷戦時代よりも複雑さは増し、グローバル化が進んだ今はサプライチェーン(供給網)や資金の流れ、サイバー空間などにも目を配らねばならず、必要な人材を揃えて態勢を整えるのは容易ではない。企業の多くは手探り状態で、それを支援するビジネスも立ち上がり始めている。

今年10月に誕生した岸田文雄政権が担当大臣を新設し、経済安保への取り組みを看板政策に掲げる1年前、三菱電機は経済安全保障統括室を立ち上げた。社内から集めたおよそ10人が、国内のグループ会社に配置された約1000人とネットワークを構築し、日々情報をやり取りしている。

米国が制裁を課す企業が製品の販売先に含まれてないか、輸出規制が新たに追加された品目はないか、半導体など重要部品のサプライチェーンに脆弱(ぜいじゃく)性はないか、扱う対象は幅広い。

空調や昇降機、家電などの民生品だけでなく、防衛装備品や宇宙事業も手がける同社は、これまでも輸出や調達、法務などのリスクをそれぞれの部署で管理してきた。しかし、国際情勢の変化とともに経済安保の概念が拡大し、複合的な対応が必要になった。統括室が各部署と連携しながら経済安保に関連しそうな情報を収集・分析し、いずれリスクとなりうる事象に携わる部署を巻き込むなどして対応に当たっている。

「起きてからのリスク対処だけでなく、リスク事象が起きるかもしれないことを予見して、その影響をミニマムにするためのリスク制御の機能にもなっている」と、日下部聡常務は説明する。

経済安保への取り組みが不可欠となったのは、2018年ごろから先鋭化した米中対立が主なきっかけだ。三菱電機も20年8月20日に公示された米国のダイレクト・プロダクト・ルールにより、中国の華為技術(ファーウェイ) が5G機器に使用する半導体のうち、米国技術を使用しているものの供給が出来なくなった。これは現在も続いている。

冷戦の崩壊と経済のグローバル化で、中国やロシアなどの企業もサプライチェーンや取引先に組み込まれた。だが、再び世界が分断へ逆戻りを始め、禁輸リストが突然公表されるなど、すでに出来上がったネットワークの中にいきなり壁が現れるようになった。「いくら壁を立ててもサプライチェーンはつながっている。全部分断できるかというとそうではない」と、日下部氏は言う。壁の高さや継続性の見極めも、企業がビジネスモデルを構築するうえで重要な判断材料となってくるという。

官と民の知見、経産省OBが責任者に

三菱電機は多くの機微技術を扱ってきた企業だけに、専門部署を立ち上げてシステム化するのも早かった。だが、デジタル化の進展で産業の垣根は低下、「CASE」と呼ばれる自動運転などの技術が急速に広がる自動車業界も対応を迫られている。

デンソーは今年1月、経済安全保障室を新設した。「自分の会社の事業が『虎の尾を踏まないように』、『虎の子の技術が流出しないように』ということなので、当然対応しなければいけない分野」だと、横尾英博・経営役員は話す。

これまであった輸出管理の部署が中心となったが、経済安保の難しいところはその幅の広さや刻々と変化する世界情勢が影響する点にあり、企業は全体を把握できるスキルを持った人材の不足に悩んでいる。

横尾氏は「輸出規制だけでなく、技術の規制、投資の規制もある。判断する時には、国際政治の知見、地政学という知見もいる。バランスを持った知見の方はそんなにいない。人材は課題」と指摘する。

三菱電機とデンソーに共通するのは、日下部氏と横尾氏という経済産業省のOBを責任者に据えている点だ。 横尾氏は1991年に改定した日米半導体協定の交渉を担当した。日下部氏も、官民両方の経験が「プラスになっている」と話す。

経済安保の受講者が大幅増加

業務委託先の中国で個人情報が閲覧可能になっていたLINEや、新彊ウイグル自治区で生産された綿を使った疑いがあるとして米国がシャツの輸入を差し止めたユニクロのようなケースが出る中、自社の知見やノウハウだけでは対応できないと感じる企業は多い。こうした企業への支援サービスを提供するビジネスも立ち上がりつつある。

IT企業のFRONTEO は、人工知能(AI)を使って独自に編み出した手法でサプライチェーンなどのリスク分析や解決に向けた提案をしている。取引先は自動車や素材メーカー、商社、製薬企業など幅広い。今年4月に初めて経済安保の勉強会を開催した際は10─20人程度の参加だったが、現在は150─200人にまで増えた。問い合わせは毎日受けており、民間からも公官庁からも関心は高い。

「日本の企業が新たな国際秩序の中で事業を持続させ、人権問題などの経済安全保障におけるリスクを回避し戦略を立てることができるよう貢献したい」と、守本正宏社長は言う。

サイバー攻撃に対応するための人材育成も急務で、講座を開いている大日本印刷によると、16年3月期に20人だった受講者は、今年度は1184人にまで増加した。サイバーセキュリティ事業推進ユニットのアグナニ サンジェ氏は、「官公庁やIT系企業が多かったが、直近では、食品メーカーや飲料メーカーなどにも広がっている」と話す。

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