前回「SCは差別化を狙うな」と主張し、「差別化」は間違った戦略であることを解説した。今回改めてSCの競争戦略を体系化して伝えるとともに、唯一、特定のSCの立ち位置においてのみ競争戦略が有効であることを解説したいと思う。
差別化への過信
マイケル・ポーターが指摘した競争戦略は、広大なアメリカの大地において大量の消費財の流通・消費を前提にした時、その力を発揮する。しかし、ショッピングセンター(SC)は地域性の強いビジネスである。特に日本のSCの商圏は、食品スーパー(SM)を中心としてネバフッド型SC(NSC)で車で10分圏、リージョナル型SC(RSC)でもドライブタイム30分~40分が精一杯だ。
刺身を食べる国民が1時間も2時間もかけて車で食料品を買い物に行くのは現実的ではない。GMS単体では商圏1.5kmと言われるぐらい日本の商圏範囲は狭い(具体的な距離は立地環境や道路付きで大きく異なる)。そのくらい買い物場所と住まいとが近接しているわけだ。そのため、1次商圏、2次商圏、3次商圏にあるニーズこそが各SCにとって、全ての成功の根源になる。
要するに競合との差別化よりも、商圏に存在するニーズとウォンツにこそフォーカスすべきなのだ。
小商圏型SCの戦略
これまで我々が机上で学習をしてきたマーケティング理論の「R-STP-MM4P-I-C」*の手順に異論は無い。ただ、SCという地域性の強いビジネスにおいて、限られた商圏という概念は一般的なマーケティング理論において、これまであまり目にしてきていないのでは無いだろうか。
*[R] Research(市場調査)
[STP] Segmentation, Targeting, Positioning(市場分割、ターゲティング、ポジショニング)
[MM4P]Marketing Mix(マーケティングミックス)、4P(製品・価格・チャネル・プロモーション)[I]Implementation(実行)、[C]Control(管理)
しかし、SCには商圏が存在し、前述の通り、着目する範囲(立地、地域、エリア等)は限定される。ということは、そこに存在する競合相手を考えることも重要であるものの本当に重要なのは、商圏に在住する消費者とSCに来店(来場)する顧客にある。とするとポーターの基本戦略(図表2)はあまりに大雑把であり、日本のマーケットではもう一工夫が必要になることが分かってくるだろう。
差別化の脆弱性とSCの競争地位別戦略
前回はSCがとってきた「差別化戦略」とは競合と立ち位置(ポジショニング)を変えることや異なることを行うことで競合との競争を回避しつつ消費者に目新しさを示し注意を引くことであると解説した。
しかし、その「目新しさ」は本当に消費者が望んでいるものなのか、それとも競合との差別化を意識するあまり、消費者のニーズそっちのけで無理矢理作った新業態、どちらなのだろうか。もし、後者であるなら、消費者は当然指示しないだろう。物珍しさから最初は良くとも、すぐに飽きられる。「差別化信仰」の名の下に、この繰り返しに陥ることが最も危惧するところなのである。
では、SC戦略では全く「差別化戦略」に取り組まないのか。実はそうでも無い。たった一つだけSCにおいて差別化戦略が有効なケースがある。それを競争地位で説明しよう。
どんな製品にも事業にも、その分野や業界の中で覇者もいればそれに挑戦しようという者もいる。その一方で誰も狙わないような狭い(ニッチ)なマーケットで生きていくことを選択する者もいるし、あえて危険を冒さず周りを見回しながら自らのポジションを取り続ける企業もいる。
これが競争地位の考え方だが、これはSCにも当てはまる。商圏という限られた範囲(エリア)の中で自らの競争地位が明確になれば戦略も自ずと決まってくると言うことになる。
ではSCはどのように競争戦略を立て、実行すべきだろうか。私は以下の4つのタイプに自社SCを分類し、それぞれの立ち位置に応じた、対応をすべきだと考える。
①リーダーSC
商圏内で最大のSC。戦略は総合的な品揃えあり、挑戦者への同質化であり、非価格対応となる。
②チャレンジャーSC
リーダーSCの存在を認識し、あえてその地位を奪取しようという挑戦者SC。地方で既存SCの近接に大手モールが進出するケースがこれに当たる。
③フォロワーSC
冒険を好まず一定の利益を得ることで継続的な経営を目指すSC。実はこの生き方のコスパが一番高い。
④ニッチャーSC
誰も狙わないニッチな市場で生きていくSC。過去、ギャルをターゲットにした渋谷109がその典型だろう。この戦略はマスを狙わないため客数では無く客単価と参入障壁が重要となる。
差別化戦略が有効な唯一の場面
図表3 SC競争地位
類型 |
リーダーSC |
チャレンジャーSC |
フォロワーSC |
ニッチャーSC |
SCの特徴 |
商圏内で最大のSC、市場占有率No.1 |
リーダーSCに挑戦、市場占有率拡大を狙うSC |
現状の位置を維持。冒険をしないSC |
誰も狙わない分野に集中するSC |
戦略 |
フルライン、同質化、価格競争を回避 |
リーダーの真似、同質化、一部差別化、正面攻撃 |
目立たない、同質化、模倣化、低価格化 |
集中化、特定市場でのリーダー、単価志向 |
目標 |
市場シェア、利益最大化、名声、イメージ |
市場占有率拡大 |
現状維持、安定と継続、一定の利益 |
特定市場での利潤、イメージ、コアな顧客 |
では、SCが差別化を採用する唯一の場面を説明しよう。SC競争地位(図表3)のチャレンジャーSCに「一部差別化」と赤字で表記している箇所があるが、競争戦略にあって差別化戦略を採れるのはここだけとなる。
チャレンジャーSCはリーダー地位を奪取するためにリーダーSCを上回る総合的な品揃えを行わなければならない。しかし、リーダーと同じ総合的な品揃えを行ってもリーダーSCにロイヤルティを持つ顧客はこちらに振り向いてくれるとは限らない。そこでリーダーSCとわずかの差別化をすることで顧客の注意を引こうとする。これが一部差別化と表現したゆえんである。
差別化は目的では無く結果
これからコロナが明けるがその影響でさらに人口は減る。その時、何が必要なのか。それは競合を見ることではなく、商圏の住民、SCへやってくる顧客をしっかりと見ていくことに尽きるのである。
2018年をピークにSCは減少に転じた。恐らく、このままではECに推されて厳しい経営となるだろう。その時、支えてくれるのは目の前の顧客に他ならない。彼らの意思をしっかりと経営に取り込んで欲しいと思う。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒