「アマゾン・ブックス」の凄みがわからなければ、デジマの本質は理解できないといえる理由
アマゾン・ブックスが提供する”顧客体験”の価値
では実際にアマゾンブックスはどのような顧客体験を創出しているのだろうか。
そもそもアマゾンは「地球で最もお客さまを大切にする企業になる」ことをミッションとしており、創業者のジェフ・ベゾスが紙ナプキンに書いた「善の循環」が現在のサイトでも確認できる(https://www.amazon.jobs/jp/landing_pages/about-amazon)。「Customer Experience(顧客経験価値)」が「Traffic(集客)」を生み、「Growth(売上向上)」の循環に入るというフローである。
ではこの顧客経験価値はどのように実現されているのだろうか。ECサイトとしてのアマゾンの魅力は品揃えや配送のスピードもさることながら、検索性の高さやレビュー、レコメンドといったデジタル価値を最大限に使えることにある。
これらの強みがアマゾン・ブックスというリアル店舗にも活用されているため、商品の並び方や選び方に特徴があるのだ。例えは、「この本が好きな方にさらにおすすめしたい作品」といったようなレコメンド専用の棚や、アマゾンユーザーからの評価(星)が4つ以上の本を集めたコーナーなど、アマゾンが収集した膨大なデータが棚割りに活用されている。
同時に、売場に並ぶほとんどの本にはレビューの抜粋が記されたPOPが貼付されており、QRコードを読み取ればスマホ等でそのほかのレビューも閲覧できる。従来のような販売数をベースとした「ベストセラー」を推すのではなく、実際に読者が「読んでよかったかどうか」を売場で伝えているわけである。
アマゾン・ブックスにおける顧客体験データの活用はこれだけに留まらないのが凄いところで、このほかには「Highly Quotable(ハイライト(アンダーライン)が多く引かれた本」や「Page Turner(3日以内に読み終わってしまうほどおもしろいい本)」といったテーマでの提案も行っている。これらはアマゾンの電子書籍「キンドル」などから取得したデータをもとにしたものだ。実際、ビジネス書であればアンダーラインがたくさん引かれた本は魅力的だし、多くの人が一気に読み終えてしまうような小説はぜひ読んでみたいと思うだろう。
ここまででアマゾン・ブックスが、従来の「求める本を見つけたい」というニーズには検索性の優れたECで対応し、リアル店舗はデジタル接点で集めたレコメンドや体験データをもとに、「新しい本との出会い」を生む場としてデザインされていることがお分かりいただけたと思う。
アマゾン・ブックスがキッズコーナーに力を入れる理由
しかし、アマゾン・ブックスについてもう1つ見落としてはいけないポイントがある。それがキッズコーナーの充実だ。
日頃ほとんどの本をアマゾンのECで買うようなヘビーユーザーであっても、「子供に買い与える本」となるとどうだろうか。実際に本屋を訪れ、「どれが読みたい?」などと子供に聞きながら選ばせることが多いのではないだろうか。
こうした購買行動が主流であるがゆえ、アマゾンにとっては「キッズ」はデジタルの強みが生かしにくい(データが集めにくい)セグメントであったと推測できる。その意味でアマゾン・ブックスは、そうした顧客との接点を持つための場としても大きな役割を果たしているのだろう。店内には子供向けのキンドルも販売しており、小さいころからアマゾンのデジタルツールを使ってもらいたいという思惑も透ける。