ECチャネルなど存在しない!「ECは常にポケットの中」の現実が招く悲劇

河合 拓
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ECは決済場という変わらない本質的機能要件

 私は、EC、リアル店舗、そして、コンビニや郵便局をそれぞれ、決済場、体験場、受取場に再定義せよと説いてきた。

 つまり、これからはあらゆる小売産業が隣接事業に進出し、アパレルがカフェをやり旅行業にまで拡張する。ホームセンターが生鮮食品を売り、小型店舗を出すなど、商品政策(MD)による産業分類は無意味となる。百貨店は百貨店城下町の文化を支える人が集う場となり、ディスカウンターは、正規品のプライスアンブレラ(正規価格の傘)の下で、商品を値引き販売し、ブランドが正規価格で粘れば粘るほど希少性が拡大し、大切に使われた商品を二次流通企業が買取り大儲けする。このように、すべての小売、流通産業が立体的に交差し、競合の動きを予測しなければ競争負けする時代になっている。 

 しかし、変わらないものはある。それは、リアル店舗は「体験」を提供、ECは「決済」を提供、そして、ラストワンマイルは宅配ボックス、コンビニ、郵便局などが候補となるだろうという本質的機能要件だ。このような産業のデコンストラクション(作り直し)がテクノロジーの進化によってなされるとしたら、企業のバリューチェーンやお金の流れは大きく変わってゆく。商品と逆方向にお金が動くなどというのも化石時代の発想となり、南下政策の行き着く先として、広告のように企業はお金を全く別の企業からもらい、調達コストがゼロとなる時代も来るかもしれない。

  今、アパレルは「ディスカウントしない」ことを掲げているが、こうした取り組みは過剰仕入をし、余った在庫をオフプライスストアで叩き売られる構造を変えなければ、やがて、自分達が客寄せパンダになってゆく可能性がある。

 したがってアパレル企業は、消費者起点に立ったベネフィットを考えることが必要になる。例えば、車であれば外国車の新車だと3年から5年の無料点検と修理がついているが、中古車なら半年がせいぜいだ。これと同様にアパレルにおいても、正規価格で買ってくれたお客を思い切って優遇する施策が重要だ。例えば、新商品がマーケットに出る前に優先的に販売する他、コートなどの重衣料では、色の塗り直しや補修、再プレスや無条件の新品交換などの3年保証を行うなども考えられる。

 例えば、私はカメラが趣味なのだが、カメラ業界ではマップカメラという企業が面白いことをやっている。ここで新商品や中古品を買ったら、買取を3%アップするという買い取り優待券を配っており、高価なレンズやカメラも臆することなく買ったり売ったりできるのだ。www.MapCamera.com

   今、アパレルに必要なのは、やがて購買の中心となる世の中の消費者の動きをしっかり観察することだ。そして、そこから想起されるリスクをつぶさに挙げるとともに、他産業でそれらリスク対応を行っている事例をベンチマークする。最後に、マクロ的な考察から競合の動きを先読みし、自社のビジネスモデル改革を行う、あるいは、自社に取り込むことを行うべきだ。

 

*河合拓単独ウェビナー後半 個別企業の戦略と改革編 を10月27日に開催! 

講演テーマは「アパレル産業の今と未来」第三段階
日時:10月27日 10:30-
時間無制限で、個別企業のMD、余剰在庫、EC、参加者との徹底討論をしたいと思っています。お申し込みは、こちらまで
https://ameblo.jp/takukawai/entry-12701203940.html

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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