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倉林武也のインサイト入門④つい買ってしまう!ショッパーインサイトから新しい商品や売上をつくる方法

店舗テナントの画像

前回、インサイトを掘り下げる際、その対象が「ショッパー(買い物客)」である場合に、「売場」といった環境や場の理解が大事だという話をしたところ、記事を読まれた方から、「『場』とはスーパーマーケットなどの量販店やコンビニエンスストアなどの店舗を指しますか?」との質問を受けた。

商品やサービスとの接点になる「場」は、業種業態(事業の種類や売り方)など様々なチャネルの売場になる。ただし、それは量販店や個店という括りに限らない。例えば、自動車の販売店(ディーラー)や保険の見直しショップ、銀行の窓口、駅ナカの売店や空港のテナントなど、ありとあらゆる場所を指す。

今回はこの「場」とショッパーのインサイトを上手に捉えたことで、新しい商品や売上をつくったケースを紹介する。

出張先や訪問先への手土産を、駅の売店や駅ナカで選ぶときのインサイト

 皆さんは出張などの際に、得意先へ持参する手土産を買い求めたことはあるだろうか?
 私もコロナ禍の前までは新幹線を頻繁に利用しており、時々訪問先に手土産を持参したことがある。駅の土産物コーナーでは同じ様に、出張や仕事の移動途中に土産物を物色する人の姿を見かけた。有名店の暖簾や「売上No1」と示されたPOPなどに目移りするが、そうした売場の中に駅の土産を買い求めるビジネスマン(ショッパー)のインサイトを捉えた商品がある。

 その商品は金色の包装紙に「西宮神社奉納えびすフィナンシェ」と描かれた白い帯が付いていた(写真①)。この商品はアンリ・シャルパンティエの店舗限定の商品。

 関西の方ならご存知かもしれないが、西宮神社は福の神として崇敬されている「えびす様」をおまつりする神社の総本山。毎年1月10日に開催される開門神事(かいもんじんじ)福男(ふくおとこ)選びでも有名な神社だ。早朝の開門と同時に勢いよく神殿を目指す姿は、ニュースでも度々取り上げられている。

 えびすフィナンシェは、食べる方の商売繫盛と幸せを願って、この福の神「えびす様」を祀った西宮神社に奉納してできたお菓子。駅の土産物コーナーで、数多くの商品の中から自社の商品を選んでもらうことは非常に難しいこと。その中で、駅や土産物コーナーを利用する目的とビジネスマンのインサイトを掘り下げると、このえびすフィナンシェの発想になる。

 販売する土産物コーナーは新大阪駅の新幹線の改札。コロナ禍以前は年間を通してビジネスマンの往来の多い場所だ。ここを通過や利用するビジネスマンのインサイトには、次の様なものがある。

 「お土産選びはいつも悩んでしまう」「得意先に喜んでもらえたり、印象に残るものを買いたい」「ついつい山積みされている土産の中から選んでしまう」

 そうした悩みやインサイトを捉えた時に、「贈られた人や会社の商売繁盛を願う土産」は、土産選びに悩むビジネスマンの心のボタンを押すことになる。

写真① フィナンシェはフランス語で「金融家」という意味を持っており、ビジネスのシーンから生まれたお菓子。食べる方(得意先)の「商売繫盛」を応援するお菓子と言う文脈は、贈る人(ショッパー)と贈られる人の両者のインサイトにつながる。

ウェブサイトで手土産を選ぶときのインサイト

 次はウェブサイトにおける展開から見ることにする。皆さんがウェブサイトで買い物をするのは、どの様な商品や場面だろうか?急ぎの買い物や消耗品の補充、書籍など、実店舗で買うこともあればネットを利用して「衝動的」にマウスをクリックすることも想像できる。ウェブサイトでの販売を運営する企業においては、こうした「ネットで購入される商品とその訴求の仕方」は、売上や顧客をつくる上では最も重要なテーマになる。

 では、そのウェブサイトで「手土産」を購入してもらうためのショッパーのインサイトを活用した事例を見てみよう。

 写真②のカルピスの希釈用2本セットは、楽しそうなサーカスのデザインを施してネットで販売されていたもの。スーパーなどで販売されている通常のデザインのものに比べて価格はやや高い。だが、小さなお子さんのいる家庭へのギフトやお祝いの品と考えると、絵本の様なパッケージに愛らしいカルピスボトルが入っており、わざわざ店で悩んで選ぶよりも、このサイトで決めてしまう方が楽と思う人が多いことだろう。

 つまり、スーパーなどで販売されている商品も、パッケージや伝え方を工夫することで贈られた家族の笑顔が期待できる商品に変わる。これも、商品を選ぶウェブサイトという「場」と、そのインサイトを捉えたことで売上につなげた好例といえる。

写真② スーパーマーケットなどで販売されている商品を、ウェブサイトを見て商品を選ぶ人のインサイトを捉え、「贈られた家族の喜ぶ顔が見たい」を包装や伝え方に表したギフトに昇華。

本屋さんで本を選ぶ時のインサイト

 最後の事例の紹介は、印刷会社に勤めながら週末に家業の本屋を手伝う方が取り組んだ企画。出版不況で全国の書店数が減少する時代に、本屋で本を購入する人のインサイトを捉えて展開したのが、「オリジナルブックカバー」による取り組みだ(写真③)※。
※オリジナルブックカバーを使って、全国の書店を盛り上げたいとクラウドファンディングを実施

 クリームソーダ、アイスバー、焼き芋、フランスパン、富士山などをデザインしたブックカバーを、店頭で文庫本の購入者に無料で配る取り組みを始めた。EC化が進む中で、最も影響を受けたのが実店舗である本屋。その本屋で思わず購入したくなる心のスイッチを押したのが、このオリジナルブックカバーだ。

 既に多くのメディアでも取り上げられるこの取り組みは、向かい風の中にある本屋(実店舗)という「場」において、何が買い物客のインサイトを掴み、買い物の行動につなげるかを考えるヒントになる。

 この様にショッパーインサイトを掘り下げる際に、単に買い物客の気持ちや意識を捉えるだけでなく、その「場」の与える影響を重視する。

 出張をするサラリーマンであれば「駅の土産物コーナー」、ウェブサイトで買い物を選ぶのであれば「実店舗での買い物との比較」、本屋さんに来た買い物客であれば「そこで選ぶ理由」。買い物をする人の気持ちの中にあるものと、その「場」で生まれるものを、掛け合わせて考える必要がある。

写真③ 今やオンラインで購入する商品の代表とも言える書籍。書店で思わず買いたいと思うスイッチを入れる仕組みをオリジナルブックカバーで実現。