暑い時期に必ずといっていいほどグルメトレンドに浮上してくるのが「激辛アイテム」だ。今年も、飲食店やコンビニエンスストア、食品スーパーなどには最新の激辛商品がずらりと並ぶ。もはや夏の風物詩といっても過言ではない。この激辛市場は、長引く新型コロナウイルス感染症拡大によって変化しているのだろうか。
食のマーケット全体をみると、コロナ禍において外出や外食などの自粛が続くなか、いまだかつてないほど「テイクアウトグルメ」に注目が集まった。そこでホットペッパーグルメ外食総研では「激辛グルメにおける、自粛生活の影響とテイクアウト需要について」というテーマで調査を実施した。
5人に1人が辛い料理を
以前より求めるように
まず、自粛生活の影響を調べるべく「コロナ禍とそれ以前を比較して、外食の自粛の影響で刺激(のあるメニュー)を求めるようになったか」と質問した。すると、辛い料理が好きな人のうち43.6%が「そう思う」と答え、辛い料理が嫌いな人の31.7%の結果と10ポイント(pt)以上も差をつける結果となった。これは、辛い料理が好きな人は食事に刺激を求める傾向にあり、自粛生活でストレスを感じた際などにその傾向が強く出たのではないかと推察する。
また、「コロナ禍とそれ以前を比較して、辛い料理を食べたいと思う頻度が増えたか?」という問いに対しては、辛い料理が好きな人の22.2%が「増えた」と答え5人に1人が、コロナ禍において辛い料理を食べたい頻度が高まったと答えている。
一方、激辛メニューのテイクアウトについては、外出自粛が続くなか「テイクアウトでも辛い物が食べたいか」という質問に対して、辛い料理が好きな人の24.4%の人が「食べたい」と答えた。辛い料理が好きな人は、テイクアウトであったとしても辛いものを欲しているようだ。
コロナ禍で思うように外出が出来ないなか、辛い料理が好きな人にとっては「激辛グルメ」を楽しむこと自体がストレス発散に繋がっているのかもしれない。
広がるバラエティ
高まる辛みの度合い
ここからは、激辛ブームの歴史について簡単に触れ、昨今はどのようなメニューに人気が集まっているのかを解説したい。
激辛ブームは1980年代にはじまり、すでに30年ほどの歴史を持つといわれる。その発端は「カラムーチョ」に代表されるスナック菓子だ。これを第1次激辛ブームとすると、それに続く第2次激辛ブームは韓流ブームの影響もあり、韓国料理やタイ料理などのアジア系・激辛グルメがけん引した。
2000年代に入ると、「超激辛」ブームとして辛さの度合いが増し、なかでもスナック菓子をきっかけに、世界一辛い香辛料として知られる「ハバネロ」が話題になった。
また外食では、ラーメンチェーン「蒙古タンメン中本」の看板メニュー「北極」など、辛みが苦手な人では食べられないほどの激辛料理が一世を風靡し、これが第3次激辛ブームと言われる。
そして第4次では、シビレ系の辛みを特徴とする「花椒」をはじめ、柚子胡椒、わさび、黒コショウなど辛みのバラエティが広がった。それと同時に、第3次激辛ブームから辛みの強さがさらに“スーパーストロング化”していった。
こうした変遷を経て昨今では、ただ辛いだけではなく、素材にこだわった生スパイスや国産スパイスなどの辛みに注目が集まり始めていた。そんな矢先に直面したのが、コロナ感染拡大だ。これを機に激辛市場はさらなる成長の兆しを見せている。
不動の「カレー」「麻婆豆腐」
スパイス系の新メニューも!
では、直近ではどのような激辛メニューが支持されているのか。ホットペッパーグルメ外食総研で実施した調査「テイクアウトで食べてみたい激辛グルメランキングTOP10」の結果を見ていこう。
激辛メニューの人気ランキングは、18年、19年にも調査を行い、今回で3回目になる。過去2回とは異なり、今回はテイクアウトの激辛メニューに特化し調査を実施した。
結果は、前々回、前回同様に「カレー」「麻婆豆腐」が上位となった。コロナ禍において消費者の本質的な志向は大きく変わっていないことが分かる。この2つのメニューには、テイクアウトに適している共通点があり、人気の理由の1つになっていそうだ。
コロナ禍では進化したメニューも登場した。その1つが「スパイスカレー」だ。スパイスカレーの魅力は、その味はもちろん、さまざまなスパイスを使うからこその鮮やかな見た目が挙げられる。テイクアウトしたスパイスカレーを、自宅で自分なりに盛り付けて楽しむのもコロナ禍での食の楽しみ方の1つではないだろうか。
また、「テイクアウト」ならではの顔ぶれとして、第3位に「スパイシー味の鶏のから揚げ」がランクインしている。鶏のから揚げはもともと人気メニューであったが、コロナ禍で人気はさらに増している。から揚げの専門店が全国的に増加していることはご存じのことと思うが、このから揚げブームと激辛トレンドが掛け合わされた結果であろう。
長引くコロナ禍によって、テイクアウトを利用して激辛メニューを楽しむ日々が続きそうだ。しかし、激辛メニューを「辛い辛い」と汗をかきながら、みんなでワイワイ楽しむのは、外食だからこそのエンターテイメントの1つであると考える。再びそのような時が過ごせるように、外食シーンの回復を切に待ち望んでいる。
【アンケート調査概要】
■調査時期:2021年4月30日~2021年5月6日
■調査方法:インターネットリサーチ
■調査対象:全国20~50代男女(マクロミルの登録モニター)
■有効回答数:1107件(男性552件、女性555件)
【執筆者】
有木真理(リクルート『ホットペッパーグルメ外食総研』上席研究員)
㈱リクルートライフスタイル沖縄の代表を務めるとともに、ホットペッパーグルメ外食総研の上席研究員として、食のトレンドや食文化の発信により、外食文化の醸成やさらなる外食機会の創出をめざす。自身の年間外食回数は300日以上、ジャンルは立ち飲みから高級店まで多岐にわたる。趣味はトライアスロン。胃腸の強さがウリで、1日5食くらいは平気で食べることができる。