低成長のサステナブル経済へ移行 商社と合繊メーカーが生き残るたった2つの戦略とは

河合 拓
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合繊メーカーは商社と組み世界にでよ

 さらに、製造業である合繊メーカーは、製造業であるため「休転(工場などで機械の運転を休むこと)」を避け、可能な限り段取り替えを廃して効率生産をおこない稼働率を高めなければならない。QRの名を借りた、すったもんだにお付き合いしている暇など無いわけだ。私は、生産工場改革からマーチャンダイジング、ブランド開発からEC販売まで実務を経験してきた。交差比率が絶対指標の川下と、稼働率が絶対指標の川上を語れると自負している。だから、私の論考を読んでいる方は、時に混同し、「お前はどちらの味方なのか」と疑問をもつわけだ。しかし、私は、全体最適化されたバリューチェーンの話をしているのであって、どこか特定の領域の味方とか敵とか、そんな、レベルの話をしているわけではない。

 話を合繊メーカーの生き残り戦略に戻すと、サステナブル経済下において、こうした状況に対応するソリューションは論理的にいって2つしか無い。1つは、素材コンバータ機能を持つ商社と組んで、商社をハブにし自社生産の稼働を高めながら、商社に「小分け供給」を委託するというものだ。これは、瀧定名古屋、スタイレム瀧定大阪がその機能をもっており、彼らはグローバルSPAに直接アプローチもしている。

 以前紹介したPLMベンダーのMaterial Exchangeという世界中の素材のライブラリーに唯一掲載されていないのが日本の素材である。岡山のデニム、日本の梳毛糸など世界がうらやむ技術を日本は持っている。紡績メーカは、こうした商社と組んで販売力のある世界のSPA取引をシフトしてゆくことだ。くどいようだが、QRはもはや消化率をあげる手法ではない。単に便利屋遣いをされていないか、しっかりリテーラーの販売データをもらい、投入回数と消化率の関係を感覚でなくデータに基づき検証すべきだ。きっと、リアルな実態に驚くだろう。

 もう一つは、成長著しい東南アジアや東欧の「産業資材用途」の繊維供給を行うことである。実は、「産業資材用途繊維」は、世界市場で、年率5%程度成長しており、「環境破壊産業」とまでいわれている衣料品用途は、先進国では過剰供給になっており、途上国ではまだまだローカル素材が主流である。とても、日本が担いでいる素材を使うコスト吸収力は持ち合わせていない。こうした統計はハッキリとでているのに、なぜか日本の繊維産業は、「繊維と言えば衣料品」なのだ。カネボウのように、繊維から撤退し化粧品などの産業に移るのも一つの考え方だが、冒頭の「続・企業参謀」にも、多角化の範囲は、「自社の力の認識」と「他社(競合)との戦力の理解」の間に答えがあり、この問いに対する答えこそが、低成長下での最も重要な答えなのである。産業資材用途の繊維供給にネットワークがなければ、資源といえば商社、商社と言えば資源というほど、途上国開発に顔をだす商社と組むべきだ。

 このように、発想を変えれば、攻め入る先はいくらでもある。もちろん、こうした提言は「言うは易し行うは難し」であることは十分承知だ。また、ここにデジタル技術をどのように活用すれば、さらにサービスレベルを上げられるかというDX(デジタル変革)が加わってくる。海外の事例をよく研究していただきたい。「我が国は」「うちは、独特で」などというセリフをいまでも吐いているようでは先がみえている

 アパレル業界のバリューチェーンは、課題が山のように山積している。低成長下において、素人発想ほど危険なものはない。ちょっとのミスが企業に壊滅的ダメージを与えるからだ。「疑わしいコンサル」を信じられないのはよくわかるが、徹底してこうした議論を通し、信頼できるパートナーを見つけ、川中と川上は、川下で起きている循環経済と反する流通戦略を作り上げてもらいたい。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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