1992年に上梓された『Shopping for a better world』は、米国で瞬く間に50万部を売るベストセラーとなった。社会に貢献した企業ランキングの基準11項目を列挙すると
- 企業所得の何%を地域に還元したか?
- 女性の昇進度
- 白人以外の少数民族の昇進度
- 軍事産業とのかかわり
- 実験用動物の愛護度
- 公開度
- 地域社会への教育的貢献度
- 原子力発電への関与度
- (アパルトヘイトの存在する)南アフリカ共和国とのつながり
- 製品のリサイクルなど環境保護への貢献度
- 育児休暇など社会への貢献度
と並び、ずいぶん問題意識が高い、と衝撃を受けたことを覚えている。
1990年台の日本における「よい会社」とは
同じころ、『日経ビジネス』誌は、「よい会社」という特集を組んでいた。日本における「よい会社」の条件を綴っていくと…
- 時間外労働には対価が支払われる
- 大切な休みを社用で潰さない
- 上司への全人格的従属をせずにすむ
- 社襲制ではない(家系人事)
の4項目であり、米国との比較ではずいぶんと見劣りするものとがっかりさせられたものだ。確かに当時の日本では、120時間の残業をしたとしても、「残業代は上限20時間まで」といった暗黙のルールがあり、規模を問わず大抵の企業ではそれ以上はなかなか申請しづらい雰囲気が漂っていた。また、休日を使った社員旅行や運動会も厳然として存在し、断れば「協調性欠如」「和を乱す」などの理由で、人事評価にまで影響が及んだ。
だから、学校を卒業し、就職する企業を選ぶことはとても重要だった。しかし、学生の企業選びは「社会知らずの先生」や「会社知らずの母親」の意見が作用するところが大きく、その結果誤った選択をしてしまうことも多々あった。
現代の「よい会社」の条件– SDGsの遵守
それはさておき、いまの「よい会社」の条件を改めて考えてみると、やはり2015年9月の国連サミットで採択された「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標:SDGs)」の17項目の順守ということになるだろう。
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなにそしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基礎をつくろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任つかう責任
- 気候変動に具体的対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう!
1992年当時と現在の違いは、SDGsは世界共通の課題であり、1か国や1地域の孤立は許されなくなっているということだ。グローバル経済に組み込まれている中では、これらに反することは世界を股にかける機関投資家たちに否定され、不買運動につながり、企業の土台を根底から崩しかねない。実際、新疆ウイグル地区生産の綿使用や石炭火力関連企業とのかかわりがある企業などは、バッシングの嵐にさらされている――。
世界は本当に変わった。地球は1つという観点に立てば、もはやデカップリング(2国間の経済や市場などが連動していないこと)という考え方は幻想であることがわかる。