かつての拡大路線から一転、家電だけでなく、リフォーム、住宅、消費財まで生活全般をカバーする企業として、ヤマダホールディング(群馬県/山田昇CEO)は収益性を急速に回復させている。2021年3月期に1000億円近い経常利益をたたき出した一方で、株価が低迷する理由とともに、同社の今後の成長のゆくえについて解説していきたい。
新CMでイメチェンが進む!?
読者のみなさまはヤマダホールディングスの新CMをご覧になったでしょうか。あまりテレビを見ない筆者は、実はこのCMに感化された家族に促されてチェックしました。
「ヤマダは変わったな」
これが率直な印象です。
積極的に規模を追っていた時代のCMの「やまーだでんき」というフレーズがまだ耳に残る筆者には、「くらしをシアワセにする、ぜんぶ。」という現在の企業理念が新鮮に腑に落ちます。実際にどのような生活提案があるのか店舗に出かけてみたいという気持ちにさせてくれます。
もちろん同社がリフォームなどに注力していたことは知っていましたが、この新CMはこの路線を推し進めようという力作だと思います。
最盛期に迫る利益水準
印象が改まったのはCMだけではありません。
同社の利益水準も目を見張るほど回復しています。2021年3月期の経常利益は988億円であと一歩で1000億円の大台に届く水準になりました。
同社の経常利益の最盛期は2010年3月期から2012年3月期で、1000億円台を計上していました(ピークは2011年3月期の1378億円)。家電エコポイントと地上波デジタル移行の時期にあたります。
しかしその後約10年間にわたり経常利益額が350-660億円のレンジを行き来しました。
この経緯を振り返ると、2021年3月期の経常利益額に感慨を覚えずにはいられません。
模索の10年が続いた5つの要因
同社の業績が家電エコポイント後の10年間伸びなかったのは、業界構造の変化が複合的に生じたからだと筆者は見ています。いくつかあげてみましょう。
- 家電量販店業界の集約が進み、出店余地が少なくなったこと
- 家電エコポイントで需要の先食いをしたこと
- PCやデジカメの機能を集約するスマホ・タブレット端末が台頭し、その販売チャネルが通信キャリアチャネルであったこと
- 家電メーカーの集約が進み、サプライチェーンの主導権が家電メーカーに戻ったこと
- ECチャネルが定着したこと
こうした事業環境の変化に対応し、同社は買収による多角化を進めました。ハウスメーカーのエス・バイ・エル(現ヤマダホームズ)、建設会社のヒノキヤグループ、家具販売の大塚家具などがこれにあたります。
しかし利益面で際立った成果が見えず、試行錯誤が続いているなというのが正直な印象でした。
ヤマダ、持株会社制で進む体制整備
しかしこの試行錯誤が一旦終わったかもしれないと筆者が感じたのは、2020年10月の持株会社制移行とその後の体制整備です。筆者が特に気になっているのは次の点です。
– ホールディングスの社名に「電機」がないこと
- セグメントをデンキ・住建・金融・環境・その他に分け、傘下の子会社の整理を進めたこと
- 子会社トップの人事が信賞必罰と思われること
- IR全般が改善し、セグメントごとの業績開示が充実したこと
- ESG(環境・社会・企業統治)対応も明確になり、住宅・家電一体の省エネ対応やリユース・リサイクルの自社完結の道筋ができたこと
こうしてみると、2021年3月期は利益額が回復し、さらに経営体制が刷新される重要な年だったと思います。
それでも株価が低迷する理由
しかし株価の反応はまずまずといったところで、正直物足りなさも感じます。
さきほど述べた、経常利益がピークであった2010年3月期から2012年3月期の株価は大まかにいって450円から750円の間にありました。本稿執筆時点(7月5日終値ベース)の株価は512円。過去一年間での高値は625円ですので、利益の回復具合に相応しい株価であると思います。
しかし、久々に利益額が回復し、経営の方向づけもかたまりつつあるなか、株価の反応が冷静すぎる気がしないでもありません。
また、ROE(自己資本当期純利益率)がひさびさに8%台に復帰したにもかかわらず、PBR(株価÷一株あたり純資産)が0.65倍となっており、いわゆる解散価値を下回っていることが気になります。
この株価動向の背景は何でしょうか。
最もシンプルな理由は、2021年3月期の業績はコロナ禍におけるステイホーム・リモートワークおよび一時金による一過性の需要に支えられており、持続性がないのではないかという疑念によるものでしょう。
さきほど2010年代が「模索の10年」となった要因を列挙しましたが、足元の状況にデジャブを感じる投資家が少なからず居そうです。
実は同社は2022年3月期通期の業績予想について売上高・営業利益・経常利益が微減、当期純利益が横ばいという計画を提示しています。細かくみると、年度上半期は経常減益、下半期は増益となっています。
しかし、資本市場の予想のコンセンサスは10%台半ばの減益を予想しています。これは資本市場は下期の増益を信じていないことを示します。
当座はこの資本市場の疑念を払拭できるのかがポイントになります。
これに加えて、資本市場はその翌年の業績にも懐疑的です。
2023年3月期の資本市場の業績予想コンセンサスは、売上高・利益のいずれもが前年度比で微増程度となっています。
これでは株価の評価は高まりません。
一方、同社は今後、
- 既存店舗では、適宜業態を適地化させる
- 2021年下期より「暮らしまるごと」コンセプトの新規出店を年間30店舗のペースで推進する
- この結果、毎期+5%増収をめざす
という成長戦略を描いています。
こうした店舗戦略、とりわけ新しい店舗フォーマットの収益ポテンシャルをいつ明示できるのかが、非常に重要なポイントになると思います。
この先に、リカーリング(循環型)ビジネスを見据えているのか否か
筆者なりに整理してみると、ヤマダホールディングスは少子高齢化・EC台頭という潮流のなかで、家電最大手として店舗ネットワークの強みを最大化するために、非家電の品揃え・SPA化・リユース等の提供・付帯金融サービスの用意という品揃えとサービスの強化を進めており、いよいよグループ全体で攻める体制が整ったという段階にあります。
しかし残念ながら資本市場はまだ懐疑的で、それだけにこの戦略の成否には注目度が高まります。
そして、さらにもう一段先のステップとして期待したいのは顧客とのリカーリング(循環型)ビジネスの強化です。
顧客接点が店舗(およぼ同社ECサイト)であることは良いのですが、できれば、継続的に顧客とお金の接点が欲しいところ。たとえば、
- 家電・家具などのサブスクリプション(リース)
- 電気自動車と発電・蓄電システムのリース(
- 中小事業者に”オフィスまるごと”展開しリカーリング収益を獲得
繰り返しになりますが、現在の株価は解散価値を下回っています。その場合、アクティビストの関与が強まり、資本効率の改善を迫られ、投資機会が十分にない場合は株主還元に迫られたり、経営陣の交代を求められることはますます日常化しています。M&A(合併・買収)の標的になることも避けられません。
同社はすでにアクティビストの存在を意識せざるを得ない舵取りの経験があり、企業価値の増大に向けて手ぬかりなく取り組む必要性をよく理解しているはずです。
同社の攻めの打ち手が増えていくことに期待したいと思います。