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オイシックスドット大地 代表取締役会長 藤田 和芳
有機農産物を1兆円市場へ最大手として成長を牽引する!

自然派食品EC(ネット通販)のオイシックスと大地を守る会が経営統合し、2017年10月1日、新会社のオイシックスドット大地(東京都)が正式に発足した。新会社の年商規模は360億円で業界最大手となる。EC大手の参入など競争が激化する食品ECにおいて、新会社はどのように成長を図るのか。藤田和芳会長に聞いた。

トップ同士の交流が経営統合のベース

ふじた・かずよし●1947年岩手県生まれ。1975年に有機農業普及のためのNGO「大地を守る会」を立ち上げる。1977年に株式会社化し有機野菜の販売を手がける。大地を守る会代表取締役社長を経て、2017年10月オイシックスドット大地代表取締役会長就任

──オイシックスと大地を守る会が経営統合することを発表してまもなく1年が経ちます。両社はどんなことに取り組んできましたか。

藤田 2016年12月に経営統合の検討開始を発表し、17年1月から経営統合に向けて準備を開始しました。「Oisix」と「大地を守る会」の両サービスブランドは今後も継続させますが、配送や商品開発といった各部門で分科会を立ち上げ、経営統合のシナジーをできるだけ早く生み出すための準備を進めてきています。

──新会社で藤田会長はどのような役割を担いますか。

藤田 日々の経営については、高島社長が取り仕切ることになっています。私はどちらかというと対外関係や、従来の大地を守る会における生産者との関係強化や、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)活動などを担いながら高島社長をサポートしていきます。

──あらためて、両社が経営統合するにいたった経緯を教えてください。

藤田 高島社長とは親子ほどの年齢差があります。大地を守る会は創業42年目、オイシックスは創業17年目です。

 じつは高島社長がオイシックスを立ち上げようとした際、大地を守る会に相談に来たことがありました。そのときは、有機農産物の生産者の状況や消費者の意識、また経営で苦労したことなどについて話をしました。高島社長は食品ECのオイシックスを立ち上げ事業を拡大してきたわけですが、大地をも守る会をつねに業界の先輩として接してくれました。大地を守る会がイベントを行うと立ち寄ってくれたり、新しい物流センターを立ち上げた際はオイシックスの社員を引き連れて見学に来てくれたりしていました。私とは年に1、2度は食事をする付き合いがありました。

 両社の売上を単純合算すると約360億円となり、食品宅配市場における自然派食品宅配のナンバーワンになります。両社の強みを伸ばしながら、業界の中でリーダーシップを発揮し市場成長を牽引していこうという話になり、経営統合に至りました。

オイシックスのEC技術と大地の生産者ネットワーク

──経営統合にはどのようなメリットがありますか。

経営統合後も、「オイシックス」と「大地を守る会」の両サービスブランドは継続する

藤田 大地を守る会はカタログ販売、一方でオイシックスはECと、それぞれ主力とする販売方法が異なります。この販売方法の違いもあって、大地を守る会は40~50代以上の女性、オイシックスは30~40代の比較的若い女性がそれぞれコアのお客さまとなっています。両社の経営統合により、オイシックスを利用されている若いお客さまが40~50代になり生活にゆとりが生まれるころに、大地を守る会の会員になっていただくというコースも提供できるでしょう。

 ECについて言えば、大地を守る会はカタログ販売をメーンとしていますから、頑張ったとしてもオイシックスの技術に追いつくには2~3年かかるくらい、遅れています。ですから、両社が一体となることによってシナジーを創出できれば、大地を守る会のサービスにとっては大きなメリットとなります。

 一方でオイシックスは急速に成長している反面、会員増加に伴い将来的に農産物の調達力不足に陥るのではないかという課題がありました。その点、大地を守る会は42年の歴史の中で優れた技術を持つ農家とのネットワークを構築してきています。このネットワークを農産物の調達に活用すれば、オイシックスにとっては強力な成長エンジンになります。

──両社の契約農家の数はどれくらいですか。

経営統合により、オイシックスは1500に上る大地を守る会の契約農家を活用できるようになる

藤田 大地を守る会が1500、オイシックスが1200です。それぞれ、生産者との関わり方や契約基準は異なります。たとえば、大地を守る会、オイシックスともに、農産物の生産過程で使っていい農薬や資材の種類などを公表していますが、その基準は細部で違いがあります。この基準を踏まえたうえで、お客さまは大地を守る会、オイシックスそれぞれの商品を選んでいただくことになります。

 大地を守る会では30~40年以上契約を続け、後継者にうまく引き継ぎができている農家も多く、そうした農家とわれわれは強固な関係を築いています。もちろん、オイシックスにも優秀な農家がいらっしゃいます。オイシックスは、大地を守る会の生産者ネットワークを活用することが可能になりますから、農産物の調達の面で大きなメリットとなるでしょう。農産物の調達面だけでなく加工食品で共同開発ができると思っています。

「プレミアム時短」で販売好調のキット商品

──計画している共同開発の商品はありますか。

藤田 ようやく検討を始めた段階です。商品開発の取り組みではありませんが、今年7月にオイシックスのサイト内で大地を守る会の商品を購入できる特設サイトをオープンしました。4月のプレオープンから3カ月で売上目標の160%を達成するなどお客さまから好評をいただいています。取扱商品数も現在、当初の3倍の100品目となっています。

──オイシックスではキット商品の販売が好調です。

藤田 オイシックスのコアの利用者層である小さい子供を持つ30~40代の共働きの夫婦は、人生で最も忙しい世代だと言えるでしょう。

 オイシックスは、そうした忙しい生活の中でも「子供にちゃんとしたものを食べさせたい」というニーズに応えられる商品を提供してきました。その一つが、5種以上の野菜がとれる主菜と副菜の2品が短時間でつくれる下ごしらえ済みの料理キット「Kit Oisix(きっとおいしっくす)」です。

 たとえば、夕食にカレーをつくるとしましょう。タマネギを切ったり、ジャガイモの皮をむいたりしていると、1時間くらいかかってしまいます。仕事から帰宅して、その時間を確保することは非常に難しい。そんななかで、「きっとおいしっくす」のような下ごしらえ済みの商品を使えば、帰宅後15~20分程度で、少なくとも一品は食卓に出すことができます。しかもこの商品は、安心できる産地から取り寄せた原材料を使っています。

 オイシックスでは、こうしたキット商品を単なる「時短」商品ではなく、お客さまの意識を踏まえて「プレミアム時短」「後ろめたくない時短」の商品と呼んでいます。累積で600万個以上の出荷数、5万人以上の定期利用という実績で、オイシックス事業の売上を牽引するほど成長してきています。オイシックス全体の会員数が14万人程度ですから、若い世代でも「時短と食の安全」への関心が高まってきていることの表れでしょう。

──大地を守る会でオイシックスの商品を販売する考えはありますか。

販売好調の大地を守る会の「おやさいdeli kit」。メーンに使用する野菜の契約生産者の顔が見えるのが特徴だ

藤田 今はありません。ただ、大地を守る会でも「おやさいdeli kit」というキット商品を販売しており、好調な売上を続けています。この商品は契約生産者の顔が見えることを重視しており、大地を守る会の基準で食材を調達しています。大地を守る会は40代、50代という年齢が高めのお客さまが多いため、家族の食事をきちんと料理したいという専業主婦が多い傾向があります。

 たとえば、大地を守る会には、自分で味噌をつくっているお客さまが6000人以上もいます。自分で味噌をつくっている人が6000人もいる会員組織というのは、日本でほとんどないのではないでしょうか。ちなみに、味噌づくりセット販売商品・単品商品合わせて今年だけで約1万2000点を販売しています。そういう意味で、オイシックスとお客さまが重なるということはあまりないと思っています。

──物流面ではどのようなシナジーが考えられますか。

大地を守る会の「習志野物流センター」。オイシックスと物流面でシナジー創出をねらう

藤田 物流面でのシナジーは大きいと考えています。オイシックスと大地を守る会はそれぞれ異なる産地から仕入れてきましたが、産地が近隣にある場合は互いに協力することが可能になります。また、両社の物流ネットワークを重ねることでコストダウンが期待できます。たとえば、大地を守る会は関東圏では自社便で配送しており、オイシックスの商品の配送にこの物流網を活用できないかと検討しています。これを実現するには、配送ケースやロットの統一、物流センターの最適化といったことも必要になってきますから、今後、実験を重ねていく必要があると考えています。

──ローソンとの提携関係は今後どうなりますか。

藤田 大地を守る会は13年にローソンと業務・資本提携を結びました。今回の経営統合ではオイシックスがオイシックスドット大地に社名変更し、大地を守る会を吸収合併するかたちです。ですから、ローソンはオイシックスドット大地の株主ということになります。

 現在、ローソンは大地を守る会の商品を関東の約2500店舗で販売できる体制を築いています。今後はたとえば健康志向型の「ナチュラルローソン」での取り扱いが増えることを期待しています。また、オイシックスドット大地としては、ローソンが手がける食品EC「ローソンフレッシュ」で「きっとおいしっくす」をすでに販売しています。

契約農家の育成に注力、年商1000億円をめざす

──アマゾンジャパンが「Amazonフレッシュ」を開始するなど食品ECの競争環境が厳しくなっています。どのように戦いますか。

藤田 たしかに業界での競争は激しくなってきているとは思いますが、有機野菜という市場で見ると、まだまだ拡大の余地が大きいと考えています。

 日本は海外と比較して、食材の品質に対して消費者の関心は高いのですが、それとは裏腹に有機野菜の市場規模は極めて小さいのが実情です。たとえば、アメリカのオーガニック市場は4.8兆円、EUは4.0兆円、ドイツやフランスなどがそれぞれ1兆円程度と言われています。これに対して、日本のオーガニック市場は農林水産省によるとわずか1300億円です。人口規模から考えても、日本のオーガニック市場は少なくとも1兆円あってもおかしくありません。ですから、市場規模がまだ小さいぶん伸び代が大きいと言えるでしょう。大手小売業もオーガニック市場に参入してきています。今は市場をもっと大きくすることが重要だと思っています。

──オイシックスドット大地の中長期の年商目標はありますか。

オイシックスドット大地 代表取締役会長
藤田 和芳

藤田 大地を守る会の契約農家の周辺には一般の農家があります。慣行栽培を行っているそうした農家は価格競争の影響を受けますから、経営が不安定で後継者も育ちにくい状況になってきています。しかし大地を守る会は、有機・無農薬食材の会員制宅配事業の草分けとして42年もの間、事業を続けてきており、「農業で食べていける」と確信した後継者が育ってきています。今後はわれわれが契約農家からの仕入れ数量をさらに増やし、多くの農家が誇りを持って農業を続けていくことができるようにしていきたいと思っています。じつは、技術力のある農家の争奪戦がすでに始まっています。運転資金を融資しながら農家を囲い込んでいる例もあるほどです。

 われわれはできるだけ早い段階で年商1000億円を達成したいと思っています。オーガニック市場を1兆円規模にするため、業界ナンバーワンの企業として成長を牽引していきたいと考えています。