百貨店が定期借家契約を採用し、取引先と建物賃貸借契約を取り交わすことを”百貨店のショッピングセンター(SC)化”と呼ぶ。しかし、SCも百貨店も経済活動においてはあまり変わることは無く、むしろ同じものであることを今号では指摘した上、コロナ禍において消費市場が低迷する中、今後の商業施設の考え方について提議したい。
SCも百貨店も顧客から見たら同じもの
今、SCも百貨店も大差ないブランドやテナントが並ぶ。異なることと言えば地下の食料品、いわゆるデパ地下か1階のコスメかラグジュアリーくらいである。
それも近年では定期借家契約を活用した百貨店企業も登場し、SCにおいても食料品の強化やラグジュアリーテナントの導入を進めておりその差は縮んでいる。
顧客にとってもCoachのバッグはCoachのバックであり、それが消化仕入れ契約なのか、建物賃貸借契約なのか、どのような契約形態で運営されているかなど特に問題にすることではない。
消化仕入れは手数料分しか売上計上されない時代
百貨店の中で大半を占める消化仕入れの制度は日本特有の商慣行である。国際会計基準(IFRS)に照らすとメーカーから百貨店は販売委託を受けたものと解されることから、既にIFRSの早期適用を行い、企業の規模感を表すトップライン(売上高や、IFRSの場合は売上収益)が激減した百貨店企業もあった。
そして今春、日本国内での会計制度における収益認識の見直しにより消化仕入れ契約での”売上”は顧客への販売額では無く、販売額と仕入れ原価の差額を手数料収入と認識することになった。この見直しは、これまで”売上”にこだわってきた百貨店経営を根本から見直すことになる。
では、SC事業や百貨店業の収益性評価はどのようにして行うのか。SCでいう売上高はテナント売上高の集計でありSCの収入では無い。百貨店での売上高も前述の通り、消化仕入れが大半を占めることから顧客への販売額は収入では無く、そもそも売上高は収益性を示す指標にはならない。
確かに高度経済成長下においては顧客への販売額(売上高)を増加させることが利益の拡大につながった時代はあったが今はそう簡単では無い。
もちろん、利益やキャッシュフローも効果を計測する指標の1つであるが、どれだけの資産を使って生み出された果実であるのか、これでは分からない。
結果、投入した資源がどれだけ効率的に活用されているのか判断する指標であるROA(総資産利益率、分子の利益には経常利益などが使われる)が事業の収益性評価に収斂される。
SCも百貨店も不動産活用業
SCや百貨店が顧客に提供する価値は、物販であり飲食でありサービスであり、それらに類することを提供することで顧客価値を生む。
与えられた土地または建物を商業用不動産として利用し、どれだけの利益を残し、その利益が資産に対して効率経営しているのか、そこがポイントなる。
消化仕入れでも、定期借家でも、どのような契約形態であれ、手元に残った利益(またはキャッシュ)がどれほどあるのか。そして、その利益を上げるためにどれだけの資産が使われているのか、そこに議論は尽きる。
どんなに売上や利益を上げてもそこが都心の一等地だったり高額な土地だったり、もしくは大きな建物面積が使われているようであればその収益性の評価は大きく変わる。
要するに土地建物という不動産をSCで使うのか、百貨店で使うのか、はたまたオフィスやホテルや使うのか、どの利用も不動産の活用であり、それがSCか百貨店か、定期借家か消化仕入れかなど大きな差は無いのである。
コロナ禍は「SCか百貨店か議論」に終止符を打つタイミング
2000年代に入り、SCの隆盛が続き、これまで小売業であった百貨店はテナントと建物賃貸借契約を結び不動産業であるSC化を進めている。
しかし、SCも百貨店も狙うマーケットは消費市場という同じ市場である。その証拠にコロナ禍による緊急事態宣言下で店舗の休業を迫られ売上の減少に同じように悩んでいる。
他方で国際会計基準の適用や収益基準の見直しにより消化仕入れ契約が売上から除外されることや顧客から見れば契約形態の違いは大きな意味を持たない今、われわれに求められているのは、不動産の最大活用と顧客(市場)からの支持の2つである。
ECが伸長し、ますますリアルな場での消費活動は低下する。「SCか百貨店か議論」にそろそろ終止符を打ち、リアルな場の価値を追求する時期に来ているのではないだろうか。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒