人口減少(少子高齢化)問題は時間をかけて静かに進行している。この問題は、多くの人・組織に関係しているにもかかわらず、当事者意識を持ちにくいため対応が難しい。ただ、人口は毎年50万人(1つの大都市に相当)のペースで減少しており、女性人口の過半数は50歳以上となって(全人口は2023年)、平均年齢も2036年に50歳を超える見通しだ。さらに25年には、団塊の世代が健康寿命とされる75歳を超える。本稿では、人口減少時代における食品スーパーの方向性について考察してみたい。
チェーンストアが陥る「CGP」のメカニズム
あるリージョナルチェーンの店別経常利益を小さい順に並べたABC分析を見ると、三分の一の店が赤字、それを三分の一の店で埋め、企業の利益として残るのは三分の一の店の分になる。これは業態、規模に関係なく多くの企業でみられる現象である。
しかし10年後、経常利益の高い店舗(都市立地)で人口が減少率が高いと予測されている。店舗はチェーンストアにとってのインフラであり、資産であり、固定費の塊でもある。人口減少時代には、店数を増やす以上に業績を維持するための店舗・業態構成のバランスを保つ仕組みが重要になる。
主要業態約200社の業績推移(単独売上高と営業利益)を分析すると、ある時、業績が急に低迷する企業が現れる。このような現象はほぼすべての業態に共通してみられ、チェーンストアの構造的特性であることがわかる。
戦略目標である企業規模の拡大を追求した結果、活力を失い、長期にわたる低迷、破たんへと向かってしまう。成長期には知ることができないチェーンストアの構造的矛盾、スケールデメリットとも言えるこのような現象を、筆者は「CGP(Chain‐storeGrowing Paradox:チェーンストア・グローイング・パラドックス)」と名付けている。
ではなぜ、このような現象が起こるのか。CGPのメカニズムを見ていきたい。
小売業は損益分岐点が高く、経費が固定費的に発生する。そのため売上高が伸びれば利益は容易に倍加するが、下がればすぐに半減する。チェーンストアは、成長期にこそその特徴を最大限発揮する最強の経営形態となるが、巨大化して低迷すればテコの原理が逆に働き、経営を圧迫する。
多くの巨大企業が破たんしていったように、CGPに対する答えはいまだ見出せていない。CGPのキーワードは、固定費、規模、売上高伸び率、利益率であり、CGPを回避するための「論」と実証実験が必要である。
既存店の収益を原資として永久機関のように拡大再生産を繰り返すチェーンストアは、規模が小さく新店効果が大きいうちは、売上高、利益とも飛躍的に伸びる。しかし、既存店が増えて規模が大きくなるにしたがって、新店効果は薄れてくる。損益分岐点が高く、固定費比率が高いという構造故に、大きい売上伸長が維持できなくなると(分析した約200社では売上高が横ばいでも)利益の伸びは止まり、急激に低下する。
また、既存店の増加に伴い高店齢の店舗が増え、同時に商圏も高齢化してライフステージ(年齢、職業、家族構成など)・ライフスタイル(暮らし方)、消費構造は大きく変わる。高店齢店舗の競争力は低下し、業績は悪化する。
既存店の業績が低迷すると、その収益を原資に出店を繰り返す成長の循環は停滞し、やがては停止する。弱体化した既存店の整理がはじまると売上高・利益は減少に転じ負のスパイラルに陥る。人口ボーナス(人口=働く人が増えて豊かになる)後に必ず訪れる人口オーナス(高齢化して社会が養う人が増え、重荷になる)同様、成長期には武器であった「規模」もリスクへと変わる。
深刻な人口減少 店舗業績への影響は
次に、人口減少(少子化、高齢化)の状況を確認していこう。
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