紀伊半島東部の東紀州エリアで店舗展開する主婦の店(三重県/北裏大社長)。商勢圏では高齢化の進行に伴って人口減少が急速に進み、経営環境は年々厳しさを増す。だが同社は、コロナ禍を通じて食品スーパー(SM)が地域のインフラであることを再認識、より利便性が高く、楽しい買物環境の提供に向けた施策に取り組み、さらなる支持獲得をめざしている。
10年間で人口が15%減少 DSも攻めてこない立地…
主婦の店は三重県南部の尾鷲(おわせ)市に本部を置くSM企業である。設立は1958年。当時、日本各地で産声を上げつつあったSMという業態に着目し、薬局や衣料品店、菓子店など地域の商店主が集まって会社を設立したのが起こりだ。
同社の商勢圏は、紀伊半島東部の東紀州エリア。尾鷲市を中心として南北に60㎞と細長く伸び、東側は海、西側は山林と自然豊かな環境に囲まれている。この範囲に居住するのは6万~7万人。チェーンストア企業にとっては、決して効率のよい条件とは言えない。
高齢化の進行も顕著である。内閣府の「令和2年版高齢社会白書」によれば、日本の高齢化率(65歳以上の割合)の平均値は28.4%。これに対し、主婦の店が本部を置く尾鷲市は、実に44.4%(2021年3月31日現在、尾鷲市集計)にも上る。
日本の全体がこの水準に達するのは、内閣府の「高齢化の推移と将来推計」(令和2年版高齢社会白書)を判断材料にすると今から40数年後の65年(高齢化率38.4%)以降になると予想できる。まさに日本の未来がここにあると言っても過言ではない。
高齢化に伴い、人口減少も急速に進む。11年3月末は約2万人だったが、今年3月末には約1万7000人とわずか10年間で約15%も減少した。
競争環境に目を向けると、ほかの地方都市とは大きく様子が異なる。現在、日本各地で台頭しているのは食品を多く扱うドラッグストア(DgS)やディスカウントストア(DS)といった価格訴求型業態。しかしここ東紀州エリアでは、それほどの脅威になっていない。
北裏社長は「とくに商圏設定が広いDSは採算を取りにくいエリアだ」と指摘する。たとえばキャベツの市場価格が198円のとき、98円で販売したとする。1日目は大きく売れても2日目以降はほとんど売れない。粗利益率の設定を大きく落として集客、売上高を確保するのがDSの手法。しかしマーケットが小さく、安売りした商品はすぐに各家庭に行きわたり、結果として粗利益、売上高ともに落とすことになるためだ。
このような厳しい環境にある中、主婦の店では経営努力を続ける。18年6月には、南牟婁(みなみむろ) 郡紀宝町に7店目となる「パシフィックマーケット」をオープンしている。コロナ禍を通じ、緊急時に人々が求める食材を安定提供する役割のSMは、地域のインフラであると再認識したという。そのうえで北裏社長は「より利便性が高く、楽しい売場づくりを進め、地域のお客さまの満足度を上げたい」と意気込みを見せる。
キャッシュレス比率、6割の謎!
尾鷲市にはイオン(千葉県/吉田昭夫社長)やオークワ(和歌山県/大桑弘嗣社長)といった有力企業の店舗もある。だが主婦の店がとくに強く意識しているのはコンビニエンスストア(CVS)だ。
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