1985年に日本初のデリバリーピザチェーンとして東京・恵比寿に1号店を出店して以降、21年6月23日に全国で800店舗を達成するまでに成長したドミノ・ピザ。そんなドミノ・ピザが、更なる成長のテーマとして掲げるのが「ピザの普段食化」だ。ピザのイメージ刷新をねらうドミノ・ピザジャパン(東京都/ジョシュア・キリムニック社長)の、執行役員兼営業部長 柿内宏之氏に話を聞いた。
10分でピザが届く?!ドミノ・ピザの出店戦略
現在のピザのイメージについて、「これだけ普及した今でも、ピザは皆が集まる日やイベントごとのある日に食べるもの、というイメージが強い」と柿内氏は語る。欧米の食文化から輸入されたハンバーガーが、普段から食べる「普段食」として浸透しているのに対し、ピザは今も特別な機会に食べる「機会食」としての使われ方が多いのだという。しかし当然、機会食よりも普段食の方が需要を多く集めやすい。ドミノ・ピザが「ピザの普段食化」をねらう理由はここにある。
普段食化をめざす上で、重要なポイントが3つある。その1つ目が、「どれだけ身近に購入できる場所があるか」だ。従来ピザといえば、「30分以内に届けてくれるもの」だったが、このイメージはもはや前時代のものとなりつつある。
近年ドミノ・ピザは、「商圏分割」の戦略で出店をしている。すでに「30分以内のデリバリー」を達成するだけの十分な密度で出店している地域にも、さらに商圏を細かく割譲し、新たな店舗を出店する。これによって、デリバリーに要する時間を短縮。その時間は、短いところでは約10分程度にまで縮められる。さらに、自宅から最寄りの店舗が近くなることでテイクアウト利用を後押しする効果もあるという。
より手軽に、安心して食べられるピザをめざして
2つ目に、普段食化のためにさらに必要になってくるのが価格の引き下げだ。ドミノ・ピザはこれまでも、「テイクアウト2枚目無料」サービスや積極的な割引クーポンの配布などを行っており、デリバリーピザ業界のなかでは安価なイメージが強いが「それでもまだ不十分」(柿内氏)だという。
たとえば、「テイクアウト2枚目無料」は「ランチに一人でピザを食べたい人」にはハードルが高い。また、多くのデリバリーピザでは最低注文金額を設定しており、これもピザの普段使いから顧客を遠ざけている原因ともいえる。そこでドミノ・ピザは、「テイクアウト2枚目無料」を「1枚目からテイクアウト全品半額(お持ち帰り半額TM)」に変更し、デリバリーでは最低注文金額を撤廃するという思い切った施策を実施した。上述のきめ細かな出店とあわせて、もっと気軽に、普段の食事の選択肢としてピザを取り入れてもらう環境づくりがねらいだ。
3つ目に、普段食として食べる頻度が増えた時、顧客視点で気になるのが食の安全だ。ドミノ・ピザ ジャパンは5月19日、キッチンをガラス張りにし、ピザ作りのすべてを顧客が直接みることのできる「世界一透明なドミノ・ピザ」を東京・お台場にオープンしたが、これも安心してピザを食べてもらいたいという思いの現れだ。「ピザは、いまだに冷凍を焼いているんじゃないのか、出来合いの生地を使っているのではないか、そういうふうに誤解されたままになっている部分がある」と柿内氏。粉の状態からすべてを店舗で手作りするドミノ・ピザのピザ作りのすべてを、隠すことなく公開したかたちだ。
さらに、台場店のオープンに合わせてドミノ・ピザは、合成着色料・合成香料・合成保存料をサイドメニュー含む全フードメニュー・全店舗で完全不使用に切り替えた。達成には並々ならぬ時間と努力を要したが、モットーでもある「おいしいに安全をTM」にこだわり抜き、実現に漕ぎ着けた。
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コロナ特需を乗り切った秘策とは
ところで、コロナ禍でのデリバリー・テイクアウトへのニーズの高まりは、ドミノ・ピザにも注文の急増という形であらわれた。デリバリーピザ業界は、コロナ特需の恩恵を受けた業界の一つといえる。ピザを「普段食」として認知してもらうには絶好の機会でもあるが、急増した注文にはどう対応したのだろうか。
ドミノ・ピザでは出店の際、店舗設備の基準を「最も忙しい時」に設定している。というのも、ピザはもともと、雨や雪など悪天候で外出が億劫になる時や、クリスマスなどのイベント時には注文が殺到する傾向にある。このような集中的な需要にも十分に対応するため、どの店舗でも最低2台のオーブンを基本装備とし、なかには3台配置している店もあるという。忙しくない時に合わせてオーブンを1台にしてしまえばその分コストは浮くが、それでは需要を取りこぼしてしまう。初期投資を惜しまない店舗設計をしてきたことで、コロナ禍では多い月には通常の1.5倍以上という売上の確保につながった格好だ。
以前からの周到な準備が効果を発揮したのは、設備だけではない。ドミノ・ピザはコロナ禍が本格化した2020年4月から21年6月末までに、正社員およびクルー(店舗アルバイト従業員)合わせて39,000人超を採用し、雇用を拡大した。緊急事態宣言下での飲食店休業などの影響を受け、採用がしやすい状況だったとはいえ、簡単には集まらない人数だった。とくにピザ店のアルバイトでは、配達に必要になるバイクの免許がネックになることが多い。しかし、ここでもドミノ・ピザがかねてより行ってきた施策が功を奏した。それは、2017年から本格化した、バイクによる配達からeバイク(電動アシスト自転車)への切り替えだ。もともとは、上述のように商圏が狭くなったことや、二酸化炭素排出削減、バイクによる騒音への配慮を主眼として始まった施策だが、採用に当たって自動二輪の免許が不要なことは多様な人材を集める上でもメリットになった。現在、東京都内では約50%がeバイクによる配達に切り替わっているという。
「ドミノ・ピザには、Hungry to be Better(よくすることにハングリー)という、常に向上心を持って、さらに良くすることを追い求めるカルチャーがある。台場店の開店を機に、さらに未来を見据えたチャレンジを続けていきたい」と柿内氏は語る。多角的な施策で「ピザの普段食化」を推し進めるドミノ・ピザ。デリバリーピザ業界を牽引する同社の新たな展開に今後も注目だ。