1フロアまるごと無償提供?人口減少地域で存続を模索するイズミヤがとった秘策とは

2021/06/11 05:55
堀尾大悟
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「撤退しないでほしい」自治体や市民からの声

 大阪府の南東部に位置する河内長野市は、1970年代から90年代前半にかけ、丘陵地帯に続々とニュータウンが開発された歴史を持つ。70年には約52000人だった人口は、90年には109000に倍増。ピーク時の2000年には123000人にまで達した(「令和3年版河内長野市統計書」)。

 イズミヤ河内長野店の開業は1972年。急速に人口流入が進む同市で、地域住民の生活に密着したスーパーとして、50年近く経営を続けてきた。

 ところが、同市の2020年の人口は103000人と、ピーク時から約2万人減少。高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は約35%と、全国平均の28.4%(内閣府「令和2年版高齢社会白書」)を大きく上回るスピードで高齢化が進んでいる。

 この人口減少と高齢化に伴い、イズミヤ河内長野店の業績も低迷の一途をたどっていた。

 「高齢化先進地域」ともいえるこのエリアで、スーパーを存続させていくべきか――危機感を感じたエイチ・ツー・オーリテイリング側は、「まずは自治体の話を聞いてみよう」と河内長野市役所を訪ねてみる。

 そこで市職員から聞いたのは「イズミヤさんには撤退してほしくない」との切実な声だった。

「イズミヤが、地域住民にとって貴重なインフラであり、街のシンボルだということが改めてわかったのです。『子どもの時に洋服や靴を買ってもらった』など、住民にとって思い出の多い場所でもある。撤退だけはしたくない、と担当者として強く思いました」(原田氏)

地元自治体、大学と「産学官」で拠点整備

イズミヤ河内長野店4階 ゆいテラス河内長野 大多目的スペース
イズミヤ河内長野店4階 ゆいテラス河内長野 大多目的スペース

 存続させるにしても、このまま無策でいるわけにはいかない。市と対話を続けながらもなかなか打開策が見いだせずにいたところに、イズミヤ河内長野店の住居関連フロアを閉鎖するとの決定が社内で下された。

 プロパティマネジメント部門としては、新たなテナントを誘致して収益化を急がなければならない。しかし、約50年の老朽化したスーパーに関心を示す事業者はそうそう現れない。

1床まるごと公共スペースにしてみたら?」というアイデアは連携協定に基づく話し合いの中で生まれてきたという。

「もちろん、『われわれは“床”が商品なのに、無償で貸すなんて……』という社内の反発はありました。一方で、河内長野市との公民連携による床活用のモデルがつくれれば、イズミヤの事業再編のひとつの目玉になるのではないか、という見立てもありました。最終的にはトップの判断でしたね」

 19年6月、エイチ・ツー・オー リテイリングと河内長野市は連携協定を締結しており、その後の両者の交流から無償貸与というアイデアが生まれ、20年10月、エイチ・ツー・オー 商業開発が河内長野市と使用貸借契約を交わすことになった。

 対話を続けてきた両者に加え、市内でまちづくりの実績のあった関西大学も加わり、翌年4月の地域交流拠点の開設に向け「産官学」一体となってプロジェクトを進める座組が整った。

関西大学の協力のもと、住民と一緒に老朽化したベンチや手すりをペンキ塗りするイベントを開催。写真のようにきれいに生まれ変わった
関西大学の協力のもと、住民と一緒に老朽化したベンチや手すりをペンキ塗りするイベントを開催。写真のようにきれいに生まれ変わった

 オープン前には、関西大学の協力のもと、住民と一緒に老朽化したベンチや手すりをペンキ塗りするイベントなどを開催。「イズミヤさんが生まれ変わるらしい」という住民への認知が徐々に広がっていった。フリースペースの机・椅子には地域材の「おおさか河内材」をふんだんに使用。パーテーションを取り払った開放感のあるフロアが完成した。

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