「オンライン生活、大変だね」と心配そうに言うのはオフライン生活を送ってきた人たちだ。今年の新入社員は「採用試験はすべてオンラインでした」「授業はオンラインで受講しました」と言う。既にオンラインが「主」でオフラインが「従」。この環境下でショッピングセンター(SC)がどのように変化(進化)していくのか、今号では考えたい。
相次ぐ転職の挨拶…
最近、毎日のように転職のメールと報告が来る。コロナ禍の今、人生を切り替える人が多い。特に若い人がSC業界に将来を感じなくなっているようだ。SCビジネスは、2018年にピークアウトし、このコロナ禍を迎えている。リアルビジネスであるSCは、休業や顧客動員数の激減、そしてネット流通の台頭を目の当たりにしている。
コロナ前、消費市場は比較的堅調だったこともあり、SCの仕事も充実していた。多少、会社に嫌な点はあってもそれほど気にならなかっただろう。ところがコロナ禍で、毎日後ろ向きの業務に忙殺され、変化を迫られてきた。その上でITを駆使した改善策やこれまでのコミュニケーションを問い直す提案も、過去の成功体験に固執する年配の管理職は聞く耳を持たない。SNSの活用など年配の耳には響かないばかりか「少し我慢すればまた元に戻るだろう」と返されるだけだ。
そして、度重なる緊急事態宣言と変異株の猛威、ワクチン接種の遅れ、開催を強行しようとするオリンピック・パラリンピックへの疑問。先が見えない今、彼らが抱えるストレスは際限がない。嫌気がさした若者は他業界に移っていく…
この半年、そんな状況を何度も見てきた。若者の流出が止まらない。
SC業界に訪れる、ゲームチェンジとSDGsの波
今号のタイトル「ゲームチェンジ」を感じたのは、彼らの転職先だ。意外にSC企業からテナント企業への転職も多い。でも、これまでのようなテナント企業とは異なる。これまでのビジネスモデルは、自社製品(商品やサービス等)や仕入れた商品や本国から送られてきた商品を全国の店舗に流し販売(提供)し、収益を上げるものだった。
要するに「店舗数×売上高」がそのテナント企業の成長モデルになる。ということは、「店舗数を増やすこと=収益の拡大」につながったのだ。
ところが地方都市から始まった人口減少、コロナ禍による人の流れの制限、ECの進展による店舗売上の減少によって多くの店舗をつくり、そこに商品やサービスを流すビジネスモデルは難しい時代となった。
コロナ禍によって休業を余儀なくされた店舗の経営は、賃料、雇用、償却負担など固定費による損失は拡大する。
この状況から、従来のビジネスモデルとは異なる事業モデルを模索するテナント企業も増加している。だがこの場合、「テナント企業」という表現はおそらくそぐわないだろう。
上図をみてわかるとおり、そもそも新たな事業モデルは、ビジネスの軸がネットにある。たとえば産直や自然素材を使った家具を販売するにしても、ネットを活用して、生産者や消費者とダイレクトにつながっている。D2C(ディレクト・トゥ・コンシューマー)型のビジネスモデルで過剰な在庫投資を回避したり、SDGsの流れの中に自らのポジションを落とし込んでいる。
大量生産大量消費を前提に「目標○○店舗」というビジネススタイルとは一線を画す。その前提は、ネットを介した情報の流通であり、ステークホルダーともダイレクトにつながる。
最近では、既存の企業もネット流通に軸足を移し、店舗は、その補完として位置づけを見直すところも出ている。店舗で見てスキャンしてスマホに情報を貯め込んで後から購買行動に出ることを促す手法がその一例である。
しかし、まだ、この発想は、生産(仕入れ)→店舗へ配送→陳列→接客→販売という流れを前提にしている。
今後は、もう一歩進めて消費者や顧客をネットワークに取り込むことで店舗もその1機能として位置付け、ショールームでありプロモーションであり顧客情報の取得であり顧客のすそ野を広げるものでありECへの誘導であり、それらは全て店舗の売上を前提にしたビジネスでは無く、場合によっては不要となるケースすらあるだろう。
オンラインネイティブの時代がやってくる
この商品やサービスや情報の流れがネットワークに大きく移り、これまで発注や在庫管理や決済でしか利用されてこなかったネットワークを人と人の結びつきや情報流通による中間省略、そして、そこに携わる人たちのモチベーションアップ、例えば顔の見える生産者だけでなく、顔の見える消費者とのつながりによって自らの生産活動のやりがいや達成感を得ることであり、消費者もサスティナビリティを感じることができる。
これはマズローの欲求段階説でいえば第5段階目「自己実現の欲求」を満たすことにある。実はこれができるのは、これまでのリアルでの成功体験を持つSC企業やテナント企業では難しい。
スマホを使ったコミュニケーションで育ち、授業はオンラインで受け、採用面接までのオンラインを経てきた「オンラインネイティブ」。これからはデジタルネイティブの時代は終わり、「オンラインネイティブ」の時代となる。
今、SC企業は最大のゲームチェンジの時代を迎えている。「賃料ビジネス」と言う垂直型から脱却し、単なる不動産賃貸業からネットワーク型のビジネスを取り込む時期に来ている。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒