全産業中ワースト2位の不都合な真実、アパレル業界の環境破壊と人権問題を解決する方法

河合 拓
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的外れの産業政策に課題がある

 こうした事実認識は残念ながら、恐ろしいほど間違っている。

 過剰仕入をしたアパレルはキャッシュフローが悪化し、運転資本に回す金さえ工面する余裕がない企業がほとんどだ。投資などできる余裕もなく、こうした企業を与信オーバーして資金面で支えているのが銀行である。つまり、あえて言うなら銀行がルール通りにやれば、過剰仕入をしたアパレルはどんどん倒産していくわけだ。「作りすぎても儲かる」など、会計の基本的なルールを知っているのかと言わざるを得ない。

  また、「パーカーを17000円で販売することが、工場に対して人権を維持できる価格だ」と断じている日本人もいたが、そんな値段でパーカーを販売すれば、ほとんどの消費者はユニクロの1500円のパーカーを買うだろう。つまり、全く経済というものを分かっていないのである。

 私は5年前、経済産業省に対して、日本とアジアを結ぶ「ビジネスプロセスプロトコル」(業務フローの約束事)をつくることを骨子とする政策を提出した。きたるべきデジタル化の素地をつくり、日本初の「ビジネスプロセスプロトコル」を監視する推進母体を設置し、このプロトコルを採用したアジアの工場には、インヴォイス(輸出の貿易書類)に認証マークをつけ、現在、課せられている輸入関税に対して優遇税制を適応するというものだ。その中身が斬新かつ有効であると判断されて経産省に採用された。

 これは、米国で過去実施され、数兆円という経済効果をもたらしたDAMA Project (米国内のアパレル業務フローを統一化、標準化しデジタル化するという一連のプロジェクト)をヒントに、アジアに展開したものである。

 ところが、その後私は病気で入院することになり、自身が推進母体の責任者を続けることができなくなった。そこで止むを得ず、他のコンサル会社に託したのだが、この産業政策を理解するファームは一社もなく、いつのまにか意見交換の会議になりフェードアウトしてしまったのである。

 日本では、有害物質の使用などを禁止するルールがあるのだから、例えば、日本に輸入する(現在、アパレル商品の98%は海外生産である)工場の建築基準や使用染料などに対して「日本基準」をつくり、その基準を満たしたCertificate(証明書)を添付したシッパーに限り、輸入関税を5%下げるなどの政策をつくるべきだ。

 もちろん、企業は利潤を追い求める存在だが、これからは単に売上・利益至上主義だけでは社会が許さない状況になっている。しかし、マネジメントの基本とはシングルディレクション(一方向)である。一つの組織集団に、異なる方向性を二つ与えることは経営学的に正しいやり方とはいえない。アクセル役を企業とするなら、産業全体を制御するブレーキ役を政策でつくるべきだ。実際に、自動車産業はそうしている。

 実は、アパレル業界にも「特恵関税」という制度がある。これは、途上国を「特恵国」と認定し、その国の中の部材を活用して生産された商品については、通常の関税よりも優遇税制が適応され、商社など貿易のプロはこれらを利用するのが当たり前なのだ。現在、製品にはCIF (製造工賃に日本までの湯配送料を加えた簿価)10%程度の関税がかかるが、これを5%程度に下げる。前稿の論考でも解説したように、原材料のコストはFOB (輸出国の本船手すりまでの在庫簿価)の約30%だから、5%というのは、生産国からしてみれば、相当の金額であるし、輸入元の日本もCertificateをつけた工場からの輸入を増やせば、コストが上がることはない。今、世界的に輸入関税の撤廃の方向へ緩やかに動いているわけだから、外圧で輸入関税を下げられるのなら、戦略的に下げろというのが、私の提案である。

 この提案は過去、斬新であるということで、経済産業省内の志ある若い担当者によって、俎上にのった。だが、「縦割り組織の壁」の前に挫折してしまった。いわく、「インセンティブである特恵関税の適応については、管轄が違うため担当外である」と。私は、「ルールをいくらつくっても、輸出業者と輸入業者にインセンティブがなければ、この政策は絵に描いた餅になる」と、幾度も繰り返したのだが無駄だった。

 残念ながら、これが今の日本の実情である。

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