全産業中ワースト2位の不都合な真実、アパレル業界の環境破壊と人権問題を解決する方法

河合 拓
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環境破壊2位はアパレル、1位は不明瞭というおかしな事実

 私自身、現実に生産現場の奥地まで入り込み、工場管理からコスト交渉までこなした経験のある人間として、ある程度のことは知っていたが、まさか、ここまで途上国の人達を苦しめている一面があるとは思ってもいなかった。ビルの倒壊に関していうなら、この一つの事件だけをもって産業責任であるというのはいかがなものかと私は思うが、有害物質の垂れ流しなどは決して許されることではないと思う。 

 私は、アパレル産業による環境破壊について詳しく調べたいと思い、さらに様々な海外のドキュメンタリーを見たのだが、不思議な事実に出くわした。

 まず、どれも「アパレル商品」の生産が、環境破壊を繰り返し、また余剰在庫の焼却が地球の温度を上昇させ生態系を狂わしているということでは一致しているのだが、「アパレルが二位」というなら、「環境破壊、悪の元凶の一位」はなんなのかということが、ドキュメンタリーによって異なるのだ。

 あるドキュメンタリーでは、家畜産業による牛のげっぷや糞が、恐ろしいほどの気温上昇を引き起こしており、ロビー活動によって、それらは隠蔽されているという論じ、航空機、あるいは、自動車産業などが「一位」である、など、「さらり」とかわされている。私は、経済学者ではないので、それらの研究、調査は学者や業界団体の方達にお任せするとして、もう一つ不思議なことがある。 

自動車業界では、産業に対して政府主導で規制を行い目標を課し、産業はそれを技術革新で達成するという循環が持続的な産業発展を可能にしてきたElcovaLana/istock
自動車業界では、産業に対して政府主導で規制を行い、目標を課し、産業はそれを技術革新で達成するという循環が持続的な産業発展を可能にしてきた(ElcovaLana/istock)

 例えば自動車に関しては、世界中で排気ガス規制が制定され、例えば、ドイツの主要都市では2018年以降、旧式の排気ガス規制レベルにしか対応していないディーゼル車による市内走行を制限している。イギリスでも2030年にディーゼル車の販売を禁止。日本は、2025年までは年率5%程度の割合でCO2削減を掲げ、東京都の小池百合子知事は、2030年までに都内の新車販売を全てハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)などに切り替える目標を都議会本会議で発表した。

 このように、自動車産業では、各国が環境破壊の深刻さを認識した上で、政策によってたがをはめ、産業に禁止規制を目標値として掲げており、産業は、その目標に向かって技術革新を進めている。

 これに対して、アパレル産業に関しては、企業にあたかも全責任があるかの如く一方的に断じ、ひどい論考になると、「アパレル企業は少なく作ると売上が下がるが、作りすぎても儲かるから作りすぎるのだ」など、間違った事実認識(作りすぎれば、棚卸し資産が現金を減少させてキャッシュフローが悪化し倒産する)をマスコミは流している。さらには、「消費者が安いものを早く求めるから悪いのだ」(では消費者は、流行遅れの高いモノを買うべきなのだろうか?)など、企業や消費者の責任にするものばかりで、最後は「大量生産と作りすぎが問題だ」と結論づけている。

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