躍進するファッションサブスク 先達エアークローゼットが示す“第三の消費”のポテンシャル

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アパレル業界が市場縮小で苦境に陥る中、サブスクリプション型のファンションレンタル業態がじわじわとすそ野を拡げている。アパレルメーカーや大小の専門企業が入り混じる中、4月には百貨店の大丸松坂屋が参入するなど、運営業態も多様化。アパレルの“第三の消費スタイル”として一定のポジションを確立しつつある。

エアークローゼット
エアークローゼット

「非所有」という消費スタイル、定着へ

 所有から利用へ。アパレルへの消費動向が変化する中、所有せずに楽しむファッションレンタル業態が伸長している。2014年、パイオニア企業としてファッションレンタル市場をけん引するエアークローゼット(東京都)の天沼聰社長は、こうした傾向について、「これまでは買わないと試せないのが常識だったが、試してから買うという選択肢もあるという意識が徐々に根付きつつある。われわれとしてはこうした流れが定着するよう少しでも貢献していきたい」と見解を述べた。

 アパレルメーカーにとって、こうした潮流は必ずしもマイナスではない。縮小する市場にあって、商品を一時的でも所有してもらえば、結果的に購買のチャンスも膨らむからだ。とはいえ、つくったものを売ることがビジネスモデルとなっているアパレル企業にとって、ファッションレンタル業態への参入には、収支バランスを維持する上でクリアすべきハードルがいくつかある。

アパレル企業にそびえるファッションサブスクの3つの壁

 第一は、コーディネイトにかかるコスト負担だ。ファッションレンタルの多くは、利用者の好みに応じ、スタイリストが洋服をコーディネイトする。エアクローゼットでは、「毎回ゼロから個人の好みや希望などに合わせながらコーディネイトし、同じパターンで提案することは一度もない」というほどの徹底ぶり。自前で抱えるスタイリストは300人に近いという。

 第二は、レンタル前後の関連コスト負担だ。商品をレンタルするということは、「商品発送時」と「回収時」の2度の配送が必要となる。料金設定で吸収する方法もあるが、それでも物流の効率化は、事業を採算ベースに乗せるためには不可欠だ。エアクローゼットでは、倉庫での業務フローにまで社員が踏み込み、極限までムダを省くなどで独自の流通体制を構築している。

 コスト意識の徹底は、回収した商品のクリーニングにも及ぶ。エアクローゼットでは、洗濯に使う溶剤、順序など、業者に丸投げせず、社員がともに現場に立ち会って最適化を追求してきた。

 売ることが終点のアパレルメーカーにとって、こうした側面のケアは、単純にコストを圧迫することになる。だからといって、その分を月額の利用料金に上乗せすれば、「買うより安く済む」というサブスクリプションの魅力は棄損され、定額を継続的に払ってもらうことは困難になる。AOKI(神奈川県)がスーツのサブスクに参入し、わずか半年で撤退したことは記憶に新しいが、アパレルメーカーにとってファッションサブスク運営の難しさを端的に示すトピックといえるだろう。

 第三のハードルは、ポジショニングの難しさだ。買ってもらうためなのか、利用してもらうことなのか。この見極めがあいまいなまま運営をはじめると、サービス設計にぶれが生じかねない。アパレルメーカーでファッションサブスクに成功している企業の多くは、この部分が明確だ。天沼社長は、「自分では買わない服との出会いの創出が弊社サービスの利用者への付加価値」と明言し、アパレル販売という側面では黒子に徹するスタンスだ。

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