AOKIホールディングス傘下のAOKIがリモート接客を強化している。20~40代のビジネスパーソンがメーンターゲットのORIHICA事業部で各種施策を展開。オンラインとリアル店舗が互いを補完し合い、境目のない販売体験を提供することで、新型コロナで加速した購買パターン変容に柔軟に対応する体制の構築をめざす。AOKI ORIHICAマーケティング販促部次長の鈴木恭平氏に、そのねらいや展望を聞いた。
リモート接客導入のねらい
新型コロナによる来店控えなどによって、リアル店舗小売業に新たな販売チャネルや顧客接点が求められる中、AOKIのORIHICA事業部では当初の計画を前倒しするかたちで、2021年2月からリモート接客の本格導入をスタートさせた。
同社ORIHICAマーケティング販促部次長の鈴木恭平氏はその理由について「もともとデジタル接客は伸びる領域とみていたが、新型コロナにより3か月程度の前倒しで導入することになった。『ORIHICA』はデジタルとの親和性の高い世代がメーンターゲットであり、また、店舗が首都圏中心なので物理的な補完にもなると考えている」と説明した。
AOKIでは公式オンラインショップにおける利便性向上に以前から取り組んできた。今回新たに提供するリモート接客「リモートスタイリングサービス」はそれらをより強固にし、補完するものとなる。
4施策の連動でオムニチャネル化を強化
現在までに提供されている同社のデジタル接客は次の4つ。①公式ウェブサイト上で展開するスタッフスナップの運営、②インスタライブ(ライブコマース)、③有人のチャット接客、そして④リモート接客だ。
それぞれが、オンラインショッピングにおける疑問や不安を解消する顧客サポートサービスとなっており、リアル店舗との垣根のない連動でいつどんな場所でも不自由のない購買体験ができる体制が整えられている。
スタッフスナップは、店舗スタッフ自身がモデルとなり、身長・サイズなどを公開し、実際に商品を着用した画像等を通して着こなしやサイズ感などを把握してもらうことで、顧客との結びつきを強め、よりニーズに合致した提案をするための施策だ。お気に入りのスタッフをフォローする機能やインスタグラムへのリンクもある。
インスタライブは、インスタグラムの機能を活用した生配信による販売動画だ。販売といっても、主軸は動画による商品紹介で、動きを伴うことでより分かりやすく商品情報を伝えることを目的としている。商品が気に入った顧客は、その場で商品に関する質問も可能。また、アーカイブのショップ機能からECサイトへリンクし、そのまま商品を購入することも可能だ。
チャットは、オンラインショッピング中に在庫確認、合わせる商品やサイズ感・素材感などなんでも気軽に質問できる機能で、商品情報の補完説明および購買支援が主な目的となる。スタッフが有人で対応し、テキストベースながら商品知識のあるスタッフが丁寧に回答することで、オンラインショッピングのちょっとした疑問や不安を解消する。
リモート接客は2021年2月からスタートした施策で顧客とビデオ通話を活用し、1対1で対応する。オンラインであること以外は基本リアル店舗と同等レベルの接客内容となり、新型コロナで来店を控える顧客への代替サービスとしての役割も担う。商品選びからコーディネートまでオンラインショッピングではできない総合的な相談にも対応するため、予約制となっている。気に入った商品はオンラインショップでも店舗でも購入できる。
鈴木氏は、これら施策の役割について「スタッフページとインスタライブは『1対多』の情報発信で、チャットとオンライン接客は『1対1』。それぞれが、各購買プロセスにおける不足部分を補完することで、購買体験を最適化する。また、お客さまとのコミュニケーション面でも有効に機能すると考えている。買ってもらう前の段階の、商品に興味を持ち理解していただくファネル*に対し、デジタルを用いて利便性や満足度を高め、ショッピング体験を向上させていくことが重要」とデジタル接客施策全体の位置づけを説明した。
*購買に至るまでの意識の段階を表すマーケティング用語
デジタル接客がもたらす企業側への恩恵
こうしたサービスのデジタル化は、企業側の視点でも多くのメリットがあるという。鈴木氏は「例えば、店舗販売では、お気に入りのスタッフが店舗異動することで、ご来店が遠ざかるケースもある。オンライン接客でリモート対応が可能になれば、この問題は解消される。首都圏中心の『ORIHICA』の場合、店舗のないエリアもあるが、オンライン接客が拡充することで、そうした物理的問題に起因する不便の解消にもなる」と接客のデジタル化によるプラスアルファの側面を明かす。
さらに各施策はリアル店舗と連動させることを見据えており、販売スタッフのモチベーション向上も見込まれる。とりわけ、スタッフが自身のページを運営するスタッフページは、サイト閲覧者や顧客がフォロワーとなるため、担当社員は成果をダイレクトに実感できる。リアル店舗での実績に加え、スタッフが自身の裁量で顧客との関係を強化できることは仕事のやりがいにもつながり、士気向上に直結する。
実際、スタッフスナップの運営に携わるスタッフはまだ一部の社員に限られているが、その9割以上が自ら手を挙げているという。同社もこのページは拡充する計画でそれに伴い、運営を司るマーケティング販促部も今後、現場スタッフへ権限を委譲していく方針だ。現状では、評価の公平性の観点から人事制度をさらに煮詰める必要があるものの、全店舗での展開も視野に入れている。
スター社員の稼働最大化で生産性を向上
オンライン化により、生産性の向上にも期待がかかる。鈴木氏が一例としてあげるのは、スター社員の“パフォーマンス最大化”だ。リアル店舗では、優秀な社員でも対応する顧客の数には限度がある。そもそも、来店してもらえなければ、対応ができない。そのボトルネックをオンライン接客で解消するのだ。
「例えば、スター性を持った社員が所属の店舗だけじゃなく、空き時間をうまく活用し店舗以外のお客さまの対応をすることでフルに稼働できれば生産性は高まることになる。オンライン接客ならそれも可能だ。実現には評価制度の整備が肝になるが、入社したら店長をめざすという従来の昇進モデルに加え、社内インフルエンサーという新たな目標ができる可能性もある」と鈴木氏はデジタル接客が定着した先にある組織変容の可能性にも言及した。
同社の試算では、こうしたデジタル接客によりもたらされる効果は、直接の売上アップのみならず売上関与面でより大きな貢献が見込まれるという。それだけに今後は、ポストコロナを踏まえつつ、主力のAOKI事業部への展開も見極めながら、ライブコマースの頻度増やスタッフページの拡充を軸に、在庫管理、データ活用などにも踏み込み、オンライン接客を総合的に強化していくという。そのプロセスは自ずと、アパレル販売のニューノーマル時代への対応とシンクロすることになりそうだ。