青森県を本拠に、岩手県、秋田県を含む北東北エリアで食品スーパー(SM)を運営するユニバース。競争環境が激化するなか、「Customers, our Priority.(顧客最優先)」を経営理念に掲げて事業を展開し、地域の支持を集めている。2011年のアークス(北海道/横山清社長)との経営統合から約6年、ユニバースはどのような経営方針を打ち出しているのか。アークスの会長を兼任する三浦社長に聞いた。
大手チェーンには撤退して欲しくない
──まずは、16年度の業績をどう振り返りますか。
三浦 ちょうど決算発表前のタイミングなので明確な数字は公表できませんが、予算と大きく乖離することはありません。
ただ今後、われわれが地盤とする北東北エリアにおいても、競争環境はますます厳しいものになっていくでしょう。全国的に見てもオーバーストア化が進むなかで、なかには淘汰される小売企業も少なくないと予想されます。そうした状況を鑑みて、16年度の業績がほぼ予算どおりとはいえ、「状況は厳しい」と社内では発破をかけています。
──既存店の状況はいかがですか。
三浦 これもまだ具体的には言えませんが、「なんとか前年実績をクリアした」といったところです。先ほども言ったとおり、競合店が増えている一方で、とくに北東北では人口の減少が顕著になっています。そんななかで「なんとかクリア」といった程度では厳しいと認識しています。
──競合企業としていちばん意識している存在はどこでしょうか。
三浦 われわれと同じく、青森県を本拠としている紅屋商事(秦勝重社長)さんは意識せざるを得ません。
一方で、全国チェーンの小売業さんに対しては、既存の立地から撤退しないでいただきたい、というのが偽らざる気持ちです。
たとえばトライアルカンパニー(福岡県/楢木野仁司社長)さんが、北東北でも出店攻勢をかけています。当初想定したよりは大きな影響は受けませんでしたが、それでも商圏内に出店されると、価格面では反応せざるを得ません。大手チェーンの撤退によって一定の大きさの土地が空くと、こうした有力チェーンの出店につながります。できればそういったケースは避けたいというのが本音です。
──とはいえ、そうした厳しい環境下でも堅調な業績を維持しています。ユニバースのどういった点が、顧客に支持されていると考えますか。
三浦 ユニバースでは「Customers, our Priority. ~私たちはいつでもどこでも顧客最優先~」という経営理念を掲げて、事業を展開しています。それに対するお客さまからの支持が徐々に広がってきているのではないかと考えています。
「顧客最優先」という考え方そのものは、どの小売業も理想としているものです。しかし、それを一人ひとりの従業員が行動に反映できている企業は決して多くはありません。われわれも、日々の業務で徹底できているかといえば、まだ十分と言えません。それでも、顧客最優先の取り組みがお客さまに認められてきているのだと思います。
──昨今の消費者の嗜好や消費行動の変化についてはどうとらえ、対応しているでしょうか。
三浦 一口に「変化」と言っても、そのとらえ方は非常に難しくなっているように思います。売上というのはニュースに左右されるところがあって、原材料の値上げや増税に関連するような報道があると、一時的に売上はダメージを受けます。しかし、それがずっと続くわけではありません。また、「高質商品が売れるようになった」とか「節約志向が強まっている」といった話も耳にしますが、そうした傾向は商品ジャンルによっても異なります。そのため、どう変化しているのか一言で評価を下すのは難しいのです。
ただ、所得低下や年金の問題などもあって、将来を心配する消費者は少なくありません。その点では、価格を重視する傾向は今後も強くなる可能性が高いでしょう。当社としても、価格はより意識していかないといけないと思っています。
これまでとは一線を画す店づくりにチャレンジ
──16年度はスクラップ&ビルドを含めて2店舗をオープンしました。どのようなコンセプトのもとに新規出店を進めていますか。
三浦 16年度については、これまでとは一線を画す店づくりにチャレンジしました。16年度は新店として「福地店」(青森県南部町)を、スクラップ&ビルドのかたちで「十和田東店」(青森県十和田市)を開業しました。そうした店舗では、これまでと違う店づくりを実現できたと思っています。
──なかでも十和田東店は小誌発表の「ストア・オブ・ザ・イヤー2017」でも18位にランクイン(17年4月1日号掲載)するなど、注目を集めています。具体的にどのような点が、これまでの店と異なる特徴なのでしょうか。
三浦 十和田東店は売場面積が3000㎡を超える大型店ですので、新しい取り組みや考えを反映させやすいということはあります。開業後から売上は好調で、地域のお客さまにもご支持をいただけているようです。
具体的にどこをどう変えたのかという点については、当社にとって戦略的な店舗ということもあって、詳しくご説明することはできません。実際、十和田東店については、メディア関係の方の取材等は、ゴールデンウィークまでは原則としてお断りさせていただいています。
ただ、とにかく言えるのは、これからのユニバースの店づくりの方向性を打ち出した店舗であるということです。もちろん常に変化させる必要はありますが、今後店舗開発を進めるうえでの1つの指針となる店舗となっています。
また、当社はかねて、「Customers, our Priority.」の方針のもと、売場のレイアウトについてはとくに重視してきました。そして現在は、消費トレンドに対応した売場づくりも進めています。たとえば、健康志向の高まりや即食商品の需要増といったトレンドに関連する商品をコーナー展開することで、選びやすい売場づくりを志向しています。十和田東店の開業を機に、そうした取り組みはとくに強化しています。
──17年度の出店計画はどのようになっていますか。
三浦 十和田東店から2kmほどの場所に「十和田西店」を出店する予定です。2店舗間の距離が近いこともあり、カニバリは避けられないと思います。そのため、通常の新店であれば2年目は対前年比10%程度の伸びを見込むのですが、十和田東店については、カニバリを見越し、初年度と同規模の売上の維持に努めます。一方、新店の十和田西店は集客・売上向上を図り、エリア内でのさらなるシェア拡大をめざしていきます。
それに加えて、17年度内に間に合うかまだはっきりしていませんが、岩手県盛岡市以南のエリアでも新規出店を行う予定です。
また、既存店改装については、17年度は3店舗前後で実施する計画です。ただ、それほど大規模なものではなく、中~小規模の改装になると思います。
総菜工場を新設、生産性向上を追求する
──ユニバースはほかのSM企業と比べても、収益性の高さが特徴です。それを実現するために、業務改善や生産性向上といった面ではどのような取り組みを進めていますか。
三浦 ユニバースの社内には、「反省文化」が根付いていると思います。研修を頻繁に行って業務や売場などのさまざまな問題点を洗い出し、改善につなげるというPDCAの考え方が浸透しています。
私は常に、「監視と観察は違う」と考えています。業務や店舗が滞りなく機能しているかを「監視」するのではなく、改善すべき点がないかを「観察」する、という意識を社員には持つように伝えています。
今後は、人時生産性を上げるということにも力を注いでいきます。AI (人工知能)やロボティクスが脚光を浴びていますが、これらの技術は近い将来、小売業にも大きな影響を与えるでしょう。生産性向上につなげるうえでも、こうした最先端の技術にも注目していきたいと思います。
──生産性向上を図るためには、適材適所での人材活用もカギになります。
三浦 17年度、とくに力を入れていきたいのは、ダイバーシティへの取り組みです。具体的には、女性の管理職を増やすこと、外国人、シニア世代の活用などが挙げられます。
まず女性管理職については、能力のある女性社員を積極的に登用して、外部からの採用もあわせて行いながら、その数を増やしていきたいと考えています。
外国人とシニア層の活用については、人手不足の問題が背景にあります。国籍や年齢といった枠を取り払い、能力と熱意のある人材を少しでも多く活用し、人手不足の解消につなげたいと思います。
──商品開発や製造の部分では、生産性向上に向けてどのような取り組みを進めていますか。
三浦 当社は現在、総菜の商品開発に力を入れています。「セブン-イレブンに負けない味の商品をつくる」という目標を掲げ、私自身も試食を繰り返しながら、商品開発に力を注いでいるところです。
そうしたなかで、17年度中に総菜の製造工場を八戸市内に新設する予定です。
これには2つの理由があって、1つは人手不足対策です。現在、総菜はすべてインストア加工の商品となっていますが、総菜工場の設置によって店舗の負担を軽減しつつ生産性向上を図るねらいです。
もう1つは、均質な商品を提供するためです。総菜については地域特性に合わせた商品開発も必要ですが、基本的にはどの店でも同じ味を提供できるようにしたいと考えています。総菜工場を活用することで、それを実現します。
とはいえ、現在店舗で行っている作業を一気に工場に託すのは難しいので、作業を工場に移しやすい商品から、段階的に移管を進めていきます。稼働開始時期については、繁忙期にトラブルがあっては困るので、お盆明けの9月頃を予定しています。
──生鮮3部門についても、プロセスセンター(PC)の開設などは考えているのでしょうか。
三浦 精肉についてはできればPCを設けたいと考えていて、検討を進めています。
ただ、課題となるのは建設コストの問題です。東北では東日本大震災の復興関連の工事がまだまだ残っていて、需要に対して建築業者の数が不足している状態です。工事費も上昇傾向にあって、設備投資がしにくくなっているのが現状です。
アークスのM&Aは進む
──さて、アークスと統合してから約6年が経ちます。今、統合の効果が最も感じられるのはどういったところでしょうか。
三浦 さまざまな面でコスト削減につながったということはあると思います。例を挙げると、グループ全体で包装資材の共通化に取り組みました。包装資材ひとつをとっても、グループ各社の考えがあって、そのすり合わせは大変なのですが、結果としてコスト減につながりました。
──商品の仕入れの部分では、共通化はなかなか難しいのでしょうか。
三浦 決して簡単なことではありませんが、仕入れについてもグループ一丸となった取り組みを進めていますし、効果も出ています。
たとえば、仕入れメーカーさまとの交渉です。消費者に価格で貢献するためには、われわれ小売業側の努力も必要ですが、やはりメーカーさまのご協力も不可欠です。
グループ各社の社長も出向いて話し合いを重ねたりした結果、理解を示していただけるメーカーさまも徐々に増えてきています。
──三浦社長はアークスの会長も務めていますが、アークスグループとしてのM&A(合併・買収)の進捗はいかがでしょうか。
三浦 小売業界においても合従連衡の動きが加速するなかで、M&Aのメリットに対する理解もだいぶ進んできています。M&Aの案件はこれからいっそう増えるでしょうし、われわれとしてもさらに推進していかなければならないと考えています。
実際、アークスグループ入りを検討している企業もあります。ただ、どの局面で「最後の決断」をすべきなのか、考えあぐねているケースが見られます。あまりに各方面に相談してばかりいると、決まる話も決まらなくなってしまいます。そういう意味では、やはりその会社の経営トップが中心になって決断する必要があると思います。
──最後に、ユニバースとしては、将来的に売上規模をどこまで拡大できると考えていますか。
三浦 われわれがアークス入りを決めた理由の1つとして、ユニバース単独で売上高1500億円を突破するという未来が描けなかった、というのがありました。ただ、当時は自社を過小評価していた部分もあったのか、今では売上高は1200億円を超えて、1500億円という売上規模は十分ねらえる範囲にあると思います。