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社会インフラとして卸機能の強化と生産性向上をめざす=PALTAC 木村 清隆 社長

化粧品・日用品・一般用医薬品(OTC)卸のPALTAC(大阪府)。創業から110年余の歴史を持つ同社は、徹底した作業効率化と積極的なM&A(合併・買収)によって規模を拡大してきた。このほど新中期経営計画を発表し、さらなる躍進をめざす同社の木村清隆社長に経営戦略を聞いた。

1品単価上昇で2015年は好調スタート

PALTAC 代表取締役社長 木村清隆(きむら・きよたか) 1954年山口県生まれ。1973年3月、大粧(現PALTAC)入社。2000年12月取締役九州支社長。05年12月取締役常務執行役員東京支社長。13年10月取締役副社長執行役員。14年4月代表取締役社長就任(現任)。
 

──足元の状況を教えてください。

木村 2016年3月期(15年度)第1四半期については、かなり厳しくみていましたが、結果的には売上高は対前期比8.4%増と、まずまずの成果が出せました。これはドラッグストア(DgS)をはじめ、小売業さま全体が好調で、2ケタ成長の企業が多かったことも要因です。

 昨年から付加価値型の商品の動きがよくなり、1品単価を押し上げています。以前は「プレミアム商品」と呼ばれ、今年は「贅沢品」と呼ばれるものが秋口以降も多くのメーカーさまから発売されています。これは日用品、食品にかかわらずトレンドとしてあるようです。

 当社の15年4月?8月の1品単価は、320円から330円へと上昇しています。本来、夏季は汗拭きシートなど、単価の低いものが多いため1品単価は下がる傾向にありますが、16年3月期は贅沢品やインバウンド需要の影響によって上昇しています。

 アベノミクスによる消費マインドの改善により、消費者も単に価格が低いものを選ぶのではなく、品質の高いものや自身で気に入ったものを購入する傾向が強まったことも、単価アップにつながっていると考えています。

 中国人をはじめとした訪日外国人観光客によるインバウンド需要の影響が化粧品・日用品・OTCの卸売業にも波及しています。この動きは20年の東京オリンピックまで続くのではないかとみています。

──DgSをはじめとして小売業界の再編が進んでいます。どのように対応していますか。

木村 小売業さまが経営統合しシナジーを創出しようとすると、異なる仕入れ価格や取引形態、納品方法、物流をどこかで統一しなければなりません。小売業さまは卸売業から仕入れている商品の原価を2つ持つことはできませんから、必然的に低いほうの原価に合わせることになります。卸売業にとってみれば粗利益高が下がることになります。

 当社は16年3月期から取引実態をより正確に反映するため、配送費、仕入割引、不動産賃貸収入、不動産賃貸原価について会計処理の方法を変更しました。直近の粗利益率は旧会計基準で10%、現在の会計基準では7%程度となっています。

 今後、小売業さまの再編は加速するでしょう。大手が小さな小売業さまを買収するケースはもちろん、同規模の企業同士が競争力を高めるために合併することもあると考えています。

 そうして再編が進めば、当社の粗利益率は現状の7%を切ることになるでしょう。ですから下がったぶんをカバーするため、生産性を高めることが必要になります。

 生産性ということでは、発注から納品までの一連の業務の中で、無駄な部分をどう圧縮するかが重要になります。当社でできること、小売業さまやメーカーさまと組むべきこと、物流業者と組むべきこと、またはこの四者で一緒になって取り組むべきことの4つがありますが、製配販個別の最適化ではなく、業界全体で各々が適正な利潤を確保できるように取り組んでいきたいと考えています。

 当社は116年の歴史の中で相当数のM&A(合併・買収)を実施してきました。その際、メーカーさまから仕入れる商品の価格については、PALTACの価格に合わせてきました。というのも当社の取引先の中には60%以上のシェアを持つ化粧品メーカーさまもありますから、あまり低い価格を提示するとメーカーさまの負担が大きいからです。取引先のメーカーさまにとって負担にならないよう価格を守るのも当社の務めだと考えています。

仕組みを改善していくことは強み、財産になる

──PALTACは化粧品・日用品・OTC卸としてはダントツの規模です。

木村 当社はこの17年間、生産性向上のためRDC(大型物流センター)を全国に建設し、物流機能を強化してきました。1998年から地道に行ってきたRDCの設備投資により、現在の当社があるといっていいでしょう。北海道から九州、沖縄まで、全国に16あるRDCを標準化し、同じ仕組みを導入することで生産性アップを実現してきました。

 センター1カ所で取り扱う商品が多いほどトラックの積載効率が上がり、1品当たりの配送費も下がります。小売業さまへの出荷に関しても、トラックへの積載量が50%なのか、90%なのかで当然1品当たりの配送コストが変わります。インストアシェア(取引先店舗におけるPALTACが扱う商品のシェア)が高くなれば、当然オリコン(折り畳み式コンテナ)も埋まり、積載効率が向上するため配送費が下がります。

 当社の「RDC横浜」(神奈川県座間市)は出荷額1000億円以上、今年8月に稼働した「RDC関東」(埼玉県白岡市)も同800億円以上あります。関東圏で1兆1000億円といわれる化粧品・日用品・OTC卸売市場の中で、当社のシェアは24%程度ですが、今後さらに高めていきたいと考えています。

──生産性を上げるためにどのようなことを行っていますか。

木村 当社では、毎日午前11時になると、全国のRDCの翌日の作業量がすべてわかる仕組みができています。RDCへの入荷量、出荷量、それに対応するための部門別作業量などがすべて数値化されて出てくるため、何人の人員で、何時間で作業が終わるかが、前日の11時の時点でわかるということです。この人員割り当ての仕組みは独自のものであり、これを突き詰めていくことがムダをなくし、生産性を高めていくことにつながります。

 会社全体のコストの9割近くは人件費と物流費です。人を減らすよりは、作業量にあわせた適切な人員配置と時間配分により、作業時間を圧縮します。人を減らしても作業が夜中までかかるようでは意味がありません。

 正社員からパートタイマーさんまで、改善点について何でも話し合える風通しのよい職場であることが当社の強みです。当社の三木田國夫会長は自身のことを「支配人」だといいます。私自身も自分は現場のマネジャーだと考えています。物流、商品、営業、システムの4つの部署はすべて同等であり、そこに調整役の私がいるのです。車の車輪と同じで4つのタイヤが同じように動くからこそ、真っ直ぐ走ることができるのです。どこかの部署が負担を抱えているとき、ほかの部署がどれだけカバーできるかもセンター運営の重要な点です。小売業さまに対する営業を第一に考えながらも、各部署が抱える負担分をどれだけ圧縮できるか。こういった考え方をもとにコスト削減を行っています。

 当社ではさらなる生産性向上に向けて、昨年からセンターなどでの作業手順を白紙に戻し、全員で意見を出し合いながら改善点の洗い出しを行っています。現状、出ている改善点だけで1000項目ほどありますし、今後も増えていくでしょう。これは終わりはないと考えています。

 仕組みを改善していくことは当社の強みになり、財産になります。機器やITをはじめとした物流システム自体は日々進化しますが、それを使うのはあくまでも人間です。当社には創業時から「人こそが財産」という考え方があります。システムは他社が追いつくことはできても、人材の育成については一朝一夕にできることではありません。人やシステムが効率よく動くことによって利益を生み出せば、メーカーさまや小売業さまの信頼を得ることにつながります。

 製配販がそれぞれ利益を確保できなければ、対等なビジネスは難しくなります。たとえば物流業者に対して値下げばかりを要求してはモチベーションも下がります。委託する配送業者さんには、当社は競合より多く支払うようにしています。ドライバーの実入りを少しでもよくすることで、気持ちよく仕事をしてもらえるよう努めています。

売上高1兆円に向け中期経営計画を策定

──PALTACはマツモトキヨシホールディングス(千葉県/松本清雄社長:以下、マツモトキヨシHD)の連結子会社だった伊東秀商事と10月1日に合併しました。ねらいを教えてください。

木村 DgSの店頭を強化したいというマツモトキヨシHDさんの考えと、シェアを拡大したいという当社の考えが合致したことによる結果です。また、当社の取引量が多いメーカーさまに伊東秀商事さんが強かったことも理由のひとつとなっています。もちろん、マツモトキヨシHDさんは当社の大切な取引先の一つですし、関東圏で大きな力を持った企業との取扱高が増加することは大きなメリットがあります。当社全体の取扱高の増加による、さらなる生産性向上を追求し、製配販全体の発展につながる企業運営をめざしています。

──8月に発表した中期経営計画(16年3月期?18年3月期)では、「社会に真に必要とされる中間流通業に向けた取り組み?売上高1兆円に向けた企業体質の強化?」をテーマに掲げました。

木村 中期経営計画のポイントは4つあります。

 1つめは情報システムの強化です。当社のシステムはすべて自社開発で、現在、約150人のシステム開発担当者がいます。これまで15年という時間の中で、システムを少しずつ組み上げてきましたが、古くなっている部分があります。今後3年かけて、標準化とスピード化を念頭に、現行の基幹システムを刷新していく予定です。予算は数億円ですが、外注に比べかなり安価ですし、なにより社内にノウハウが蓄積できます。

 2つめは、先ほどからお話ししている、さらなる生産性の向上です。全国のRDCの整備によって機能強化を図り、発注、仕入れから販売、納品にいたる各工程の見直しにより全体の最適化に努めます。

 3つめは、中間流通業としての機能強化です。単に商品を販売するだけでなく、小売業さまに対し販促や棚割など店頭施策を提案するほか、発注、配送についての改善点を見つけることで営業・物流・システムの一体型提案をめざすほか、メーカーさま向けに物流受託の取り組みを行うことで流通の最適化をめざします。

 そして4つめは人材の育成です。創業当時、数社しか取引先がなかったPALTACが116年間成長を続けてこられたのは、社長や幹部をはじめとした先人たちの努力の賜物にほかなりません。戦後には社長不在という時期もありましたが、チーム一丸となって会社を支えてきたのです。どうすれば会社が成長し社員がよりよい生活を送れるようになるのか。これが先人たちの頭の中にあったのです。前述の「人は財産である」という考え方や「三方よし」の精神はしっかり伝えていきたいと考えています。

 年間25億個の生活必需品を出荷する当社は、世の中になくてはならない社会インフラ企業になりつつあります。中期経営計画初年度の16年3月期は売上高8223億円、最終年の18年3月期には売上高8800億円、経常利益率2.1%をめざします。

 ちなみにこの中期経営計画はあくまでも成長過程のファーストステップととらえています。売上高はもちろんのこと、生産性を上げることで製配販のウイン・ウイン・ウインの関係を構築していきたいと考えています。