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「脱100均」を進めて独自業態の確立めざす!=キャンドゥ 城戸 一弥 社長

100円ショップを展開するキャンドゥ(東京都)は、会社設立20周年の2013年11月期から「第二の創業」をテーマに、さまざまな改革に着手している。直近14年11月期の連結業績では、2ケタの営業増益を達成した。成熟業態視される100円ショップ業界において、キャンドゥはどのような成長戦略を描いているのか。城戸一弥社長に聞いた。

2014年11月期は増収増益を達成!

──2014年11月期業績(連結)は、売上高が対前期比1.2%増の634億8400万円、営業利益は同14.5%増の17億円、経常利益は同11.8%増の18億9900万円、当期純利益は同18.1%増の7億2300万円となりました。14年4月に実施された消費税増税を乗り越え、2ケタ増益を達成しました。

キャンドゥ代表取締役社長 城戸一弥(きど・かずや) 1985年生まれ。2007年4月キャンドゥ入社。同年9月商品部次長、09年11月経営企画室室長。10年2月取締役経営企画室室長。11年2月代表取締役。同2月代表取締役社長(現任)。

城戸 当社は100円ショップですから、消費税増税前の駆け込み需要はほとんどないと予想していました。しかし蓋を開けてみると、14年3月の売上高は対前年同月比13%増と大幅な伸びとなり、これにはとても驚きました。

 増税後の4月は、駆け込み需要の反動減は想定内でしたが、5月~7月の既存店売上高が計画よりも落ち込みました。「これはおかしいぞ」と、ほかの業態の売上を見ると衣料品を中心に厳しいところが多くあり、お客さまは節約志向を強めたと実感しました。

 とはいえ、100円ショップの商品の売価は100円ですから、増税分は1品当たりわずか3円です。当社にとっては、駆け込み需要はあったものの、反動減もそこまで大きくなく、影響は小さかったと考えています。

──14年11月期の既存店売上高は対前期比0.3%減となりました。

城戸 前年の13年11月期は設立20周年に当たり、低値入れ率の「20周年記念商品」を多く販売しており、既存店売上高はある程度下がるだろうとみていました。ですから前期の既存店売上高微減は予測どおりの結果です。

 しかし、その一方で売上高総利益率が改善し営業増益となりました。その意味では、14年11月期の業績はほぼ計画どおりと考えています。

売れ筋は「アイディア」「癒し」「楽しさ」「手づくり」に変化

──14年は、消費税増税よりも円安の影響のほうが大きかったのではないですか。

城戸 一般に、海外から商品や原材料を調達している割合が高いと、為替の変動の影響を受け、円安が進めば売価に転化せざるを得ません。

 しかし、われわれ100円ショップは売価が決まっていますから、それができません。ですから多くの方に「100円ショップのビジネスは難しいでしょう」とよく言われます。しかし、実際はそうではありません。

 売価が100円ということは、原価がある程度自動的に決まりますので、そのなかでやりくりすることになります。その結果、たとえば乾電池なら1パック当たりの本数を減らしたり、またメーカーさんに商品に使う原料を減らしてもらったりして調整するのです。

 100円ショップは約30年前に確立された業態ですが、このようにして為替の変動を乗り切ってきました。

──キャンドゥは100円ショップ業界のなかでは比較的若い企業です。大きく成長できた理由はどのようなところにあると考えていますか。

城戸 当社は、ちょうどバブル経済が崩壊してデフレが始まったころ、1993年に設立しました。

 100円という価格競争力を武器に、低迷を続ける日本経済を横目に業績を伸ばし、「デフレの寵児」とまで言われました。これは当社だけではなく、ダイソー(広島県/矢野博丈社長)さんやセリア(岐阜県/河合映治社長)さんなどの同業や、低価格を武器にした外食産業も同じです。

 当社は時代の追い風を受けて、ヨットがジェットボートになったように急速に成長することができました。しかし近年は風の勢いがなくなり、成長のスピードが落ちてきていました。

 100円という価格に競争力があったのは一昔前です。今は100円に競争力があるとは考えていません。100円には「お得感」もありましたが、昔ほどではなくなってきたと思います。

 以前なら、100円ショップでは乾電池やトイレットペーパー、ティシュなどの日用品がよく売れました。しかし今ではお客さまの身の回りにドラッグストア(DgS)やコンビニエンスストア(CVS)が数多くあり、日用品を低価格で販売しています。

 100円ショップでトイレットペーパーを販売するとなると、売価は100円ですから2ロールが限界です。しかし、すぐ近くのDgSやCVSでは6ロール298円で売っています。100円ショップで2ロールのトイレットペーパーを3つ買うより、お客さまがDgSやCVSで6ロールの商品を購入するのは明らかです。

 また、企業の応接室に置いてあるようなガラス製の灰皿も、一昔前なら「これが100円なの!?」とお客さまは驚かれました。しかし、今では当たり前となり、「お得感」はなくなりつつあります。

 100円ショップが高成長を繰り返していた時代は日用品や雑貨、菓子などが売れ筋で、生活必需品を販売する「生活インフラ」の店のようにお客さまには認識されていました。しかし、DgSやCVSが増えて、100円ショップでは日用消耗品のウエイトは横ばいです。

 一方で、「ミニ観葉植物」や「レンジパスタ容器」など、DgSやCVSでは取り扱っていないような商品が売れるようになってきました。アイディア商品や嗜好品、ちょっとした楽しい雑貨などに売れ筋が変わりつつあります。

──いつごろから変わってきましたか?

城戸 アイディア商品や嗜好品といった新商品が消耗品よりも伸びるようになったのは2年ほど前からです。

 そのころ、一見してどんな使い方をするのかわからない商品があったので、「売れるはずがない」と担当者に文句を言ったことがありました。しかし、実際、販売してみると当社の新商品中、最も売れた商品となって、固定観念を打破しなければいけないと反省させられたのです。

 消耗品ではなく、「アイディア」「癒し」「楽しさ」「手づくり」といったコンセプトを切り口にした商品が売れるようになり、はっきりと時代の変わり目を感じています。

時代の変化は同質競争から抜け出すチャンス!独自の業態「キャンドゥ」だと認識されたい

──売れ筋の変化など、それまでのビジネスの手法が通用しなくなると、事業が低迷する可能性もあります。

城戸 私はそのピンチが逆に大きなチャンスにみえました。理由は、電池やトイレットペーパーのような消耗品は、競合店との価格競争がとてもきつかったからです。

 競合が乾電池6本なら、こちらは7本にする。すると競合は8本にしてくる。お客さまは喜ばれるかもしれませんが、利益をギリギリまで削ることを余儀なくされます。しかも、商品のボリュームは目まぐるしく変わり、お客さまからの信頼も失うことになります。そして、同じナショナルブランド商品を扱っている限り、大手のチェーンストア企業には、価格面ではまず勝てません。こちらが100円でも、DgSやCVSは98円で販売することができるからです。

 ですから100円ショップの売れ筋の変化は、同業他社や他業態との低価格競争から抜け出す絶好のチャンスだと考えました。

──同業他社やDgS、CVSと同じ土俵で戦わないということですね。

城戸 価格や量目ではなく、さまざまなコンセプトを切り口にした商品で勝負するのが当社の生き残りの道だと確信しました。実際、今はそのような商品の開発と販売に注力しています。

──それが13年11月期から打ち出した「第二の創業」なのですね。

城戸 そうです。めざしているのは「脱100均」です。当社はお客さまから「100円ショップ」と認識されるのではなく、「キャンドゥ」と認識されたいのです。

 100円ショップ業界の市場規模はおよそ5500億円といわれており、当社を含めた大手によって寡占化が進んでいます。ショッピングセンター(SC)にはさまざまな雑貨専門店が入っていますが、100円ショップは1社だけです。当社が「100円ショップ」ではなく、「キャンドゥ」という独自の業態だとお客さまに認識されれば、SCへの出店機会は格段に増えることになります。

 当社に限らず、100円ショップ各社がそれぞれ差別化に成功すれば、5500億円の市場規模が2倍の1兆円超になることは不可能ではないと考えています。ですから当社は一生懸命差別化に努めています。

《商品》《店舗》《仕組み》の創業でめざすは1000店舗

──さて、「第二の創業」では、《商品》《店舗》《仕組み》の3つの創業を掲げました。

城戸 商品については、これまでの「大きい、重い」から、「小さい、軽い」をテーマに商品開発の方向を180度変えています。

 乾電池などの消耗品は一度つくってしまえばそれでほぼ仕事が終わりですが、「アイディア」「癒し」「楽しさ」などを切り口にした商品は、そもそもどんなものをつくればいいのかはっきりとはわかりません。

 ですからマーケットリサーチを重視し、いろいろなところにアンテナを立てて、売れそうな商品を見つけて、100円で販売できないか検討します。当社で販売して動きがよかった商品からトレンドが読み取れますから、たとえば「アヒル」が売れたら次は「ブタ」のように、派生商品を増やしていくイメージです。

──商品開発担当者の意識や仕事の仕方を変えるのは大変だったのではないですか。

城戸 売れる商品が変わっているのは数字にはっきりと表れますから、それほど大変ではありませんでした。方向転換は私が単に方針を示すだけでは難しかったでしょう。コンセプトを切り口にした商品が売れる、と数字として明確に表れたことが大きなモチベーションになりました。

──プライベートブランド(PB)商品「DO! STARS」「toi-toi-toi Marche(トイトイトイマルシェ)」の展開もスタートさせています。

城戸 当社の売上高の約3割が独自開発商品です。そのなかで、「DO! STARS」は競合店にはない、品質にこだわったものだけに限定したPBです。ですから値入れ率は低く、利益商材とは言えません。あくまで差別化商品という位置づけです。

 14年夏から販売を開始したPB「toi-toi-toi Marche」は、「手づくり」を切り口にしたシリーズです。キャンドルやアクセサリーなど、好きな素材を組み合わせて自作できます。これはまさに「小さい、軽い」商品の代表例です。何かを手づくりする際はさまざまな素材が必要になりますから、買い上げ点数が多いのが特徴です。

──店舗政策では、新ブランド仕様の店舗の新規出店と既存店のリニューアルに力を入れています。

城戸 14年11月期には79店舗を新規出店。34店舗を閉鎖しました。既存店の大型改装は30店舗ほど実施しています。新規出店と改装は今まで以上のペースで進めていきたいと考えています。

 当社はこれまで「宝探し」ができるような売場をめざしてきました。しかし、お客さまの購買動向を見ると、すでに衝動買いから目的買いにシフトしていますから、現在は通路を広く取り、フロアマップもしっかり備え、わかりやすさを重視した店づくりをしています。商品政策面では、死に筋商品を減らし、アイディア雑貨や嗜好品を増やしていく方向です。

 1年半前から展開をスタートした新ブランド店舗は、約120店舗まで増えました。代表的な店舗は、14年4月開業の「キャンドゥ イオンモール大高店」(愛知県名古屋市)です。

 当社の店舗の売上構成は、平均すると雑貨8割、食品2割になります。大高店は雑貨のみとし、日用消耗品も売場の奥のほうに移動させました。その結果、売上は予算の4割増で推移しています。

──大高店を見ると、商品の陳列、打ち出し方がこれまでの100円ショップのイメージとは大きく異なる印象です。

城戸 当社が優れていると自負しているのは、ディスプレー力と商品展開力です。

 毎月、本部から各店舗に「52週販売カレンダー」とともにディスプレーなどの参考例を配信していますが、陳列の難易度が高かったり、店舗によってはハード面の制約からそのとおりに売場をつくることができないケースもあります。商品の展開や陳列は個店ごとにアレンジしているのが実際のところです。

 また、当社は14年11月期末時点で888店舗を展開しています。そのうち600店舗は直営で、残りの288店舗はフランチャイズチェーン(FC)店になります。

 当社はチェーンストアですから、店舗ごとのバラツキは極力なくしたいと考えています。今後、売場づくりや店舗運営など1年かけて標準化を進めていく計画です。

 これら《商品》《店舗》《仕組み》の創業を実現し、16年11月期に店舗数1000店舗の達成をめざしています。