西友(東京都/スティーブ・デイカスCEO〈最高経営責任者〉)は2013年6月、それまでの「西友ネットスーパー」から、ネットスーパーとEC(ネット通販)を融合した「SEIYUドットコム」に移行した。1年が経過し、ネットスーパーとECの融合は進んだのか。また、拡大するネット需要をどのように取り込もうとしているのか。同社ドットコム事業本部の久野克宜執行役員シニア・バイス・プレジデントに聞いた。
購買履歴に推奨商品を表示 英アズダの知見を生かす
──ネットスーパーとECを融合したSEIYUドットコムを立ち上げて1年が経ちました。これまでの状況はいかがですか。
久野 この1年間の売上は、それまでの1年間に比べて40%増と拡大しました。4月には、消費税増税前の駆け込み需要の反動減がありましたが、5月、6月の売上は対前年同月比約60%増と回復してきています。会員数は、1年前から50%ほど増え、約80万人になりました。
ネットスーパーとECの融合で、「ネットスーパー便」と「配送センター便」の2つの配送方式を用意していますが、売上はどちらも好調です。ネットスーパー便の5月、6月の売上は、いずれも対前年同月比40%増で推移しています。新しく始めた配送センター便は、前年との比較はできませんが、月次の売上推移は、前月に比べて2割増のペースで伸びています。売上比率は現在、ネットスーパー75%、EC25%ですが、今後はECが伸び、それぞれ50%になると見ています。
──最近のネットでの購買行動に変化はありますか。
久野 商品を探すお客さまが増えています。食品や日用品をネットで購入する経験のなかったお客さまが、消費税増税前の駆け込み購入に、初めてネットで検索されたようです。今年2月くらいから商品を探すお客さまが増え、そこからサイトに流入するケースが一気に増えました。消費税増税がお客さまの購買行動を変えるきっかけになったのでしょう。
また、ネットスーパーを利用されるにしたがって、購入される商品が、店舗でのふだんの買物に近づいていくというのが、はっきりと現れてきています。初めてSEIYUドットコムを利用するときは、重いものやかさばる商品を購入されて、それ以降、牛乳、卵、豆腐など徐々に購入商品が広がっていっています。
5年ほど前、食品や日用品をネットで購入するお客さまは限られていましたが、今は裾野が広がってきています。食品や日用品などのふだんの買物が、実店舗からネットにシフトする入口に立ったと言えるのではないでしょうか。
──利用客の購買データの分析や活用では、米ウォルマートのノウハウを生かしているのですか。
久野 どういう頻度やパターンでサイトにアクセスされているか、どのようにサイトを閲覧されているか、どういう商品を関連購買されているかといった分析をつねに行っています。こうしたデータの分析から、お客さまに適した商品を推奨したり、適切なタイミングでコミュニケーションをとったりしています。
英国のアズダを始め、ウォルマートグループは世界各国でネット事業を展開しています。各国の顧客データの分析や活用の知見を吸収し、グループとしての強みを生かしていきたいと思っています。とくに、ネットスーパーの事業規模を拡大するアズダが、どのように市場を開拓してきたのか、お客さまをどのように固定客化して維持しているのか。われわれと同じ食品スーパー(SM)を展開するアズダの取り組みは参考になります。
たとえば、SEIYUドットコムには、お客さまの購買履歴ページ「MyBest(マイ・ベスト)」があります。ここに推奨商品を表示することをこの春から始めました。その結果、推奨商品を購入される割合がこれまでの施策の中で最も高くなり、コンバージョンレート(訪問者数に対する購入者数の割合)がそれまでの数倍にも上がったケースもありました。これはアズダの成功事例の1つです。
──SEIYUドットコムのシステムで、世界共通の部分はありますか。
久野 大きくフロントエンドとバックエンドがありますが、バックエンドはわれわれが開発したシステムで、フロントエンドは協働運営するディー・エヌ・エー(東京都/守安功社長)と共同で開発したシステムで構成しています。配送センターには、ウォルマートの在庫管理システムを導入しています。システムを世界共通にするのはアイデアとしてはありますが、具体化しているわけではありません。
──新規顧客の開拓については、どのようなことに取り組んでいますか。
久野 ネットを検索してネットスーパーを探しているお客さまに、われわれのサイトを利用してもらえるように誘導するのが基本になります。検索結果の上位に現れるようにする検索エンジンの最適化については、ディー・エヌ・エーのノウハウを生かしています。それ以外に、新たな地域でサービスを始めるときは、チラシやクーポンなどを組み合わせて、われわれのサービスの認知を広げることも行っています。
配送センター便とネットスーパー便 どう使い分けてもらうか
──ウェブサイトの使い勝手は、どのように改善していますか。
久野 お客さまからの意見や要望をシステム改修に反映しています。また、お客さまへのアンケート調査、アクセスログ解析を通じて、お客さまがどこで、どのように買物をされているのかについて理解も深め、改善に生かしています。IT企業のディー・エヌ・エーは、仮説、実行、検証、改善のスピードが速い。わかったことはすぐにサイトに反映し、使い勝手をよくするようにしています。
──配送センター便とネットスーパー便の2つの配送方法についての反響はどうですか。
久野 最初の数ヵ月は、いろいろな学びがありました。お客さまにどのように表示すれば、2つの方法を便利と感じてもらえるか。お客さまの声を聞きながら、さまざまな改修を進めてきました。当初は、使い方で迷われることがあったのは事実です。ただ、昨年12月から、配送センター便の配送料無料となる購入金額を引き下げたほか、いくつかの変更をした結果、お客さまからの苦情や困惑の声は大きく減少しています。
配送センター便については、販売単位も変更しました。たとえば、商品単価の高いトクホの飲料は、ケース単位にすると5000円~6000円にもなりますから購入しにくいところがあります。そこで、今年6月から、900円程度になるように6本単位で販売したところ、この6本単位の売上が伸びました。お客さまは配送料が無料になる購入金額を念頭において購入されることが多いため、商品単価が100円程度の商品は1個単位で買いにくいところがあります。その点からも、複数個で1000円近くになれば選びやすくなります。こうした販売単位についても、さらに工夫していきたいと考えています。
──ネットスーパー便で、配送料が無料になる購入価格を引き下げる考えはありますか。
久野 今のところ、引き下げることは考えていません。配送料が無料になる購入価格を考えるよりも、お客さまにとって本当に便利な受け取り方法が何なのかを深掘りしたいと思っています。ネットスーパーの配達時間枠は2時間単位ですが、その時間、自宅で待たなければいけないというストレスもあります。自宅配送ではない方法もこれから追求していかなくてはなりません。将来的には、米国のように注文した商品を店舗で受け取れるようにすることも必要になるでしょう。
──配送センター便が対象としているのは、ネットスーパーのサービスを提供していないエリアですか。
久野 ネットスーパーのサービスを全国で展開するまでには時間がかかります。その意味で、配送センター便は、ネットスーパーのサービスを提供していないエリアでも商品を販売できるメリットがあります。店舗のないエリアのお客さまには、西友の商品が手に入るようになったと感謝されていますし、店舗に行けないお客さまに配送センター便が受け入れられているという実感はあります。
一方で、配送料が無料になる購入金額や配達時間などで、ネットスーパーと比べて配送センター便が使いやすいというお客さまもいます。そういうお客さまは、ネットスーパーのサービス提供エリアでも一定量は配送センター便だけ利用されています。ネットスーパー便と配送センター便をお客さまが選択しやすいように、サイトをわかりやすくすることが重要だと考えています。
ネットスーパーのお客さまは、1週間か2週間に1回の頻度で利用されるようになると、それを基本の買物にして、あとは足りない商品などを店舗で買うという購買行動が増えていきます。ある程度まとめて購入してストックすればいいと思われるようになると、ネットスーパーは非常に便利です。
配送センター便 2016年10万SKUに
──商品部門の中で主力になるのは食品ですか。
久野 SMのイメージが強いですから、やはり食品です。売上の大半を占めるのは、グロサリーや生鮮食品です。ただ、食品でも品揃えが十分にできていないところがありますから、今秋をめどに食品を強化する予定です。対象カテゴリーは調味料、加工食品、菓子、ベーカリーなどで、われわれの持っている最大の品揃えパターンまで広げます。
配送センターでの賞味期限管理などもこの1年で磨いてきましたので、鮮度を保った状態で自信を持ってお客さまに商品を提供できる態勢も整いました。まずは、食品の品揃えをお客さまにしっかり認知していただけるようにします。
ネットスーパーの取扱商品は最大約1万5000SKU。配送センター便の取扱商品は2万SKUですが、これを2016年に10万SKUにしたいと考えています。
──衣料品や住居関連品はどのように考えていますか。
久野 もっと改善する余地はあります。食品を買おうとしてアクセスされるので、最初から衣料品を訴求してしまうと、SMの店頭に衣料品が置いてあるのと同じになりますから、目的と違うサイトに来たと思われてしまいます。どのようにすれば、自然なかたちで衣料品のページに行き着いてもらうようにするかは今後の課題です。
ある意味で、どのECも同じような課題があると思います。10万SKUであろうと、100万SKUであろうと、目に触れなければゼロSKUと同じです。目的買いのお客さまが早くそのページに行こうとしているときに、ほかの案内が出てくると、お客さまはウェブサイトから離れてしまいます。目的の商品があって、そのうえでほかの商品を推奨していくやり方を磨いていきたいと思います。
──プライベートブランド(PB)の動きはいかがですか。
久野 PBの売れ行きは好調です。西友の店舗がないエリアのお客さまもPBを購入されています。PBから優先的に購入されるお客さまも少なくありません。その点では、目的をもって購入されているのではないでしょうか。
直輸入商品も好調ですが、競合の倉庫型店舗と伍していけるように、品揃えをさらに拡充していきます。知人や友人と一緒に倉庫型店舗に行って、購入した商品を駐車場で分け合わなくてもいい買物体験を提供できるのではないかと思っています。
ストレスのない買物体験を提供 店舗でのピックアップも検討
──オムニチャネルを打ち出す小売業が増えています。西友はオムニチャネルをどのように考えていますか。
久野 ウォルマートは、取り立ててオムニチャネルと言っているわけではありません。オムニチャネルの考え方は企業によって異なります。
われわれが、ネット事業を行うときに、実店舗という資産を活用しないのは、効率的ではありません。オムニチャネルは大きく言えば、実店舗とネットの両方を活用していくということです。仕事帰りに店舗に立ち寄って、注文しておいた商品を受け取って自宅に帰るというニーズもあるでしょう。店舗だけでなく、工場や保育園などもピックアップ拠点になるかもしれません。
われわれのミッションである、低価格で価値ある商品を提供し豊かな生活に寄与するという意味の「セイブ・マネー・リブ・ベター」を、いつでも、どこでも、お客さまが体感できるようにするという観点から、オムニチャネルに取り組みたいと考えています。
──実店舗とネットの融合した新しいサービスとしては、どのようなことを考えていますか。
久野 一部のエリアでは、ネットスーパーの注文当日に配送するのが難しいくらい需要が増えています。このエリアには、配送便をどのくらい増やすかという課題があります。ピックアップの手段を提供するという選択肢も試しながら、お客さまにとって何が便利かということを学んでいきたいと考えています。
また、商品の情報などをスマートフォン(スマホ)に表示し、お客さまにとって買物がしやすくなるようなデジタルの体験を提供することも考えています。口コミや売上ランキングなど、いろいろなかたちで店舗と連携できるでしょう。お客さまが店舗に来る前に、半分くらいは買物が済んでいる状況をつくっていきたいと思います。
以前から利用されているお客さまはパソコンが多いのですが、新しく利用されるようになったお客さまはスマホからのアクセスが増えています。買物カゴをスマホとパソコンで共有していますから、スマホで買物カゴに入れておいて、自宅でパソコンから注文することもできます。お客さまの望む受取場所や時間を含めて、いつでも、どこでも、ストレスのない買物体験をいかに提供できるかを突き詰めていきたいと考えています。
──中長期の売上目標を教えてください。
久野 今ちょうど、社内で中長期の計画を立てるプロセスが終わったところです。具体的な売上数値は開示していませんが、計画では東京オリンピックが開かれる20年までに、13年の売上の10倍にすることを目標に置きました。そこまでいけば、食品や日用品のECの中で、十分大きなプレーヤーになれると思っています。