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マーケットイン発想で売場をつくり直す!=ユニー 佐古 則男 社長

2013年2月、純粋持ち株会社に移行して、ほぼ1年が経ったユニーグループ・ホールディングス(愛知県/前村哲路会長)。傘下の事業会社で、総合スーパー(GMS)、食品スーパー(SM)を中心に総合小売事業を展開するユニー(愛知県)を率いるのが、佐古則男社長である。グループ経営の中で、どのように事業改革を進めるのか、佐古社長に聞いた。

PBの「スタイルワン」と「プライムワン」を強化

──地盤の中京地区は競争が激しさを増しています。ライバルとどう戦いますか。

ユニー 代表取締役社長 佐古則男(さこ・のりお)
1957年(昭和32年)7月岐阜県下呂市生まれ。80年3月明治大学卒業、ユニー入社。2001年アピタ中津川店長。02年経営政策室マーケティング担当部長。05年経営政策室長。06年執行役員。08年取締役、執行役員。10年営業統括本部長。11年常務取締役、常務執行役員。12年営業統括本部長兼関連事業本部長。12年専務取締役、専務執行役員。13年代表取締役社長(現任)。

佐古 われわれの強みは、この地区でドミナントを築いていることです。ユニーグループには、GMSの「アピタ」、ミニGMSの「ピアゴ」、コンビニエンスストア(CVS)の「サークルK」「サンクス」のほか、衣料品専門店の「さが美」「パレモ」、飲食店の「ユニフード」などがあります。ユニーグループの看板がしっかりとお客さまに認知されていますから、それを生かした商売をしていかなければなりません。

 たとえば、独自電子マネー「ユニコカード」の発行を2013年11月に始めましたが、この地区にユニーグループが浸透しているからこそ、スムーズに会員化していけるというメリットがあります。

 以前は「競合」と言われましたが、今は「競争」と言われます。勝つか、負けるかの時代になってきたのです。勝負のポイントは、価格以外の要素でいかにお客さまに来店していただけるかです。アピタ、ピアゴ、サークルK、サンクスで生まれるシナジーをベースに、これを追求していくことが勝つポイントになるでしょう。グループ共通のプライベートブランド(PB)「スタイルワン」と「プライムワン」は、シナジーが発揮できるわかりやすい例でしょう。

──13年5月に、女性従業員260人を組織化したスタイルワン研究所を立ち上げました。ねらいは何ですか。

佐古 商品部のバイヤーは、男性か女性かを意識しているわけではありませんが、ほとんどが男性です。しかし、女性が消費の主導権を握っているのは間違いありませんし、男性よりも女性の市場が圧倒的に大きい。となると、女性のニーズに合う商品をつくる必要があります。そのために、商品を女性に評価してもらう。しかも、ユニーのよい点もそうでない点もわかっているほうが、より的確な評価ができます。

 スタイルワン研究所は、ホールディングスの中の商品開発部門が組織しています。常駐メンバーはいません。女性従業員に、アンケートや試食などで商品を評価してもらい、その中からマスのニーズをつかんで、商品開発に生かすための組織です。

 評価結果から、商品を改良した例もあります。パウチ総菜のスタイルワンを評価してもらったところ、男性の口には合っていたのですが、ほとんどの女性からおいしくないという評価を受けました。そこで、女性の舌に合うように、あっさりした味付けに商品を改良しました。

──9月には、「マーケティングルーム」を開設しました。ここでは、どんな活動をしているのですか。

佐古 マーケティングルームのねらいは、スタイルワン、プライムワンの商品力強化と開発期間の短縮です。お客さまのニーズの分析、商品企画、商談、試食、パッケージデザインの開発、売場イメージの統一など、商品化までの流れを一元的に管理しています。

 パッケージデザインについては、包材管理業務を委託している伊藤忠プラスチックス(東京都/小松〓隆一(こまつざき・りゅういち)社長)が常駐して全体を管理しています。今までは、外部とのコミュニケーションに時間がかかっていましたが、その場で話ができますから、企画から製品化までの時間を短縮化できるようになっています。1カ月くらいかかっていたものが、2週間くらいでできるようになった商品も出てきています。

全従業員でマーケティング活動

──スタイルワン研究所がマーケティング機能を担うのですか。

佐古 スタイルワン研究所だけがマーケティングを行うわけではありません。バイヤーはもちろん、店舗指導員の「フィールドマーチャンダイザー」も、ほかの従業員もすべてです。基本的には、自分たち自身でマーケティングとは何かを考える。スタイルワン研究所だけのマーケティングでは不十分です。全従業員がマーケティング活動を行うことが必要になります。

──従業員からのフィードバックの仕組みや組織はどうなっていますか。

佐古 フィールドマーチャンダイザーが、本部の考えを店舗に伝え、店舗の情報を本部に伝える。これが1つです。それからESプロジェクトという従業員満足のためのプロジェクトがあります。これは店舗の意見を吸い上げることを1つの使命としています。それから、改善活動もあります。2600の改善チームが活動をしています。お客さまのためになることや喜ばれることをPDCA(計画・実行・検証・改善)を回しながらやっています。こうした、いろいろな組織体を組み合わせてやることになります。

 また、月に2回、カジュアルデーを設けていて、商品部やスタッフ系の従業員が自社開発の商品を着て、商品の不具合やサイズ・裾・縫製の問題点を本部にフィードバックします。それを受けて、商品部は商品を改良していきます。

──まさに従業員が一体となったマーケティング活動ですね。

佐古 情報は、お客さまから直接入手するべきです。お客さまの、いちばん近くにいるのは店舗の従業員です。本部が集めた情報には推測や予想が入り込みます。縮小市場で、どうやって「商売の確率」を上げるかとなると、店舗の従業員がお客さまから情報を収集することがまずは必要になります。

 これからの商品政策は、5W1Hをはっきりさせなくてはいけません。だれに、何を、いつ、どこで、なぜ、どのように提供するのか。これをはっきりさせるほど、売れる可能性が高くなります。そのためにも、お客さまから情報を収集することが重要になるのです。

製造小売化をめざす生鮮・総菜で差別化

──差別化の肝は商品になりますか。

佐古 われわれはモノ売りですから、モノが他社よりいかに優れているか、あるいは負けていないかということが重要です。スタイルワンは、商品価値をライバルに負けないレベルにすることを重要視していて、圧倒的に勝つ必要はないと考えています。なぜならば、ナショナルブランド(NB)と品質が同等で、お値打ち感があるという商品だからです。しかし、プライムワンは圧倒的に独自性がないと、ライバルに勝てない商品ととらえていますから、これが大きな差別化の肝になってきます。

──製造小売化の方向に向かっていくのですか。

佐古 そうです。加工食品・チルド・菓子・酒類・生鮮食品・総菜で、川上にさかのぼってモノづくりにかかわっていくことになると思います。

 オーバーストア化が進む中で、NBは価格競争が激しくなっています。価格競争を避けるためには、価値を求めるお客さまに、他社にない生鮮食品や加工食品をどのように提供するかがポイントです。以前は、メーカーのプロダクトアウトによる商品を、お客さまの需要に合わせて供給して、品切れしないようにすることが重要でした。今は、マーケットインでお客さまのニーズを拾い上げて、マスのニーズを商品化する時代に変わってきています。われわれからお客さまに近づき、商品を発案して、独自のPBをつくる必要があるのです。

 中期的には、開発商品の割合を25%程度に引き上げます。生鮮食品を含めるともっと高まるでしょう。最大の差別化商品は生鮮食品や総菜になります。

──今年1月に、ブロイラー鶏肉事業会社を買収しました。

佐古 農産・水産・畜産、すべてにおいて流通構造を明らかにし、安全でおいしいものを安定調達していきたいと考えています。買収の目的は、生産・流通の履歴の追跡について、われわれが保証できること、そして商品の加工度を上げることです。

 産地との協業は以前から取り組んできました。今後、自ら農業や漁業に乗り出すことは考えていませんが、産地と業務提携や資本提携を行うことはあるでしょう。

──総菜のメニュー提案にも力を入れています。進捗状況はいかがですか。

佐古 13年8月に、総菜製造会社を買収しました。ここで、常温・チルド・ホット・冷凍という4温度帯の商品を開発し、これらの商品の売場でのウエートを上げていきたいと考えています。

 商品開発の軸は、お客さまの体を健康にする、あるいは害のないようにするということです。この2つの軸で開発していきます。健康軸の商品開発といっても、無農薬や有機栽培の商品を使うということではありません。農薬を適量使わないと、生産性が下がりますから値段が高くなります。作物が病気にならないために、農薬は適量を使うことが必要です。また、1つの商品をとらえて塩分をゼロにするといったことも無意味です。食事の中で、適量の塩分を摂る必要があります。栄養のバランスをとりながら、メニューと単品を合わせて提案するのがポイントになります。

 そういう観点から、従業員が栄養学を勉強して、人間の体に何がいいのかを考えたうえで、商品の提案をすることが必要だと考えています。プロダクトアウトの売場はお客さまに主張する売場になりませんが、マーケットインの売場は主張できます。これが衣料品・食品・住関連品の共通の課題です。

 14年度は勉強の年です。15年度から本格的にスタートして、目に見えるかたちで売場化していきたいと考えています。

──食品以外は、どのように改革していきますか。

佐古 従業員には、「百貨」でなくていい、「五十貨」でいいと言っています。もはや、すべてのカテゴリーを網羅し、ワンストップショッピングを提供し、お客さまを満足させることはできません。しかし、限られたカテゴリーは圧倒的にお客さまから当てにされるようにしなくてはなりません。

 アピタでは、「おしゃれ」「楽しい」「新しい」というキーコンセプトと生活提案という2つの切り口で、まず「コト」をはっきりさせたうえで、何を仕入れるかを決める。コトがあってモノを売るという売場をめざしています。たとえば、「スポーツマルシェ」では、スポーツ用品・用具は扱わずに、フィットネス、ウォーキング、ランニングといったウエアを中心に揃えています。

 1000坪の住居関連売場の中に、「当てになる売場」を50つくる、そんな売場構成にしていきたいと考えています。売場は、自社開発の場合もあれば、他社の力を借りる場合もあるでしょう。北欧雑貨店の「ラガハウス」は他社の力を借りていますし、自社開発では自転車の「サイクルテック」やペットの「ペッツビレッジ」といった売場があります。

ネットにはない買物の楽しさを提供する

──ネット通販市場が拡大しています。どんな対策を考えていますか。

佐古 ネット通販の市場シェアは、日本3%、米国6%、中国10%と言われています。5年から10年で、日本では10%まで伸びるでしょう。

 対策の1つは買物の楽しさを追求することです。これまで、われわれは実需を追いかけてきましたが、これからは衝動買いのマーケットを取り込んでいきます。衝動買いができるような店舗の売場構成や商品構成にすることがポイントになります。売場の楽しさはネットの世界にはありません。ネットにはない嗅覚・味覚・触覚を売場の中で体験できるようにしていきたいと考えています。

 もう1つは、リアル店舗でネットの買物をできるようにすることです。たとえば、食品で1万円もする商品を店頭に陳列できませんが、これをスマートフォンやタブレット端末を使って買えるようにする。われわれには、実際に看板を掲げたリアル店舗の優位性があります。中京地区でドミナントを形成していることを、リアルとネットの融合においても、生かしていきたいと考えています。

──ネット経由での売上はどれくらいを見込んでいますか。

佐古 3年後に100億円をめざしています。どの分野に特化していくのかが重要だと考えています。ロングテールの商品を扱う考えはありません。たとえば、当社ではクリスマスツリーの品揃えを強化していて、中京地区でシェアが高い。そうした特化した分野をつくっていくのです。また、保険やクリーニング、リフォームなどのサービスをモノと組み合わせて販売することも重要になっていくでしょう。

──4月の消費税増税で消費が冷え込むと見られています。どんな見通しを持っていますか。

佐古 小売業の業績は悪くなると思います。1997年、消費税が3%から5%に引き上げられたとき、2年続けて売上が減少しました。今回も同じように売上は減少するでしょう。とくに住居関連品と衣料品の減収は避けられません。いかに売り方を工夫し、減収幅を小さくして利益を残すか、そこが大きなポイントになります。

 また、リーマン・ショックのときもそうでしたが、価格志向が強まるでしょう。ただ、われわれが低価格路線に踏み込めば、利益が吹き飛んでしまいます。価格対応はしますが、積極的に安売りをすることは考えていません。むしろ、価格以外で、お客さまの生活を豊かにする提案にこそ価値があると思っています。チラシに低価格の商品を掲載しただけで売れることはなくなるでしょう。消費者のニーズは多様ですが、われわれは、マスのニーズをつかんでいく必要があります。チラシでも、この商品とこの商品はテイストが同じだから、まとめて提案すれば、お客さまに新たな価値を提供できるかもしれません。そんな提案をしていきたいと考えています。