2020年3月期に、食品スーパー(SM)企業としては前人未到の31期連続の増収増益を達成したヤオコー。コロナ禍に伴う巣ごもり特需の後押しもあって、21年3月期に入ってからも業績は好調で、増収増益記録を「32」に伸ばすのはほぼ確実だ。ヤオコーはなぜ、これほどのまでの高収益企業となったのだろうか。小売業界のトップアナリスト、クレディ・スイス証券の風早隆弘氏が解説する。
「ヤオコー」を主語にあるべき姿を追求
先進的かつ堅実──。ヤオコーという企業を一言であらわすならば、そのような言葉があてはまるのではないだろうか。
社会情勢の変化や社会的課題をふまえながら、現在および将来の消費者を見つめ、10~20年先に向けて自らが果たすべき役割を定義したうえで、マテリアリティ(組織にとっての重要課題)を明確に特定している。そして、そうした発想による先進的な取り組みを標準化し、チェーンストア経営の仕組みに組み込むことによって、継続的な増収増益と事業規模の拡大を実現してきた。
SM業界では、ともすると競合他社の動向に影響されたり、競合他社の成功事例を表層的に模倣しようとする傾向がみられる。その一方、ヤオコーは、常に「ヤオコー」を主語に据えて社会における自らの立ち位置を定め、「SMとしてどうあるべきか」を徹底的に追求し、その実現に向けたステップを着実に実行している。
1994年度以降、同社は3カ年ごとに中期経営計画を策定し、次なる経営課題を提示し続けながら、地道な積み重ねによって成長を遂げてきた。たとえば、97~99年度の第2次中期経営計画では、「コモディティディスカウント型スーパーマーケット」と相対して、生鮮食品や総菜を充実させた「ライフスタイルアソートメント型」の店づくりにいち早く着手。2003~05年度の第4次中期経営計画では、その商品力と提案力をさらに進化させるべく、総菜の強化を軸とした「ミールソリューション」を打ち出した。
価値訴求と価格訴求を両立
そして、ヤオコーの強みは、「ライフスタイルアソートメント型」や「ミールソリューション」といった先進的な取り組みが一時的、局所的なものにとどまることなく、多店舗化を前提とした仕組みのもとで実現している点だ。消費者の来店頻度が高いSMでは、目新しい取り組みで消費者を一時的に惹き付けられたとしても、これを継続できなければ、消費者の関心はやがて失望に変わってしまう。
SM業界は「いい商品であれば高くてもよい」とする価値訴求型と、「安ければ安いほどよい」とする価格訴求型のプレイヤーとで二極化する傾向にある。一方、消費者側では「総菜は付加価値の高いおいしいものを選びたいが、ヨーグルトや緑茶飲料のような、日常的に消費する食品はできるだけ安く買いたい」といった、購買行動パターンがみられる。
ヤオコーは、
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