「ECは安上がり」の大勘違い 5億円売上げるためのマーケティングコストは1億円を超える事実

河合 拓
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楽天やAmazonに安易に出店するのは、顧客を奪われるだけ

アマゾンのロゴ
(2020年 ロイター/Abhishek Chinnappa)

 赤字を避けるためには、ブランド力を強力にし、顧客の離脱を食いとめ、セット率を上げて客単価を上げることだ。また、RFM分析(最終購入日、購入頻度、累計購入金額の3つを使って顧客をランク付けする手法)という手法を駆使し、顧客を差別化してロイヤルカスタマーの比率を上げる、また、ロイヤルティプログラムを仕掛けて売上に占めるロイヤル顧客の比率を上げるという技術が必要になる。通販ビジネスをやっている人であれば常識であるが、やったことがない人にはチンプンカンプンだろう。最近では、RFMはもう古いということで、AIなどを使って、さらに複雑な計算をしてリテンション・プログラム(お客さまに何度も購買してもらうシステム)を活用している企業が多い。

 驚くことに、大赤字になって素人がさらにやる失敗は、「では楽天やAmazonに出店すればよい」と考え、モールへの出店を行い、さらに上前をはねられる、というものだ。そして、自分たちの商品やブランドを気に入っている消費者も、根こそぎモールに奪われるのだ。

 Amazonなどは世界で数兆円というマーケティングコストをかけた最新の技術を使い、クロスセル、アップセル、追加購入からサンクスメールまで自動化され、コールセンターも週末も稼働し、物流費も無料、ついでに映画も見放題というサービスを展開している。 気付けばあなたの会社が何億円もかけて貯めた自社顧客の80%は休眠となり、アクティブは20%。四面楚歌の状態に陥ることになるわけだ。再建屋の私が、こうなった企業に呼ばれたことは1〜2度ではない。

 パソコンショップのホームページ作成ソフトを1万円ぐらいで買って、買い物かごをつけ、一生懸命倉庫から配送すれば楽勝だ、と考えて自爆する人は、私が上記のような、極めて単純化した説明さえ何を言っているのか理解さえできないだろう。流行の芸能人に服を着せ、見よう見まねでつくったブランドを適当に売れば大儲けなどという夢は捨て、まずは基本を学ぶことだ。もう一度言おう。今、消費者はAmazon、楽天、ZOZOで十分なのだ。そこに存在感を表すことがいかに難しいかということを考えてみればよい

 SPAという言葉が流行って、数十年経つが、私が知る限りECも含めたリテールオペレーションと、ものづくりにおけるバリューチェーンの最適化を両面で成し遂げている企業はごくわずかである。先ずは、やってみようという気持ちは大事だが、今の世の中で自前主義ほど怖いものはない。

 (ゼロから立ち上げるのであれば)ECはリアル店舗以上にコストがかかるという事実をよく認識してもらいたい。また、何億円もマーケティングコストをかけても黒字になることは、よほどうまく利益率を高める努力をしなければ無理であるということも覚えておきたい。ECは、世界中の人が同じサイトをみており、Amazonや楽天が拡大すればするほど、消費者も企業もwin-winとなる。もはや、ワンクリックで世界中から商品をかき集め、翌日に届けてくれる巨大企業に対して、よほど精緻な戦略がなければ、勝ち目などないことを知るべきだ。



 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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