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アフターコロナのEC通販になぜ「物流」戦略が必須なのか

新型コロナウイルス感染症拡大で需要が急拡大したEC通販。そのなかでは平時と同じく遅滞することなく購入希望者に届けられた企業もあれば、注文が殺到したことでその対応が後手後手になってしまった企業もある。その差を生んだのは受注処理や物流などの業務をいかに効率よく整備してきたかにある。ネット通販をサポートするスクロール360常務高山隆司氏ともしも取締役佐藤俊幸氏の著書「EC通販で勝つBPO活用術」から、その一端を紹介する。

EC通販のカギを握る物流。アフターコロナにおいてその重要性はさらに増している。(2019年 ロイター/Lucas Jackson)

物流を制するものがアフターコロナを制する

  新型コロナウイルスの感染が急速に拡大する中、人の動きが止まり、店舗が閉まった。そのため EC 通販には大きな追い風が吹いた。ECに買い物客が殺到したのである。しかし、せっかく注文が増えたにもかかわらず、物流キャパをオーバーして発送が遅れまくりチャンスを逃した EC ショップが少なくない。一方で、大量の注文に対してもコロナ以前と変わらず、日々のオペレーションを悠然とこなし、乗り切った EC ショップもある。

 実際、スクロール360が物流を受託している EC ショップの中には、前年同月比10倍もの売上アップを記録しながら、出荷遅れもなく、コロナ特需を取り組むことができた企業がある。逆に、世間では物流のキャパオーバーで注文客を何日も待たせ、レビューが炎上したショップも続出した。

 その差はどこにあったのか。物流アウトソーシングを適切に活用できたどうか、である。EC通販業界では「物流を制するものがアフターコロナを制する」と言っても過言ではない。本章ではアフターコロナでの物流アウトソーシングのやり方や EC 物流事業者を選ぶポイントなどを解説していく。

 20201月に自社物流を諦め、スクロール360の物流センターに移転してきた EC 事業者がある。様々な手芸用品を販売しており、「生地の切り売り」が人気のショップだ。それまでは自社ビルの中に在庫を置き、社員が出荷作業を行っていたのだが、フロアが2階層に分かれ、トラックが停車するバースもないなど、たいへん苦労をしていたという。

 そこで、スクロール360の物流センターに物流業務を丸ごと、アウトソーシングしたのである。アウトソーシングして2か月後の3月、新型コロナウイルスの感染拡大で注文が爆発した。手作りマスクの生地注文が殺到したのだ。最高で11200枚の生地をカットして、出荷した。

 また、生地の仕入れも強化したため、パレット積みの生地が大量に入荷し、移転当初の500坪をはるかにオーバーしたため、物流センターの保管ラックを拡張した。もし20201月に物流移転を決断していなかったら、どうなっていたか。タイミング的にギリギリだったと言える。

 自社の倉庫から、自社の社員が行う出荷は、出荷ルールに融通が利いたり、商品在庫をすぐに確認できたりといったメリットがあるが、2つの決定的な弱点を抱える。

出荷量の波動に対応できない

②出荷の拡張性を担保できない

 まして、今回のコロナ特需のように、前年同月比10倍の出荷となると自社社員では対応不可能だ。受注増というと、出荷の人員だけ気にする人がいるが、出荷増も同時に起こる。出荷にばかり気を取られていると、出荷検収前の商品が山積みとなり、「商品が倉庫に届いているのに欠品」といった現象も起こる。

 物流においてはある意味、「スペースは力」だ。ゆとりのスペースがあるのとないのでは、需要の大きな波動が来たときに致命的な差が出る。そのため、スペースの拡張性は重要なポイントなのだ。

出荷量の波動に柔軟に対応できる人員規模

 アフターコロナ時代に、物流アウトソーシングの重要性は高まる一方である。しかし、ただアウトソーシングすればよいというものではない。ビフォーコロナ時代の常識は通用しない。アフターコロナに求められる物流センターの条件は5つ、挙げておきたい。

 第1の条件は、出荷量の波動に柔軟に対応できる人員規模があることだ。スペースと同様「数は力」である。平均的な EC 物流では、1人が1日に出荷できる件数は50件だ。商品の大きさやオーダー点数によって変動するが、11000件の出荷なら20人いれば定時で出荷が完了する。

 そこにコロナ特需で6倍、6000件の受注が来たとしたらどうだろう。普通に考えれば人員も6倍の120人、確保しなければならない。しかし、100人を追加採用するのも大変だが、将来、コロナの感染拡大が収まり、特需が終われば今度は、100人の雇用維持の問題が出てくる。「数は力」の法則から言うと、スタッフ数の多い物流センターほど、こうした出荷量の波動に柔軟に対応できる。

 例えば、スクロール360のメインの物流拠点であるスクロール・ロジスティクス・センター浜松西(SLC 浜松西)にはスタッフが1000名いて、常時出社は600名だ。スクロール360が受託している EC ショップは20社あり、これらのスタッフが土日を含めシフトを組んで毎日、約2万件の出荷を行っている。

 あるショップの出荷量が急増した場合、その出荷場に要因をシフトする。物流を代行しているショップが多いため、出荷が増えているショップもあれば、落ち込んでいるショップもあり、全体で調整すれば100 名単位 のシフトも可能だ。ただし、そのためには各 EC ショップから前月末に翌月の出荷予測件数をもらい、日々の必要スタッフ数の予測を立てる。

ショップごとの性格を把握し配置見直しも

 重要なポイントは「Man HourMH」という考え方だ。EC ショップ別に「 MH 」の指数を持っておくのである。例えば A というショップは1名で1時間10件の出荷ができる。140件の出荷予測であれば、14 MH が必要だ。17時間労働だとすると2名×7時間で14 MH となる。翌日の出荷予測数が140件ならば、2名の要因をアサインすれば良い。

 このように20社の EC ショップの出荷に必要な MH をそれぞれ事前に予測し、日々のシフトを組んでいるのである。ショップ別にスタッフは固定しているが、出荷の波動によって配置はフレキシブルに見直す。午前と午後でも必要な MH を確かめながら、シフトを動かす。なお、出荷量の波動に柔軟に対応する上で、もう一つ重要な要素は物流を引き受けるショップの組み合わせである。

 すべてがモール出店メインのショップだと、モールがセールなどを実施したとき、全部のショップの出荷が増え、さすがの大規模物流センターもパンクしてしまう。しかしスクロール360のクライアントであるショップは、モール系出店が50%、リピート通販系が50%とバランスがとれており、波動の調整がしやすい。

 なお、 SLC 浜松西の隣りの敷地には佐川急便浜松営業所のセンターが建っている。スクロールの物流センターが竣工した翌年に移転してきた。配送キャリアのセンターとの距離も重要なポイントだ。

 近くにあればあるほど集荷時間にゆとりができる。昨今の物流クライシスで出荷時間を早められた EC ショップはたくさんあるが、隣りという立地のお陰で、スクロール360の集荷時間はギリギリでも間に合うようになっている。