埼玉県草加市でスーパーマーケット(SM)「生鮮スーパーゼンエー」を運営する全栄物産(埼玉県/植田全紀社長)は11月20日、「ゼンエー青果店」(東京都練馬区)をオープンした。同社が取り組むフードロス削減や、SNSを通じたローコスト集客について、社長の植田全紀氏に話を聞いた。
規格外青果をもう一度流通に乗せる
全栄物産が展開する「ゼンエー」は、いわゆる“訳あり商品”を割安で販売するSMだ。メーンで取り扱うのは“規格外”とされた青果で、不揃い・キズがある・形が悪いなどの理由で一般的な流通ルートに乗ることができなかったもの。青果以外に一般食品も取り扱うが、うち3割が訳あり商品だ。賞味期限が迫っている、箱が一部壊れているなどの理由で、通常のSMでは扱わない商品をあえて仕入れ、販売する。
ゼンエーのこのコンセプトは、割安販売による集客だけを目的としたものではない。「味は変わらないのに、少し欠点があるだけで消費者の目に触れることなく捨てられる食品が日本には大量にある。そういった商品をもう一度流通ルートに乗せ、フードロス削減に少しでも貢献できたら」と植田全紀社長は語る。
“リアル店舗重視”が規格外青果販売のコツ
11月20日に東京都練馬区、西武池袋線「練馬高野台」駅から歩いて15分程度の住宅地にオープンしたゼンエー青果店は、名前の通り青果を中心に販売する店舗で、一部総菜や精肉も扱う。同じ建物内にあるスーパー「ベジフル食品館」と内部で自由に行き来できる構造で、合わせて必要な品が一通り揃う造りになっている。
取材したこの日、店頭に並んだ青果は約120SKU。品揃えは季節やその日の仕入れ状況によって異なるが、白菜・玉ねぎ・トマトなど需要の多い野菜はしっかり押さえ、柿やリンゴなど季節の果物も品種豊富に並ぶ。全体的に規格外だとは思えないほど綺麗な青果が並ぶが、これは「今年は豊作が続き、例年なら通常の流通に乗るような良品が大量に余っている」(植田社長)ため。「一般のSMと変わらないような野菜が並ぶこともあれば、丸く曲がったキュウリや大きな傷のあるリンゴが並ぶこともある。その日によって店頭の様子はがらっと変わる」とも植田社長は話した。
そんな規格外の野菜を購入し、満足してもらうためには、顧客自身が実物を見て“納得する”というプロセスが欠かせない。例えば傷のある野菜を通販した場合、「イメージと違った」「こんなに傷があるとは思わなかった」というクレームが必ず発生する。そのため、ゼンエーはリアル店舗での販売に特化している。「価格と実物を見比べ、『これなら買ってもよい、食べてもよい』と思ってもらうことが何より大切」(植田社長)だ。
チラシ配布ほぼ0、それでも顧客が訪れるSNS戦略の中身
販売面は“リアル重視”のゼンエーだが、集客面では効率性を重視し、チラシではなくデジタルを活用した集客に注力している。規格外青果であっても、生産や流通にかかるコストは正規品と変わらない。「買ってもよい」と顧客に思ってもらうラインまで価格を下げるためには、徹底したコストカットが欠かせないからだ。
埼玉県草加市にある「スーパーゼンエー草加店」では、その日の入荷やおすすめ品などの情報をInstagramやTwitterを通じて発信。そこから公式LINEアカウントの登録へと誘導し、以降はLINEメッセージで情報を提供する。公式LINEアカウントを“友達登録”するユーザーは実際に商圏内に住んでおり、「いいものがあれば買いに行こう」と思っている既存顧客もしくは潜在的な顧客ばかりだ。「商圏内の顧客をLINEで囲い込むことで、顧客になってくれるかどうかわからない不特定多数を対象にするチラシ販促から脱却することができた」(植田社長)。
練馬のゼンエー青果店はまだオープンしたばかりのため、この“顧客グループ”を形成していく段階。現在は販促費の8割をチラシに割いているが、チラシにもLINE登録用のQRコードを掲載し、将来的には草加店同様SNSに集約していく考えだ。
SNS販促でぶつかった“壁”
ただ、興味のある人だけを対象にした効率のよい販促を可能にするSNS販促にも、良い面ばかりあるわけではなかった。一つは、利用しているプラットフォームの仕様変更のあおりを受けやすいということだ。ゼンエーがメーンで使用してきたLINEは、2020年1月から一斉メッセージの送信が従量課金制になった。情報発信のほとんどをLINEメッセージで行ってきたゼンエーとしては大きな痛手だ。そのため、8月にリリースしたアプリへと情報発信の場を移行しつつあるという。しかし、ある程度積極的な顧客でなければアプリのダウンロードまでは結びつかない。LINE上に形成してきた顧客グループを、アプリへどう誘導するかが現在の課題だ。
二つめは、SNS上でどうやって露出を増やすかという問題だ。広告を出稿する方法もあるが、店舗数の少ないゼンエーではチラシ同様、費用対効果が低くなりやすい。人力でのSNS運用で興味を持ってくれるユーザーを増やす必要があるが、「初期には思ったように(SNS上で)拡散せず苦心した。ありとあらゆる方法を試した結果、Instagramへの動画投稿が一番レスポンスが良かった。今でもTwitterは反応がよくない」と植田社長は話し、女性ユーザーの多いInstagramとSM販促の親和性が高かったことが伺える。
フードロス削減の拡大に取り組む
今後、ゼンエーは「3年で計10店舗程度まで拡大を目指す」と植田社長。個人客に向けた店舗での販売はもちろん、今後は加工用途での飲食店向けの販売や、フードロス削減の理念に共感できる企業との協業などの可能性を探っていくという。「大量に生産・輸入し、大量に捨てる今の世の中はどこか歪んでいると思う。(ゼンエーの店舗の存在が)フードロス問題に興味を持ってもらえるきっかけになれば」とも植田社長は語った。