流通M&Aの深層 #6 オータニ統合はアークス関東進出の狼煙か

森田俊一(流通ジャーナリスト)
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栃木のローカルスーパー、オータニ

 今回、アークス傘下に入るオータニとはどのような企業なのか。オータニは栃木県を地盤とし、31店を展開する中堅の食品スーパー企業だ。アークスとは21年3月をめどに経営統合をめざし、交渉に入るとしている。

 オータニが地盤とする栃木県内は、セブン&アイ・ホールディングス(東京都)傘下の“東北の雄”ことヨークベニマル(福島県)が約30店を展開しているうえ、同じく名門スーパーのヤオコー(埼玉県)も商勢圏を拡大中だ。さらにベイシア(群馬県)、トライアル(福岡県)など他県出身の企業も出店に乗り出している。東京に近い“未開の地”として大手チェーンが狙いを定めており、今後の競争は一段と激しくなるのは必至だ。

 アークスの横山清社長はかねて「情報システムが本格的に稼働したら『一緒に組みたい』という話をもらっているところが複数ある」と発言していた経緯がある。システムが本格稼働したことで、これまで水面下で進んでいた話が具現化したと見られ、オータニもそうした1社だったのだろう。

 「売上高500億円くらいまでなら、いろんなことに目配りができる。しかし、それ以上の規模になると、システムやら物流センターやら、単独で投資していくには負担が重くなるし、目配りも難しくなる」

 ある食品スーパー企業のトップの発言だ。投資の問題に加え、最近は世代交代の時期を迎えている食品スーパー企業も少なくない。オータニとしては、アークスという強い“円”の弧になって業界内で存在感を発揮していくことを選択した格好だろうか。

関東圏で“同志”は増えるか

 アークスは中央集権的な経営というよりも地方分権的な経営を志向しており、これまでもM&Aした相手先企業の自主性を重んじてきた。看板を替えたり、人材を派遣したりといった経営手法ではない。ある流通コンサルタントは「食品スーパーは地域色が強い。地域で好まれている生鮮の仕入れ先も熟知している。こうした良さを最大限生かすことができるのもアークスと組む魅力ではないか」と話す。

 実際、アークスではM&Aをした企業に人材を送り込んだり、仕入れを統合したりといったことを急がない。自主性を尊重しているからこそアークスという“円”がジワリと広がっているともいえる。

 すでにアークスは関東から離れた中部圏のバローホールディングスと、さらに中国圏のリテールパートナーズ(山口県)の2社と資本業務提携を結んでいる。今後はアークスが関東圏で“同志”を増やしてくかどうかが焦点となる。中小スーパーの経営者は決断の時を迎えている。

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