メニュー

ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営9 テナント売上アップの前に、SC事業者が果たすべき3つの責任と役割

退店していくテナントに「ショッピングセンター(SC)側は何もしてくれなかった」と言われ「これじゃダメだ、もっとテナントをケアしなければ」と考え、店舗巡回、営業指導やスタッフモチベーション向上やES(従業員満足)向上、接客ロープレ(ロールプレイング)に取り組み始めるSCデベロッパー…
この反応と対応。決して間違ってはいない。しかし、本当にSCデベロッパーの責任はそこにあるのか。テナントの退店の原因は他にあるのではないのか。そしてテナントはSCに何を期待すべきなのか、今回は、これらの命題について考えていきたい。

JGalione / iStock

SCビジネスモデルの強みはリスク負担

 SCビジネスの根幹は「リスクの分担」にある。土地建物を商業用不動産として仕立て、そこで商いを行う。

 その際、不動産に関わるリスクはSC事業者が持ち、店舗内にかかるリスクは出店者(テナント)が負う(図表1)

 SCは賃料ビジネスだ。売上による収益の乱高下を回避し、景気感応度を極力排除したビジネスモデルであり、消化仕入れ契約で商品リスクの低減を図るものの不動産リスクや雇用リスクなど多くのリスクを負担する百貨店ビジネスとは一線を画す。

 この基本的なビジネス構造においてSCの責任(リスク負担)はどこにあるのだろうか。

 

SCの3つの役割責任とは

 SCには3つの責任がある。以下、順に説明していく。

①賃貸責任

 SCは不動産を出店者(テナント)に賃貸し賃料を収受する。賃料は賃貸物件の「使用及び収益」を約することの対価であり、賃貸人であるSCの最も重要な役割は賃貸物件の維持保全である。

・出店者(テナント)が安心して営業活動を行う店舗(賃貸借物件)の維持活動
・閉店後も賃貸借物件に第三者の侵入を防止する保安警備活動
・火災や地震などの災害から従業員や商品や内装什器備品を保護する保全活動

 この3つが賃貸人の主たる責任である。

②成長責任

 2つの目の役割責任は、SCの改変と成長にある。同じ店舗面積での営業では成長には限界がある。店舗面積を増加させるためには増床、拡張、別棟建設、建て替えが必要だ。

 増床の余地があれば隣接地を含めた増床を考え、店舗では無い床があれば店舗への転用を考え、隣接に空き地があれば別棟建設を考える。これらが第三者の権利であれば権利者や許認可権者(行政)と開発の調整や協議を行う。そして多店舗展開も視野に入れて活動する。これらはデベロッパーと呼ばれる事業体の本来の役割である。

③運営責任

 3つ目は、不動産業でありながら特殊な役割責任を負うSCならではのものだ

 SCは集客などのマーケティング活動を行い、来店された顧客の満足度を高めるために快適な買い物環境を整備し、来店者のための駐車場や駐輪場を設置・運用し、トイレやベビールームなどのアメニティ施設を整備し、顧客のクレームにも対応するなど商業施設としての魅力を高める責任を負う。

 その他、テナントの従業員休憩室を整備し、クレジットカードの包括加盟や釣り銭両替機や売上入金機を用意する。これらは出店したテナントの営業活動を側面から支援するサポート機能と言える。

 

SC事業者はスーパーバイザーではない

 前項の3つの責任は、SC事業者であれば必ず負う責務であるが、本稿の冒頭で示したテナントに対する対応を含めてはいない。それはSC事業者がテナントのスーパーバイザーではなく、デベロッパーだと主張しているためだ。

 ただし、SC事業者がスーパーバイザーのような活動を行うことに優位性を持つケースがある。それはテナントスタッフの教育や営業指導がダイレクトにSCの収益に跳ね返るような流動客の多い「立地SC」(乗降客の多い駅の駅前に立地するSCなどを指す)である。

 集客せずとも元々流動客が多い立地ではSC事業者の時間やマーケティングコストをプッシュ型の活動に割くことで経営効率が高まるケースがある。

 過去、こういった立地SCの成功モデルがすべてのSCの目指す方向のように理解されてしまいSCがデベロッパーである根源的役割より店舗売上を上げるためのスーパーバイザーのような役割に傾倒したことは否めない。

 しかし、これは我が国においても特殊な立地SCに限られたケースである。

 

SCに求められる行動とテナントに求めたいこと

 前述のようにSCの維持保全と集客の責任はSCにある。そして、その来店者を店舗内に誘引し、販売し、顧客満足と共にリピートにつなげる責任はテナントにある。

 もちろん、ポイントカードを発行しリピート率を高める施策やガラポン抽選イベントなど買い上げ率を上げる施策をSCは行う。しかし、これはあくまで店舗の売上増進のためのサポート機能に過ぎない。

 これらのプロモーション活動は、購買の誘因とはなるものの販売という局面に立ち会うのは他でも無い店舗のスタッフである。この局面にはSCは立ち会えない。SCはあくまでデベロッパーなのだ。

 店舗巡回と称して営業時間中に店舗を回ってくるSCの社員に言って欲しい。

 「売上を上げるのは我々の役割、店舗の商品や接客は我々の責任。我々を信じて任せて欲しい。その代わり、SCデベロッパーとして次のビジョンを見せてくれ」と。

 これがSCデベロッパーに対する叱咤激励となるが、その反面、テナントは自らの責任を認識することにもなる。

 SC事業者にスタッフ研修や接客指導、品揃えのアドバイスなど求めるのはプロとしての気概を失っているようにも見える。スタッフの育成や商品政策(MD)はテナント企業の専権事項だ。テナントには商売のプロとして立派に自律した商売を期待したい。

 

いま求められるSC事業者の責任とは

 いま、コロナ禍によって退店と賃料減額が増加している。では、なぜ、テナントは退店するのか。それは売上が悪いからではなく利益が出ていないからだ。加えて、コロナ禍において、この先の改善が見えないことによる不安が大きい。次の飛躍が見えれば今を堪えようと思うものだ。したがって、SC事業者の役割責任は、テナントスタッフのケアよりも集客による販売機会の提供と顧客価値とロイヤルティの向上、そして今後の成長ビジョンを示すこと。これが最も重要な役割責任となる。

 しっかり集客し、SCのブランド価値を高め、増床や拡張など成長シナリオをテナントに見せることがSC事業者の役割責任になるのだ。 

「ポストコロナ、その時、どんな飛躍が待っているのか、SCはテナントにビジョンを示せていますか」

 

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。