破綻が迫るアパレル企業の事業再生手法#7 小さい企業が大企業に一泡吹かせる戦略とは

河合 拓
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いまアパレル産業を救うのはリスクマネーであり、M&A

NanoStockk / istock
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 最後の4つ目が「M&A」、今、私が最も力を入れている領域だ。私が折角入社したデジタル企業を2年で退社し、M&Aの世界に身を投じたのは、今、アパレル産業を救うのはデジタルでなく「実弾」(金)であり、また、「金の正しい使い方」だと思ったからである。

 私は、他紙に「時既に遅し」という論考を掲載し、「デジタル祭り」に酔いしれているアパレル産業に警報を鳴らした。半年前のことである。その趣旨は、企業の裏側を知れば知るほど、この産業の未来に将来性を感じなくなり、また、論理力と数字の弱さに気が滅入っていたということ、そして、この産業の実態を世に示したいという思いからだった。

 私は数年前、投資ファンド、会計事務所、そして、なにより企業を立ち直らせたいという強い思いを持つ現場の人達と組み大企業の再建に成功した。同時に、そのとき、業務経験の無い外部人材やアナリスト達が、本当に適当なことをいって、あるいは、基本的な分析さえせず一般論で企業を窮地に追い込んでゆく様も見てきた。そんな人間のいうことを真に受ける企業も企業で、同情の余地はないわけだが、酷い事例になると、自らの失敗をWEBで公開し、名指しでクライアントに責任転嫁しているコンサルと称する連中もいたほどだった。彼らに共通しているのは、クライアントより自分自身の損得を優先しているということだった。

 すでに、アパレル産業は崩壊の淵に立たされており、彼らの唯一の救いはリスクマネーだけとなっている。しかし、お金というものは、企業再建では極めて有効であるものの、ときに、企業を殺傷するほどの恐ろしい武器にもなり、残念で悲しいことだが、ファイナンス・スキームだけで、一山当てようという輩が多いのも事実なのだ。本来、お金というものは、企業が営業活動をしてゆく潤滑油となり、そこには骨太な事業戦略とオペレーションが組み合わさるべきでなのだが、ロバート・キヨサキの「金持ち父さん貧乏父さん」の事例を曲解し、「金に働かせれば、あなたは遊んでいても良い」などといわんばかりに企業を弄んでいる。もともと論理力と数字に弱いアパレル産業は、こうした人々に簡単にだまされてきた。

 構造不況、産業崩壊などと揶揄されるアパレル業界だが、世界で時価総額でH&Mを抜いて第2位となっている世界企業もまた、日本のファーストリテイリングというアパレル企業である。もし、文字通り「構造的」に、アパレル業界が不況なら、なぜ、こんなことがおきるのか説明ができない。普通に考えれば、「経営力」と「戦略」の差が生み出した結果であると考えるべきなのだ。

 次回は、一通りの理論編を追えたあと、現場の人間をどのように動機付け、そして、戦闘力を取り戻すかという点について書いてゆきたい。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

河合拓氏_プロフィールブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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