#15 過疎地に店を出すほど利益が増える?小売業の物流完全自前化がもたらす多大な恩恵
コープさっぽろは、なぜ業績不振の零細スーパーを子会社化するのか
となると、コープさっぽろは、なぜ零細かつ業績低迷が続く中央スーパーをわざわざ子会社化したのでしょうか。
中央スーパーを支援する上で、アークスとコープさっぽろには前提条件に大きな違いがありました。アークスは留萌地方に店舗を持たないのに対し、コープさっぽろは留萌市と羽幌町に一つずつ店を持っているという点です。加えて、コープさっぽろは宅配事業があり、その利用者も多い。留萌地方の世帯加入率(世帯数に対する組合員数の割合)は87%にも達しているのです。エリア別の事業高は公表していませんが、留萌地方では少なくとも中央スーパーの倍以上、50億円規模の事業を展開していると推測されます。
その上で重大な意味を持ったのは、コープさっぽろが物流を完全自前化しているという事実でした。事業規模3000億円の小売業という目線でみれば、20億円規模の中小スーパーを子会社化するメリットはほとんど見えません。しかし、これを物流業の立場で見ると、すでに札幌近郊のセンターから年間50億円規模の商品を運び込んでいるところに20億円分の「荷物」が新規追加されるのですから、大変な収益改善効果が見込めるということになります。
前回紹介したように、コープさっぽろは02年に酒類の物流・販売改革に取り組んで実績を上げるなど、物流コストの抑制に早くから取り組んできた組織です。
酒販改革では、自前のリカーセンターを新設し、店舗との間の配送を物流専業企業のキリングループロジスティクスに委託することで大幅なコストカットにつなげました。その成功を受けて、他の商品カテゴリーも、類似の手法(物流センターの自前化と物流会社への運営委託)を採用するようになりました。
ところが数年たち、この手法の限界が明らかになります。運営を委託された物流会社が輸送の実務を下請けの運送業者に再委託し、その業者が仕事の一部をさらに別の会社に再々委託するといった形で2重、3重のマージンが発生。コープさっぽろの収益を圧迫し、当初狙ったような効率化とはほど遠い状況に陥りました。
そこでコープさっぽろは12年、物流子会社「北海道ロジサービス」を設立。それまで運営委託してきた物流会社の従業員を引き継いで自前運営に切り替え、配送ルートを含めた物流全体を自分たちでコントロールする仕組みに変えたのです。
こうした仕組みが威力を発揮するのが、留萌地方のような過疎地域です。先述したように、コープさっぽろはすでに留萌地方の2店舗と宅配利用者向けに生鮮品や加工食品、日用品などを札幌近郊から運んでいます。新たに中央スーパーの4店舗向けの配送を請け負っても、配送ルートを微調整するだけで済むので、コストはほとんど増えません。一方で運ぶ荷物の量は増えるので、トラックの積載効率は確実に向上します。従来のように他社へ委託するやり方だと、配送先が増えれば、再委託先も増えて、結局はコープさっぽろの負担が増すところでした。
店舗への配送後、荷台が空になった帰りの便が取引先に立ち寄って仕入れ商品を持ち帰ったり、他社から頼まれた物品を運んだりするなど、自由度の高い運行態勢を組んで収益力を高められるのも小売業が物流を自前で手がけるメリットの一つです。
コープさっぽろは昨年12月、サツドラホールディングスと包括業務提携を結びました。興味深いのは、この提携を機にサツドラHDが北海道ロジサービスに出資したことです。表向きはドラッグストア部門の協業という小売業のアライアンスですが、真の狙いは、両社の物流を一括して北海道ロジサービスが担い、物流業として収益力を高める(その一部をサツドラにも還元する)点にあることは明らかでしょう。
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