破綻が迫るアパレル企業の事業再生手法#6 贅肉をそぎ落とした企業が取り得る4つの競争戦略とは

河合 拓
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ユニクロ、無印を除き、アパレルが海外で成功できない理由

米ニューヨーク5番街のユニクロ旗艦店
写真はニューヨーク5番街の旗艦店。2011年10月撮影(2020年 ロイター/Shannon Stapleton)

 まず、1について。海外市場への進出だが、過去日本のアパレルが海外で成功した例は、ユニクロと無印良品以外にほとんどない。私は、海外をまわり、企業の現地法人の人達にこうした現象について調査をしたが、彼らの返事は総じて煮え切らないものだった。

 曰く、「言葉の問題」「日本本社の協力がない」「エース級の人材を送ってくれない」などである。これらに共通している点は、日本企業が世界で戦えない合理的な理由ではないということだ。

 ユニクロの場合も、柳井正氏が社長を前任者に譲ったときは海外で失敗を繰り返した。だが、柳井氏が社長復帰後は、幾度も海外でチャレンジを繰り返し、いまや海外の方が日本以上に収益を出す状況にもちこんだのは周知の事実だ。

 一見、よほど日本人は、海外でのビジネスを苦手にしていると見える。

 

 しかし、日本の川上の歴史は、商社による「南下政策」により、生産拠点を日本から海外に、そして、人件費の安いところに移していったが、それにあわせて日本の生産者達も海外に生産拠点を移し成功してきた歴史がある。少なくとも、川上においては、日本人が海外で成功しないという理由はないし、海外で戦える侍 (さむらい) 達がいた。ここから得られる示唆は、どれだけ本気で取り組むかという根性論・精神論に行き着くことになる。

 実際、繊維産業で、海外で成功している国の歴史を調べても、イタリア、韓国などが中国で繊維産業を拡大したトリガーは、自国がデフォルト(国の債務超過)など金融危機に陥ったことだった。つまり、自国では生き残る道はない、国も助けてくれないという崖っぷちの状況下で、片道切符で海外にでていったのが両国だ。

 私は、日本人も、お尻に火がつけば、裏に秘めた国際感覚と大胆な度胸でどんどん海外に出て行くと思う。日本でうまみのあるビジネスがあったがゆえに、「本気でなかった」というのが総括になってしまう。私自身、サイエンティストとして煮え切らないところもあるが、事実だからしかたない。退路を断たなければ日本という国は本気で戦闘モードに入らないわけである。

 MDミックスのリバランスについては、アパレル企業の衣料品以外のMD比率拡大、あるいは、物販からサービス提供者への転換はすでにはじまっている。丸井のModiは、衣料品割合は30%程度だし、D2Cへの投資子会社もつくっている。セレクトショップも徹底して百貨店を研究し、自社で売れる商品を並べ、「糸編(いとへん)は儲かる」という昔から念仏のように唱えられてきたセオリーに反旗を翻している。

 羽田空港にあるISETANに、糸編(いとへん)商品は少数だし、六本木ヒルズのセレクトショップは、まるで雑貨を取り扱っている業態に見えるほどだ。このように、もはや日本という国は、30億から40億点もの供給量の衣料品を吸収しない。この供給過多問題を、AIなどの需要予測で解決するなど勘違いも甚だしい。ブランド力のない企業は、それを客観視しMDミックスのリバランス、つまり、衣料品からの撤退を考えるべきである。

 2、3、4については次回解説する。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

河合拓氏_プロフィールブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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