サイゼリヤでアルバイトした星付きシェフが心底驚いた徹底「カイゼン」の凄み

レストラン ラッセ オーナーシェフ 村山太一
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サイゼリヤをヒントにレストランを改革

 この時、僕は「ラッセも少人数で店を回していけるのでは?」と思い至りました。それから、ラッセの大改革が始まります。

 バイトで体験したことは、店のスタッフにすぐに「サイゼリヤではこんなことをやってるんだよ。すごくね?」と話しました。それから、ラッセでもできるかどうかを検討。1日に1個ずつでも改善しようと、どんどん取り入れていきました。

 2つの方向性がありました。1つ目はラッセの内装や間取りに合わせて新しい設備を導入すること。すでに紹介したグリストストラップの清掃や、洗浄ラックに合わせたオリジナルのお皿の開発などです。

 そして二つ目は、作業効率の改善をスタッフ一人一人に考えてもらうこと、僕一人でやるには限界がありますし、そのなのチームじゃありません。例えば、2往復する必要があった作業を1往復でできるようにしました。あとは、モノの置き場所を見直すことで、手を伸ばさなくても目の前で作業が完結するように工夫しました。

 サイゼリヤに素晴らしいお手本を与えてもらったことによって、その考え方を取り入れつつ、同じ方向を目指していったんです。

 サイゼリヤでバイトを始める直前、若い子が辞めました。彼には朝から晩までずっと洗い物をしてもらっていたので、専任でやる人のいなくなった皿洗い作業を、これを機に徹底的に見直すことにしました。

 まずやったのは、営業中も手が空いた人がこまめに洗っていく方法です。でも、それはフロアにいるお客様へ目が行き届かなくなるという不都合が生じました。

 次に、営業中は洗い物は全部ほっといて料理とサービスに専念し、最後にまとめてやるようにしました。効率は上がったけど、結局たまった洗い物には時間がかかって、深夜まで店に残らなければいけない状態が続きました。そこで、ワイングラスを置くためのラックを買い足しました。多い日は1日で200個のワイングラスを洗っているんですが、その全てを置けるよう、ラックを9個買い足して全部で12個にしました。

 さらに、ワイングラス30脚を純水で一度に洗える洗浄機も購入しました。純水で洗うと、グラスに水あかがつかないんです。洗ったグラスは全てラックに置き、自然乾燥させたものがそのまま使えるようになりました。拭いて棚にしまう手間が省けて、劇的に効率が上がったんです。

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 また、それまではワイングラスを裏方に置いていましたが、それだとホールスタッフは注文を受けてからグラスを取りに行って戻るという動作が必要になります。そこで、客席にもグラスラックを設置したら、労働歩数が減って、その分時間が生まれました。

 終業後に3時間かかっていた洗い物は現在20分まで減りました。ラックは1つ6000円。9つで5万4000円ですが、人件費を考えたら数日でペイすることになります。こうした工夫を、あらゆる業務で積み重ねていきました。

 あとは、やらなくてよいことをやめました。毎日、テーブルクロスはアイロンがけしていたのですが、しわのばしスプレーと手袋で済ませるようにしました。おしぼりも袋から取り出してきれに折っていたのですが、それもやめました(これは不衛生でもありました)。重たくて高そうなフランス製のお盆を、軽い木のお盆に変更したら、料理を出すのがだいぶ楽になりました。

 短縮して生まれた時間で、他のサービスをする。そうやって、同じ作業をするにしても、効率のいい方法を考えると、劇的に作業時間は減っていきました。

 こういう改善の積み重ねが、生産性を高めていくんだと実感しました。これはレストランだけではなく、あらゆる業種に応用できるんじゃないでしょうか。優れた仕組みを持つ企業でバイトすれば、本業の改善ポイントがどんどん浮かんでくるはずです。バイトをするだけで、生産性向上のタネは間違いなく見つかります。

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