「雪の宿」や「チーズアーモンド」といったブランドで知られる米菓メーカーの三幸製菓(新潟県)。このほどグループの組織再編を実施、新生・三幸製菓としてビジネスの新たなスタートを切った。競争の激しい菓子業界において、今後、いかなる方針で市場を開拓、また成長戦略を推進するのか。三幸製菓の佐藤元保代表取締役CEO(最高経営責任者)に事業展望や課題などについて聞いた。
合併通じ不都合を解消
──2020年4月、三幸製菓と三幸が合併、新生三幸製菓体制がスタートしました。今回、組織再編を行った狙いを教えてください。
佐藤 これまで三幸が米菓を製造、販売を担当していたのが三幸製菓で、一般のお客さまには後者の企業名の方になじみがあったはずです。ただ、2社に分かれていると不都合な点がいくつもありました。
事務作業が煩雑になってしまうことは一例。同じ場所に事務所があるものの、会社の組織は違うので決算業務を2度行わなければなりません。また戦略立案のため、市場データを収集する場合でも、情報を共有していないなど非効率な面がありました。それらを解消しようと、組織再編に踏み切ったのです。
──20年は新型コロナウイルスの感染が拡大、経営環境は決して容易ではない状況が続いています。売れ行きなど、どのような変化がありますか。
佐藤 とくに4~5月以降、テレワークを導入する企業が多かったほか、小中学校が休校になったことにより自宅で過ごす人が増えました。その影響で商品はよく動き、当社を含め菓子業界はいわば特需といっていい状態になりました。どの商品も総じて好調ですが、なかでも大袋入りなど比較的、割安感のある商品がよく売れています。
──今後、どのように事業展開する方針ですか。
佐藤 長期ビジョンに掲げているのは「食と健康の総合カンパニー」。食を扱う企業としておいしく、安心して食べられる商品を提供したいとの思いを込めています。従来、当社はよい品をお買い求めいただきやすい価格でお客さまにお届けする「良品廉価」の企業イメージがありました。それら当社がご支持いただけている部分は大切にしながらも、今後は新たな施策にも積極的にチャレンジ、市場をさらに深耕していきます。
当社はオーナー系企業で、スピード感ある経営を実践できるのが強みだと認識しています。私が経営トップに就任したのは昨春。合併を含め、この1年強の短期間でも会社はかなりの変化を遂げられたと自負しています。今回、新しい体制のもと、さらに取り組みを強化、激しい競争のなか成長をめざしていきます。
キャラクターを使って訴求
──三幸製菓には強く支持されているロングセラー商品が数多くあります。
佐藤 「雪の宿」のほか「チーズアーモンド」「ぱりんこ」など、多くのお客さまに支持いただけるブランドが複数育っているのは、当社の大きな特徴といえます。会社設立は1962年、米菓業界では後発組です。振り返れば、少しでも先行する企業に追いつき、追い越そうという思いで、業界の常識にとらわれない冒険的な発想で商品を開発してきた結果といえるかもしれません。
──現在、クリアすべき課題、問題点はありますか。
佐藤 まず企業の認知度が低いこと。ある調査によれば60%台との結果でした。知っている方は多い一方で、社名を聞いたことがない人も一定数いらっしゃる点が問題です。今後、もっと多くの方に知ってもらうよう努力する必要があります。
また商品へのイメージを刷新することも大きな課題です。たとえば「雪の宿」。発売は1977年、今年で43年目を迎えた歴史ある商品であることも関係していますが、一般には「おばあちゃんの家にあるお菓子」という印象を持たれているようです。当社商品のおもな購買層は現状、40~50歳代以上。これに対し、従来とは違う要素を取り入れることで、新しい層のお客さまにも買っていただけるようにしたいと考えています。
──商品へのイメージについては、具体的にはいかに刷新を図りますか。
佐藤 ひとつは、キャラクターを使った手法。「雪の宿」には、「ホワミル」というゆるキャラがあります。「やど村からやってきた生クリームの妖精の男の子」という設定で、誰にでも愛されるかわいらしいデザインが特徴です。昨年9月、新しい味として「雪の宿 黒糖みるく味」を発売したのですが、同時にホワミルの妹分の公式キャラクター「チャミル」を登場させました。お客さまからは好評で、同様の取り組みを他の商品にも順次、広げていきます。
「ぱりんこ」は今年45周年を迎えるロングセラー。おやつとして出す幼稚園、保育園も多く、とくに小さなお子さまに人気があります。そんなイメージをより多くの方に知ってもらうため、かわいらしいキャラクターを使った展開を進めているところです。8月5日を「ぱりんこの日」に制定しており、認知してもらえるような企画を工夫します。
消費者の購買行動が変化
──キャラクターを使った訴求法とはユニークですね。他方、売場で商品を効果的に打ち出すような活動はありますか。
佐藤 商品のパッケージの手法を大幅に見直し、お客さまに強くアピールしようと準備を進めています。コロナ禍の状況にあっては、目玉商品で集客する特売売場が減りつつあります。反対に、重要性が増しているのが定番売場。毎日安さを訴えかけるEDLP(エブリデー・ロープライス)で提供するスタイルが主流になってきています。そのなか、普通に陳列していてもお客さまの目に留まるようなパッケージをめざし試行錯誤しています。
──具体的にはどのような施策ですか。
佐藤 これまで商品パッケージは、開発担当者の感覚でデザインを決めていました。今、進めているのは、売場におけるお客さまの目線やその動きを踏まえた、科学的なアプローチを活用したパッケージづくり。人間の眼球の動きを測定する「アイトラッキング」(視線計測)という手法を用い、お客さまの目線が集まる部分に伝えたいキャッチコピーや情報を配置しようとしています。
そうしてリニューアルしたのが定番商品「粒より小餅」で、すでに店頭に並んでいます。旧デザインにはお客さまが商品を選ぶ際、決して重要とはいえないコピーが記載されていました。それを改め、味やおいしさなどを表現した文字を、読みやすさも考慮しながら配置しています。まだ始まったばかりの取り組みですが、今後、売場での商品の見え方は変わっていくはずです。
──新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、米菓の商品政策も大きく変化しているということですね。
佐藤 その通りです。消費者の購買行動は以前と比べ、確実に様変わりしました。できるだけ外出を避けるため、1回あたりの買い物の量は増える傾向にあります。そのなか必需品ではない米菓を買ってもらうためには、買物袋のなかで極力、大きなスペースを占拠しないようにしなければなりません。これまでのようにかさ高いと敬遠されるでしょうし、商品の小容量化、スリム化は進めるべき重要なテーマです。
一方、コロナ禍のもと、個包装は衛生的であり支持される形態だと見ています。このようにお客さまの購買行動も視野に入れ、順次、商品を見直していきます。
3つのビジョンを策定
──新商品開発についてはいかに考えていますか。
佐藤 20~30歳代の若い女性にも手に取ってもらえるような、新機軸を取り入れた商品ラインアップを充実します。詳細はまだ明らかにできませんが、従来の米菓の枠を超えた新商品を投入しようと画策しているところです。店頭のどこに並べたらいいのかさえ判断がつかないような斬新な商品をめざしています。
──さて佐藤CEOが経営トップとして采配を振るにあたり、自らに課すミッションは何でしょう。
佐藤 当社は「幸せのシーンを一人でも多くの人へ。」を企業理念に掲げています。そのなか「三つの幸せ」として「お客様に幸せ」「お取引様に幸せ」「会社と社員の幸せ」を常に考えてきました。
私はそれをさらに具体的な行動指針とするため、新しい経営方針として「良品廉価を次のステップへ」というテーマを打ち出しています。そのもとで「従業員満足度」「顧客満足度」「ブランドの強化」という3つのビジョンを策定し、実現に向け、日々努力しているところです。
良品廉価の「良品」とは、ただおいしさだけを意味するものではありません。食べやすさ、形状、包装形態などさまざまな要素があります。コロナ禍が続く難しい時代にあり、世の中の価値観、消費者の嗜好も大きく変わっています。そのなか既存のお客さまを大切にしながら、新たな顧客層を開拓できるような施策に取り組んでいく所存です。