破綻が迫るアパレル企業の事業再生手法#2小刻みのリストラが企業をジリ貧に

河合 拓
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私が独自に体得した「企業再建の手法」を明かすシリーズ。企業再建は「一枚目」「二枚目」、そして「三枚目」という表現を使って、3つのステップを踏んで実行していくことが大事だ。第1回は、「一枚目 余剰な商品、業務、店舗を切り離し、損益分岐点を下げること」について解説した。第2回となる今回は、「一枚目」の具体的な実務を説明していく。

ridvan_celik / istock
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年平均成長率から、3年後の売上予測し、コスト削減を行う

 それでは、具体的な実務に入るとする。まず、過去5年の売上推移を見る。小売企業の場合、5年もあれば激しく出退店を繰り返しているだろうから、こうした店舗は除き、過去5年間存続した店舗だけの年平均成長率(CAGR、ほとんどのケースにおいて、マイナス成長であろう)を算出する

 業績不振企業の場合、過去5年のCAGRを、そのまま将来3カ年に当てはめると、私たち再建屋が言うところの 「ホラー・ストーリー」(恐怖の物語)に遭遇することになる。思わず足がすくむほどの低い売上水準なのである。その数字をみたクライアントは感情的になり「こんな売上になるはずがない!なんとか頑張って来年は復活させる」と言い放ち、同時にコスト削減の手を「現実解」の名の下に緩めてしまう

 しかし、業績不振企業は、過去5年も業績不振を見過ごし遊んでいたわけでなく、彼らもそれなりに努力をしてきた。ならば、こうしたダウントレンドの傾向は、クルマの運転に例えると、「同じドライバー」、つまり「同じ経営者、事業管理者」が行えば、なにをどうやろうと、過去の傾向通りに将来も進むと考える方が妥当だ。私の経験上、さらに鋭角のダウントレンドが進むことがほとんどだった。

コスト削減だけでブレークイーブンに持っていく

 例えば、こんなことがあった。

 年商150億円の某アパレル企業の業績悪化がとまらず、CAGRをそのまま将来予想として使うと、3年後に80億円になるという結果となった。これを経営企画室の人に見せたところ、「そんなことはあるはずがない!」と怒鳴りつけられ、「我が社は過去、300億円まで売上を上げた企業だ」と昔話を繰り返すのである。そして、「そんな机上の空論でなく、例えば、全員一丸となって頑張って、売上を昨対比に持ち直し、それをベースケース(基本的な予想シナリオ)とすべきだ」と言ってくる。私の経験上、十中八九がこのパターンである。

 そして、肝心のコスト削減については、「コピー用紙は裏表を使う」「真夏のエアコンの温度設定は28度にする」「海外出張は禁止」など、感覚的にものごとをすすめ、どのコストが販管費の固定費、あるいは、変動費の中で最も損益に影響を与えているのか、という基本的分析をないがしろにし、「売上横ばい × コスト削減は豆粒程度」という一枚目が完成してしまう。当然、社員がそれらのコスト削減を完全遵守しても、桁が違うほどの差が損益分岐点との間に存在するという、あたかも「転職で給与をあげて挽回する」という計画になる。

 本来、その企業が持つ「固定費」と「変動費」の最も大きな「改善変数」をあぶり出し、そこを徹底して攻撃し、コスト削減だけでブレークイーブン(損益分岐点)にもってゆくことが一枚目である。アパレルビジネスの代表的な固定費は販管費で、変動費は原価であるから、ここをしっかり分析せねばならない。

 

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