ウィズコロナ時代のショッピングセンター(SC)経営第5回は、コロナ禍で大きく変容せざるを得ないさまざまなビジネスを考察し、SCの新たな役割と機能を導き出す。人が集まれない社会が到来したいま、SCはどう変わるのか?
戻った消費、戻らない浪費
前回、国民の支出は、①貯蓄、②投資、③消費、そして④浪費、の4つであることを指摘した。コロナ禍によって休業を余儀なくされたショッピングセンター(SC)や百貨店で扱う商品やサービスの多くは生活に直接的には不要な「浪費」であり、これをコロナ禍では「不要不急」と呼んだのだ。
この筆者の「消費と浪費仮説」は下図の「COVID-19の影響による人の移動の変化( googleコミュニティモビリティレポート)」(注COVID19=新型コロナウイルス感染症)によって明確に分析されている。基礎消費である食料品や薬局の需要は安定し、休業により大きく減少した小売り・娯楽は今も不調のままだ。
これが不要不急の浪費であり、この浪費が戻らない限り、SCや百貨店の売上は残念ながら元には戻らない。
なぜなら流行りの服、かわいいアクセサリー、ネイルなど生活に必要の無い商品やサービスを提供する店舗の売上が商業施設の大半を占めているからである。
在宅ワークで通勤着や化粧品が不要になり、旅行に行かなければ旅行バッグも水着も売れるはずはない。
ただ、人間には移動欲求と集合欲求がある。旅行にも行きたいし、イベントにも参加したい。これが実現しない限り、本当のアフターコロナは訪れず、インバウンド客に頼っていた百貨店に至っては年単位での回復期間が必要とされるだろう。
コロナ禍で変わる「集める」ビジネス
新型コロナウイルス感染拡大で我々の生活は一変した。これまで人と人との接触を前提にした展示会、集合研修、セミナー、異業種交流会、講演会、懇親パーティ、結婚式、球場、コンサート、スポーツクラブ、カルチャーセンター、飲食店など数え上げたらキリが無いほど我々は「集まる」ことで生活をしてきた。
そして、人を「集める」ことで収益を上げるビジネスも多い。これらのビジネスが元通りになるまでには相当の期間がかかることが予想されるが、一方でこれをきっかけに新たなビジネスチャンスも生まれている。
例えば、「ゴーストキッチン」。客席を持たず宅配を前提にした飲食ビジネスだが、これもウーバーイーツなどの宅配マッチングシステムがあったからこそ実現したビジネスだ。
その他、記憶に新しいのは、サザンオールスターズの無観客ライブに18万人がアクセスし、6.5億円も売り上げたと聞く。
今後、我々が考えければならないことは、人を集めずに、もしくは集めても少人数で成り立つビジネスを組み立てることだ。
例えば、野球場。何万人も収容してその入場料を前提に大規模な施設を建設した。しかし、今後は多くの集客が出来ない。したがって、球場に入るためのチケットは高額になり、その発券枚数は大幅に減らさざるを得ない。一方で、自宅で鑑賞する顧客に対して、低廉な価格で直接チャージする仕組みを考える必要が出てくる。
これまで民放局のテレビ放映はスポンサーを付けCMを流すことで視聴料を無料としてきた。しかし、Amazon Prime TVやNetflixなどは有料の配信サービスだ。
この前提で考えれば、球場やコンサート会場での鑑賞とテレビ(やPC、スマホ)での視聴、それぞれからチャージする仕組みを、野球場や集会場、宴会場など人を集めて収益を上げてきた企業は創造することを迫られているのだ。
「オンライン文化」があらゆる前提を覆す
コロナ禍でビジネスの現場で変わったことと言えば在宅ワークだろう。通勤を不要にし、働き方を大きく変えた。元通りに出社する企業も出ているが在宅ワークを基本とする企業も多い。
またオンラインは、会社だけでなく大学など自宅学習にも導入され、通学を不要にした。オンラインツールもskypeやZOOMなど以前から存在したが、コロナ禍をキッカケに拡大、その他Google meets、microsoft teams、Live onなど多くのオンラインツールが活用されている。
このオンライン行動を単に緊急避難的な措置と考える人もいるが、私は新しい「オンライン文化」になると思っている。理由はその効率性の高さだ。
それに伴い、オフィスの規模は縮小するだろう。オフィス不要論は極論だが、少なくともオフィスニーズは減少することはあっても増えることは無いだろう。
そして、学校や予備校は今後、校舎も最低限で済む。これまで予備校などは大きな校舎を利便性の高い東京の一等地に構えていた。だが配信設備さえあればわずかなスペースで済み、著名な人気講師の講義を日本中から視聴するようになる。東進ハイスクールの林先生の授業を自宅で受けるのだ。
したがって地方にある塾や予備校は淘汰が進むだろう。
何よりオンライン受講は定員という概念をも無くす。入学試験を経ずとも大学の授業を全国から受講し、大卒の肩書を得ることも可能になるだろう。
前期後期に分かれ、休みの多い大学。4年生ともなれば就活に明け暮れても必要な単位を取れるほど大学の単位数は少ない。とすればオンラインで休みなく受講すれば4年かけずに卒業することも、複数の大学へ入学も可能になるかもしれない。
実験や研究室、ゼミなどもあるので一概には言えないが、定員制、入学試験、通学、東京への転居、4年制などの仕組みは根本から変わるはずである。職を失う講師も出てくるだろう。
増加するSCの空床 埋めるのは従来と同じテナントではない
では、このオンライン文化がSC経営(運営)にどのようなインパクトをもたらすのか、そしてそれは正なのか負なのか、話を移していこう。
この連載の2回目で日本の人口問題を減少と構造の2つの面で解説したが、今後、SC経営の継続のためにはこの人口構造の変化に対応する必要がある。
その対応とは、ナショナルチェーン中心のテナント構成と売上連動型賃料による収益構造の崩壊への対応である。
セシルマクビー、オゾック、ハッシュアッシュ、23区HOMMEなど次々とブランド閉鎖(休止)が発表されるが、今後も多くのナショナルチェーンのブランド閉鎖が出てくるだろう。
これは人口増加に伴い世代別や感性別にセグメントしたターゲットに合わせて作られたブランドが、人口減少によってそのターゲットが減少し、ブランドを維持できなくなったことがその原因であり、コロナ禍はきっかけでしか無い。
したがって、SCは相当の好立地に無い限り、ますます空床が増加することは免れないが、この対処方法はこれまで考えていなかったテナントリストに変更するしかないのだ。
昔は無かった携帯ショップや保険の相談窓口などが当たり前のようにSCに出店しているように時代によって変わっていくのである。
オンライン文化で変わるショッピングセンター経営
ここまで説明すれば概ね結論は見えてくると思うが、SCと呼ばれる建物はショッピングをする場所だけでは無くなる。
住宅立地であれば在宅ワークの補完サポート機能、地方であれば大学や予備校や塾の補完機能、ウーバーイーツなどと連携した食卓機能、ECで買った商品の受け取り、ショールーミングなどを強化することを求められる。
もちろん、買い物の場所であることは変わりない。実物を見て買いたいお客さまはいるし、買い物は楽しいし外食だってしたい。
ただ、これまでの人口増加に合わせた売上増加から賃料収受するビジネスは残念ながら終息に向かうだろう。
複数保有するSC企業はオンラインの機能や新しいテクノロジーを使って新たなビジネスにもチャレンジ出来るだろう。
自ら学校や予備校を作るか提携するか、それによりシSCを「学ぶ場」にすることも出来るし、オンラインの仕組みではしっかりとした講師さえ確保できれば録画や撮影などどこでも構わない。佐世保から放映するジャパネットたかたがそれを体現する。なぜ、それをSC企業が出来ないのか。
ゴーストキッチンは客席を持たない飲食店だが、逆にキッチンを持たない飲食店も可能だろう。とにかく売上連想型賃料に縛られている限り、店舗巡回や接客指導やロープレなどアナログな活動を続けていくしかないのだ
これまで消費者に映像を届けるためには相当の設備と仕組みが必要だったものが、WEBカメラとZOOMがあれば今すぐにでも映像を配信することができる。
お店の店長が着こなしをインスタにアップしていたのと同じように店舗から動画を配信し、そこからECへ誘導することは可能だし、告知も、Twitter、Facebook、LINE、Linkedinなど多くのSNSなら低廉な価格で即座に行える。
ところが、今のSCの仕組みは店舗売上から賃料を収受するために「ECの受け取り場にはしてはいけない」「店舗で自社ECサイトを案内してはいけない」とテナントを縛る前近代的なことを未だ続けているSCは多い。
そんなことを続けていたら誰もSCに来なくなる。そろそろ50年前に作られたSCビジネスモデルから離れてはどうだろうか。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。