ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営第4回は、筆者が定義する「国民の4つの支出」に着目する。その支出のうち1つがショッピングセンターの売上の多くを支えているものなのだが、その支出に対して消費者が、実は「あまり必要ではないこと」にこのコロナ禍で気づいてしまったのだ。それがショッピングセンターに与えた大きな影響と、いますべきことを解説する。
コロナ禍の消費行動の変化
4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が出され、5月 25 日宣言は終了した。
この間、休業対象となる店舗の業種業態が国と地方で解釈が異なり一部混乱したが、スーパーマーケットやドラッグストアなど生活に必要なものを取り扱う店舗の営業は継続された。
他方、ショッピングセンターや百貨店などの商業施設は一部の食料品売場を除いて休業。休日、行くところが無くなった国民は住宅に近い商店街へ繰り出し、外出自粛から自家消費(自宅内消費)の需要によってスーパーマーケットなどの売上は好調に推移した。
また、休業した飲食店が売上の減少を少しでも回避しようと料理や弁当の出前や宅配、店頭での販売などに取り組み、自粛生活の人々に大いに受け入れられた。
緊急事態宣言が解除され大型商業施設が営業を再開、検温、手指の消毒、ソーシャルディスタンス、客席数の削減などこれまで経験したことの無い運営を余儀なくされたが、それまで自粛生活を続けていた消費者は宣言解除と共にドッと押し寄せ、買上単価も上昇した。
ここで好調だったのは家具や生活雑貨やガーデニングなど自宅内消費に直結するものであった。自宅時間を快適に過ごすための商品の動きが目立つ中、あることに気づく。
国民の支出項目は貯蓄、投資、消費、そして?
国民の多くは、毎月の給料が入ると「貯蓄、投資、消費」の3つに支出する。
将来のために貯金し、資産形成のために株式などに投資し、余ったお金を生活のために消費する。そのため我々は彼らのことを「消費者」と呼ぶ。
しかし、自粛期間中、政府や行政が出したメッセージは「不要不急でないものは控えなさい」だった。この不要不急とは、すぐに必要の無いもの、急がないものを指す。この自粛期間中、営業したスーパーマーケットやドラッグストアは、この「不要不急」とは逆の生活必需品を扱い、その消費は、「基礎消費」と言われるものだった。
実は「貯蓄、投資、消費」の3つの支出項目とは他にもう一つ支出する項目がある。それが、コロナ禍で消えた「浪費」だ。
流行の洋服、可愛いアクセサリー、ネイル、外食など生きていくためにも生活を維持するためにも特に必要は無い。無くても困らず、他と代替も利く。実は我々の周囲にはこういったもので溢れている。
ショッピングセンターや百貨店などの商業施設では、購買意欲を掻き立てることを「消費喚起」と呼んでいる。しかし、これは間違いであり、「浪費喚起」なのだ。
不要不急の、特に必要の無いものをトレンド、接客力、商品力、新着、今年の色、店長のおススメなどと懸命に消費者に浪費を促してきたのだ。
「浪費」について消費者が気づいてしまったこと
ところがこの自粛期間、消費者は気づいてしまった。高価な時計、高額な車、宝飾、アクセサリーなどすべて「これ、要らないものだったのか」「無くても暮らしていけるじゃん」と。
休業期間中、唯一営業していたスーパーマーケットとドラッグストアが売上好調を維持したのは、提供するものが「浪費」では無く、「消費」であったためだ。生きていくため生活するために必要な基礎消費ということだったのだ。
では、ショッピングセンターや百貨店などの商業施設はどうか。実はここで売られている大半のものは基礎消費の対象ではなく、「浪費」に該当する洋服、アクセサリー、雑貨、外食などで溢れている。
それを踏まえ、ユニクロが売れる理由を考えてみたい。今、洋服は、「ユニクロと、ユニクロ以外に大別される」と言われるほどユニクロの一強が目立つ。これは、この消費と浪費の間(はざま)に位置しているからなのだ。
ユニクロは、ある人には基礎消費、ある人には今年の新作、ある人には機能性商品と顧客のカテゴリーごとにそれぞれ捉え方が異なり、多くの国民をカバーする。これがユニクロの強みなのである。
「良い浪費」=楽しさや豊かさを提供できているか?
では、「浪費」はいけないのものか。答えは否だ。なぜなら、美味しいスイーツを食べると幸せになり、かわいいアクセサリーを身に着けると気持ちはウキウキする。
好きな人との食事は楽しいし、ヨガで汗を流せばすっきりする。大きなスクリーンで映画を観れば感動も大きいし、野球だって球場で見れば興奮も大きい。
「浪費」とは、国民の毎日を楽しく生活を豊かにする最大の手段であり、これは「良い浪費」と呼ばれる。
浪費は、店舗やショッピングセンターや百貨店だけに該当するものでは無い。旅行、興行、施設、車、家電などすべての事業と事業者に共通する。
「良い浪費」を促すこと。これが最も重要なのだ。
ところが、今、ショッピングセンターや百貨店では、前年比を追い求め、
・売らんがための販売促進と接客力強化
・客数と客単価のアップ
・「何が売れるか」「どうやって売るか」
こんなことばかり追い求め、自らでつまらない売場を作ってはいないだろうか。良い浪費を促せていないのだ。
まとめとして、アフターコロナにショッピングセンター、百貨店に求められることを提言したい。
ショッピングセンターや百貨店は、国民の4つの支出「貯蓄、投資、消費、浪費」のうち、「消費」だけを考えてはいないだろうか。
コロナ禍で売上が悪いと嘆いているだけでは何も始まらない。アフターコロナは、生活者の4つの支出を真摯に受け止めること、これが市場が縮小する日本においてショッピングセンターや百貨店に課される大きな課題である。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。