大企業が自前でD2Cを成功させるのが難しい事情

河合 拓
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D2C」は、硬直化した巨大組織からは生まれない
イノベーションを生み出す「デジタル出島」

Urupong/istock
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 こうした、大企業と個人の棲み分けにより、前回の冒頭で書いた「デジタル出島」ともいえる事業構造を作り上げるわけだ。だから、D2Cを大企業が取り込もうとすれば、投資子会社を設立しインキュベーション事業を行うことが合理的であり、「個のパワー」を活用すべきだろうと私は思う。私が、「7つの予言」で書いたことは、そういうことなのだ。

 丸井が、D2C向けの投資を行う子会社を設立したのは、そのような背景と戦略があると私は見ている。私が「ブランドで競争する技術」で書いたイノベーションを生み出す「出島理論」をデジタルが進化させて発展させた仕組みが「D2Cの本質的意味合い」なのである。私は、SPAは「製販統合」による「顧客起点のダイナミック(動態的・柔軟性のある)なバリューチェーン」であると定義するなら、「D2C」は、硬直化した巨大組織には生まれないイノベーションを生み出す「デジタル出島」であると定義づけている。

 これは、あくまでも、私の視点であり、今、「D2Cが求められる意味」はそこにあると私は考えているいうことだ。いわんとしたかったことは、正誤は何かということでなく、なぜ、SPAという言葉からD2Cという言葉に移り変わり、アパレル産業危機が叫ばれる今、D2Cが注目されているのかという意味を考えるということだ。あれだけ騒いだSPAという言葉も、結局、SPAの構造的意味合いに着目することなく、単なる形式論でお茶を濁し、企業によって解釈がバラバラになったまま、「やってもダメだった」という結論で、経営者の議論の中から消えていっているように思えてならない。

  なぜ、D2Cという言葉を皆が使い始めたのか、ということを自分なりにしっかり定義することが大事であるということだ。私は、時代が移り変わる今だからこそ、経営者はこうした「新しい言葉」に対し、しっかりと自分なりの解釈を持ち、組織を正しい方向に導く必要があると思う。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

河合拓氏_プロフィールブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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