いちばん“敏感”な人に合わせて店が選ばれる 「新しい生活様式」がもたらす外食ビジネスの大変化

鈴木文彦 大和エナジー・インフラ投資事業第三部副部長
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「新しい生活様式」がもたらす衛生観念

 営業の制限は段階的に緩和されるが、数か月単位、長ければ数年単位で新型コロナウィルスとの共存を想定せざるをえないだろう。そこで出たのが、政府の専門家会議が54日に提示した「新しい生活様式」だ。これに基づき、業界団体や自治体による飲食店版のガイドラインも策定された。

 たとえば日本フードサービス協会の「外食業の事業継続のためのガイドライン」、宮城県の飲食業者で構成する一般社団法人・東北食の力プロジェクトが宮城県の助言のもと作成した「飲食店イートイン安全ガイドライン宮城」などがある。

 こうしたガイドラインには、席やドアノブの消毒の徹底、クラスターを作らないよう人と人との間隔を保つなどの感染対策が具体的に列挙されている。再燃を警戒しつつ少しずつ日常に戻すためのことだが、生活様式が文字通り新規改訂、新しい「常態」として定着する可能性もある。カタカナ語で言えば「アフターコロナ」の「ニューノーマル」だ。

 今般のコロナ禍の経験で、地震、火災など経営者が備えるべきリスクに感染症が新たに加わった。新型コロナの第2波、第3波だけでなくこれに匹敵する未知の感染症への対策が必要になった。仮にクラスター発生の可能性が低いとしても、実際に感染が起きてしまえば当面の休業と風評被害は避けられない。手探り状態の中、どれだけ備えれば十分という確実な基準がないのがやっかいだ。

 問題は、人によって感染リスクの許容度に幅があることだ。懇親会等では一番敏感な人に合わせて店が選ばれる。メニュー、価格帯や店の雰囲気に加え、コロナ対策の充実度が基準になる。食中毒と違って新型コロナ感染症は自分だけにとどまらず職場や家庭に伝染する。周囲への気遣いを考えると感染リスクには余計敏感になる。

 その結果、社会的な衛生基準が高くなる。“社会的な”というのは衛生基準の厳格化が必ずしも法制化されるとは限らないという意味だ。これまでは主に食中毒対策が衛生基準の柱だった。これに感染症対策が加えられる。

 大分県では酒造組合と共同で「新しい生活様式」に準じた飲み会を実験。フェイスシールドを着けた姿が印象的だった。たとえば鍋料理を囲んだとする。向かい側の席で咳やくしゃみをしないまでも、大声で喋ったり豪快に笑ったりするのに対する許容度はコロナ前後で変わったのではないか。大げさに見えるが一概には否定できまい。

 その兆候はさっそく現れている。68日、ファミリーレストラン「ジョイフル」など約880店(2019年末)を展開するジョイフルが、7月以降主力のジョイフル業態を中心に200店舗程度閉店する方針を発表した。「今回のコロナ禍や今後も定期的に同様の感染症が発生することが見込まれる中、消費者の行動や外食に対する価値観など、外食産業を取り巻く環境が大きく変化すること」に対し先手を打った経営合理策の一環だ。言うまでもなく店内入り口やレジ台にアルコール消毒液を設置。ドリンクバー、手すり、テーブルの除菌など感染拡大防止策をとっている。

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