前回、「2020年度のアパレル業界 栄える企業と滅びる企業を分かつものは?」と題して、2020年度のアパレル業界はどんなことが起こり、何に対応すべきかを解説した。今回はその続き。アパレル企業がいま、本当にすべきことについて提言したい。
アパレル企業の敵は暖冬ではなくユニクロ
今、アパレル企業が本来手をつけなければならないのは、ユニクロとの差別化である。もはや、「ユニクロは関係ない」などとうそぶいてみても、消費者のほとんどが、「ユニクロ」と「その他」を比較し、買いものをしている。また、ユニクロもビジネススーツやスポーツ衣料、ファッション衣料に進出している。もはや、「ユニクロに勝てなければ未来はない」と考えるべきだ。本当の敵は天気ではない。Amazonエフェクトなどといって、流行の言葉に踊らされ、相手(ユニクロ)を見失ってはならない。
今、企業は大きく二つのことをしなければならない。一つは、人がアナログでやっている極めて非効率な業務をデジタルに置き換えて生産性を大きく上げること。もう一つは、圧倒的にコスパが開いたユニクロと競争して勝てるだけのブランド力を作り上げることだ。
人間というのは、集団になり、その集団が大きくなれば二つ以上のことはできなくなる。しかし、ダメな経営者ほど現場に「我が社は課題だらけだ」といって、10も20も課題を一度に投げる。効果的な経営は、現場に対してシングルディレクション(一つの指示)に徹することである。「高い生産性」と「高いブランド力」の両方を作り上げろといっても無理なのだ。
企業は、このどちらかをアウトソースし、自社の力をどちらか一方に集中すべきだ。一昔前であれば、これらを順番に自社でやってきたのだが、今は、一年で世の中ががらりと変わる時代だ。ダラダラ改革をやっている暇などない。
SPA(製造小売)の時代なのに
販売しか知らないコンサルがほとんど
また、コンサルタントの選定もしっかりやる。どれだけ有名なファームであっても、どれだけ著名な方であっても、「業務の細部」を知らないコンサルは使うべきでない。特に、多くのコンサルはリテール領域(販売)の部分には詳しいが、バリューチェーンや生産に関しては素人ばかりだ。今は、SPA (製造小売)の時代である。文字通り、「製造」と「小売」が一緒になっており、上記のような発想は製販のすべてを知らなければ出てこない。
製造のことを知らずにウェブやオムニチャネル販売支援の改革ばかりを行うから、本丸ともいえる商品について、なんら差別性のないものが大量投下され余剰在庫が増える。例えば、OTB (Open to buy 仕入れ枠管理) という、余剰在庫を抑制する手法があるが、どの教科書を読んでも私には全く理解できない。
私の考えは至ってシンプルだ。そのブランドが持つ、「プロパー消化率」で割り戻した金額・数量が、売上計画となるよう、在庫に足りない分を加えるというものだ。したがって、例えば、プロパー消化率が50%のブランドが、売上100を作るには、理論上、売上見合い(仮に在庫がプロパーで売れたとしたときの売上金額)で200分の在庫が必要となる。そのとき、繰り越し在庫が150残っていれば、新規に50を仕入れるし、在庫が250残っていれば仕入をせずに翌月に同じことをやればよい。
これを月次ベースで行い、備蓄した素材を使って計画生産を行い、できるだけ長い期間売れるような商品を工夫して投入してゆく。また、できるだけライトオフ(商品滅却)までの期間を長く持ち、予測がずれた時の調整弁を持つ。ライトオフの期間が5年あれば、5回「やりなおし」ができる。
こうして、仕入れた在庫をすべて売り切る。なんら難しいことではない。実際、私はこのやり方で企業を幾度も危機から救った。現実には、もう少し複雑になるのだが、正しい理論というものは、シンプルで分かりやすいものである。奇をてらった理論、あるいは、複雑な数式で、読むものを煙に巻く理論は絶対に組織に浸透しない。
こうしたモデルを作る力を持つためには、教科書に書いてあることを暗記してはダメだ。今の市場環境や顧客の購買行動の変化、競合の変化などをしっかり理解し、自分の頭で考える。例えば、私は、米国などの事例やグローバル事例はほとんど参考にしない。日本のアパレル企業は、無類のブランド好き国民の日本人を対象に日本市場の中だけで戦っている。世界にビジネスを展開し、デニムとTシャツ、ネルシャツばかり着る米国人の理論とは全く違うのだ。
全く見当違いのロジスティクス改革事例
ここで、彼の地の理論を導入し、大失敗を繰り返しているリアルな事例をご紹介しよう。
典型的なのはロジスティクスである。グローバルに展開するコンサルティングファームに入社してリテールの仕事をすると、決まってSCMかロジスティクスの仕事をやれといわれる。しかし、おそらく、私に関していえば、日本企業でロジスティクスの仕事を受注した経験はこの20年で数件しかない。「ロジスティクスだ」、と鼻息を荒く叫んでいるのを隣でみて、よくのぞいてみると、バリューチェーンとサプライチェーンの違いさえ分からず、叫んでいたという経験も数度ではない。
ロジスティクスというのは、物流業務と倉庫業務をあわせた概念をいう。例えば、出荷元からA/B/C/Dという荷受先にバラバラに出荷をするとしよう。その場合、片道の運賃が100円とすると、このオペレーションの総額運賃は400円となる。
しかし、片道までA/B/C/Dの荷物を同じトラックで積んで、半分まできたらA/B/C/Dに分配すると、片道分のトラック代が50円。さらに、そこから4つの拠点に50円づつの運賃で配送するため200円となり、合計は250円となる。400円の荷物を、ネットワークを変えることで250円に物流費を削減できたわけだ。これを「ハブアンドスポーク設計」といって、最新の改革は道路情報などをつかってコンピュータが自動的にネットワークを設計し、最も安価に荷物を配送する方法を設計してくれるのだ。
米国では、大学にロジスティクスの専門学科があるぐらい物流設計に数学やデジタル知識が必要となる。しかし、これは広大な土地を持つ米国ならではの発想で、例えば、日本の場合、アパレル業務に関していえば、アソート(各売場に必要数量を仕訳して配送準備をする業務)は海外で行い、出荷元は、最近では神戸港か横浜港の二択しかなく物流拠点も東日本に集中している。これは、物流業務の繁忙期と閑散期の差が激しいため、近所にアルバイトの主婦達が住んでいる住宅地に荷受け倉庫を作るからだ。
いざとなったら出荷のパワーアルバイトで補い、閑散期は閑古鳥が鳴いている。これが、日本の物流業務の実態だ。日本の物流業務の最大の問題は、ネットワーク設計でなく倉庫内の手書き伝票の山にある。日本のアパレル企業は「専用伝票」といって、独自の伝票を使い、それを5枚複写式書類にボールペンで転記し、カートン(箱)に入れて出荷する。日本IBMなどは、銀行の窓口業務で使われる手書き伝票を世界最高の人工知能と言われるWatsonを使って人間より正確に読む技術を開発し運用段階に入っている。こうした技術を使えば倉庫の伝票業務は一気になくなるし、そもそも、専用伝票など廃止し、私が提唱する「デジタルSPA」を活用して指示業務はすべてネットワークで、電子データでもらうようにすればよい。
全体最適というのは、このような視座で改革を行うことだ。5枚複写の伝票の自動転記システムの導入など、個別最適も甚だしいし、なんら本質的な問題解決になっていない。
倉庫の生産性向上のために、今すべきこと
本来、商社こそこういうことをしなければならないのだが、付属業者達が集まってこうした取り組みをやり始めているから、バリューチェーンがいつまで立っても個別最適から抜けられないのである。
このように、日本の倉庫業務の生産性の低さは恐ろしく、Amazonなどが先んじてやっている「自動倉庫」こそ、日本企業がやるべきことで、高い生産性とCS (顧客満足度:すぐに商品が届く)向上に繋がる。さらに、物流でいうなら、日本中に張り巡らされた道路を使えば、わけなくイオンモールなどに届けることが可能だが、問題は積載率といって、ブランドがバラバラに荷物を運んでいるため、トラックに積んである商品が総積載率の50%程度で半分は空気を積んでいることにある。さらに、ラストワンマイルの2c(対顧客)の世界に目を向ければ、約20%は再配達であり、ここを改善しなければ物流業務のコスト削減には繋がらない。このように、国が違えば事情も違う。現場を見ないまま改革を行おうとしても何ら問題解決にはならないのである。
2019年は、こうした「デジタルありき」の改革の多くが効果をださず、多くの企業が学んだ年だった。こうした失敗から2020年は、いよいよ正しいやり方、あり方でデジタル化が進んでゆく。
さて、前回と今回をまとめると以下の3つとなる 。
- 存在価値のない企業(アパレル・商社)の統廃合が起きる
- その結果、生き残った企業の正しいデジタル導入が進み、仮想敵としてユニクロをターゲットとしたブランド戦略に本腰を入れる企業が生き残る
- 上記戦略を正しく実行するためには、信頼できるパートナー(コンサルタント)との協業による戦略回帰が必要だ。自前主義ほど危険なものはない
コロナウイルスで世界経済が停滞している中、多くの企業にとって厳しい状況が続いている。しかし、こうしたときほど、慌てず、そして創意工夫をしながら耐えるべきだ。長いトンネルも前に進めば必ず出口が見えてくる。2020年も引き続き、皆さんと一緒にビジネスについて考えてゆきたい。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)