日本のアパレルで「見当違いのロジスティクス改革」が横行する理由と本当に改革すべきこと

河合 拓
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全く見当違いのロジスティクス改革事例

vm / iStock
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 ここで、彼の地の理論を導入し、大失敗を繰り返しているリアルな事例をご紹介しよう。

  典型的なのはロジスティクスである。グローバルに展開するコンサルティングファームに入社してリテールの仕事をすると、決まってSCMかロジスティクスの仕事をやれといわれる。しかし、おそらく、私に関していえば、日本企業でロジスティクスの仕事を受注した経験はこの20年で数件しかない。「ロジスティクスだ」、と鼻息を荒く叫んでいるのを隣でみて、よくのぞいてみると、バリューチェーンとサプライチェーンの違いさえ分からず、叫んでいたという経験も数度ではない。

  ロジスティクスというのは、物流業務と倉庫業務をあわせた概念をいう。例えば、出荷元からA/B/C/Dという荷受先にバラバラに出荷をするとしよう。その場合、片道の運賃が100円とすると、このオペレーションの総額運賃は400円となる。

  しかし、片道までA/B/C/Dの荷物を同じトラックで積んで、半分まできたらA/B/C/Dに分配すると、片道分のトラック代が50円。さらに、そこから4つの拠点に50円づつの運賃で配送するため200円となり、合計は250円となる。400円の荷物を、ネットワークを変えることで250円に物流費を削減できたわけだ。これを「ハブアンドスポーク設計」といって、最新の改革は道路情報などをつかってコンピュータが自動的にネットワークを設計し、最も安価に荷物を配送する方法を設計してくれるのだ。

  米国では、大学にロジスティクスの専門学科があるぐらい物流設計に数学やデジタル知識が必要となる。しかし、これは広大な土地を持つ米国ならではの発想で、例えば、日本の場合、アパレル業務に関していえば、アソート(各売場に必要数量を仕訳して配送準備をする業務)は海外で行い、出荷元は、最近では神戸港か横浜港の二択しかなく物流拠点も東日本に集中している。これは、物流業務の繁忙期と閑散期の差が激しいため、近所にアルバイトの主婦達が住んでいる住宅地に荷受け倉庫を作るからだ。

  いざとなったら出荷のパワーアルバイトで補い、閑散期は閑古鳥が鳴いている。これが、日本の物流業務の実態だ。日本の物流業務の最大の問題は、ネットワーク設計でなく倉庫内の手書き伝票の山にある。日本のアパレル企業は「専用伝票」といって、独自の伝票を使い、それを5枚複写式書類にボールペンで転記し、カートン(箱)に入れて出荷する。日本IBMなどは、銀行の窓口業務で使われる手書き伝票を世界最高の人工知能と言われるWatsonを使って人間より正確に読む技術を開発し運用段階に入っている。こうした技術を使えば倉庫の伝票業務は一気になくなるし、そもそも、専用伝票など廃止し、私が提唱する「デジタルSPA」を活用して指示業務はすべてネットワークで、電子データでもらうようにすればよい。

 全体最適というのは、このような視座で改革を行うことだ。5枚複写の伝票の自動転記システムの導入など、個別最適も甚だしいし、なんら本質的な問題解決になっていない。

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