新型コロナウイルス感染拡大に伴う自粛要請により、在宅時間が急激に増加し、食品スーパーをはじめとした小売店では混雑状態が続いている。家庭内調理が増えたことにより、現在は内食関連の商品に注目が集まっているが、自粛要請の直後、マスコミを大きく賑わせたのが、トイレットペーパーの急激な需要増加だ。現在はひと段落しているものの、2~3月は昭和初期を想起させる欠品状態が続き、不便を感じた消費者も多いと思われる。コロナ禍により、家庭のストックはどう変わったのか? 消費者は買い方を変えたのだろうか?
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、4月7日に緊急事態宣言が7都府県に発令され、16日には対象が全国に拡大された。外出自粛によって、在宅時間が増えたことで、外食が減り、家庭内での調理、飲食が増えている。この内食需要の増加で、食品スーパーにはお客が殺到、緊急事態宣言は5月末に全都道府県で解除されたものの、食品スーパーの店頭は依然として多くのお客で賑わっている。
コロナ禍で最も注目された商品の1つが「トイレットペーパー」である。
「トイレットペーパーを買うために行列が出来ている」
「トイレットペーパーの棚が空になってしまった」
そんな報道がニュース番組を賑わしていたのは記憶に新しい。実際、開店前のドラッグストアに並ぶ人たちを見かけたことがある読者は少なくないはずだ。このような報道を受け、消費者の行動はどう変わったのだろうか。
日用品流通の情報インフラとなるEDIサービスなどを提供しているプラネット(東京都)では、全国4000人に対してインターネットを使って行った意識調査を行っている。
同調査における「新型コロナウイルス流行前に比べて、ご自宅にストックするトイレットペーパーの量は変わりましたか」という設問に対する回答をまとめたのが、図表①および図表②だ。
最も回答が多かったのは、「変わらない」(77.3%)で、「増えた(以前より多めにストックするようになった)」と回答したのは20.1%にとどまった。「トイレットペーパーが欠品中」とTV番組で連日報じられた中でも、約8割が自宅のストックを増やしていなかったことがわかった。
では、トイレットペーパーを買う際、購入点数を増やすなど買い方の変化はあったのだろうか。
前述の調査で、「新型コロナウイルス感染対策として外出を自粛するようになった影響で、ご自宅でのトイレットペーパーの消費量や買い方はどのように変わりましたか」という質問への回答をまとめたのが図表③だ。
最も回答が多かったのは、「消費量・買い方は特に変わらない」(64.2%)で、次点は「(消費量が増えたため)購入量・頻度が増えた」(17.9%)だった。「(消費量が増えたため)節約して使うようになった」は10.1%、「品薄で手に入りにくく、メーカーや銘柄を変えた・ふだんと違うメーカーや銘柄のものを買った」は8.9%だった。欠品状態を経験したあとも、全体の6割超がトイレットペーパーの買い方を変えないと回答した。一方で、「(消費量が増えたため)購入量・頻度が増えた」(17.9%)だった。「(消費量が増えたため)節約して使うようになった」は10.1%と、「消費量が増えた」と回答した人も3割もいた。
図表④は、世帯の人数ごとに、③の買い方の変化を分析したもの。同居家族が多くなるに従って、消費量・買い方が変わったと回答する比率が上がっているのがわかる。大家族になるほど、在宅時間が増えたことで、トイレットペーパーの消費量が増えている。
また、トイレットペーパーの消費量が増えた大家族世帯が、どこでトイレットペーパーを購入しているかを示したのが図表⑤だ。ここでも特徴的な調査結果が出ている。
ドラッグストア、スーパーで買っている比率が高いのは、人数が少ない(1人くらし、2-3人)世帯と同じだが、ホームセンターで買っている比率が38.7%と突出して高い。またインターネットで買う比率も他の世帯と比べて高い。トイレットペーパーはかさばるだけに、大家族の、大量に買う世帯は、食品や日用品と一緒に買うよりも、かさばるものを買う目的で、それにあったチャネルで買っているのだろう。
昭和のオイルショックを想起させるような報道が流れる中でも、消費者の多くは必要量に合わせた適切な消費行動を取り続けていたようだ。これらの調査結果から日本の消費者は成熟していることが示されたと言っていいかもしれない。アフターコロナの世界では、どのような消費スタイルが「ニューノーマル」となるのだろうか。令和の成熟した消費者に対して、流通企業側はどのような情報発信をしていくのか。これまで以上に、洗練された対応が求められていくだろう。