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2020年度のアパレル業界 栄える企業と滅びる企業を分かつものは?

暖冬に始まり、コロナウイルス感染拡大に伴う、人の動きと経済の停滞により、産業の危機にあるアパレル。この後、2020年度のアパレル業界はどんなことが起こり、何に対応すべきだろうか?

monkeybusinessimages / iStock

2020年度のアパレル業界のテーマは

 2019年から始まった「河合拓のアパレル改造論」だが、実はこの3月下旬から、2020年度版へと移行し、その連載タイトルも「河合拓のアパレル改造論2020」に変えている。その連載新装第1回として、2020年〜2021年にアパレル業界が対応すべき全てを俯瞰する内容にしようと思っていた。ところが、アパレル業界を取り巻く事態はコロナショックにより切迫した。その結果、先週に至るまで、産業全滅の危機を救うために、気づけば緊急寄稿を11回(!)も続けることとなったのだ。

 ここで改めて、昨今の危機的状況を踏まえた上で、「アパレル改造論」で2020年度に論じていくことを、読者の皆さんに提示したい。

 私はこの連載において、「旬な話題」の裏側にあるメカニズムを解きほぐし、可能な限り読者の方に事件の「因果関係」を提示することを試みた。他の事実を羅列するだけの解説論評とは違って、事実の裏にある「構造」に着目してその分析に腐心してきた。

 私が、「アパレル改造論」(2019年度版)で繰り返し主張してきたことは以下の通りだ。

1.アパレル業界の問題はトレンドの変化ではなく作りすぎである

2.「売上を落とせば利益は出る」、「AIを商品計画に使っても、BPR(業務改革)をせねば効果は限定的」

3.「アパレル業界は天気にやられたのでなく、ユニクロにやられている。ユニクロに勝てなければ将来はない」

4.「プロパー消化率など関係ないなどもってのほか。4KPIなくしてアパレル事業の計測は不可能である」

  これらは全て私独自の切り口であり、時に他の方に対して批判めいたことを含んだこともあったと思うが、もはやアパレル業界は「死の淵」に足を踏み入れており、忖度している時間がない。また、十分な議論もしている時間もないという私の焦りを、提言の重要性とともに感じ取っていただければと思う。私は評論家では無く、実際に企業の内部に入り込み、改革を推進して成果を上げるまでを企業と共にするハンズオンスタイルのコンサルタントだ。それゆえ、現実に起きている企業の裏側を知っているがための焦りであったことをご理解いただきたい。 

 さて、一昨年の春ごろに書いた「7つの予言」は、そのほとんどが実際にこの一年で的中、あるいは、その予兆が起きていることに、我がごとながら驚いた。特に、「多くの企業は競争力を失い、卓越した個人が衣料品をつくる大きなマーケットを形成する」という予言は、現在D2Cという形に名前を変え、丸井やファンドがインキュベーション投資を行いはじめたのはご承知の通りだ。改めて世の中の変化のスピードが一昔前なら考えられないほどになっている。

 

米国で一定の規模を有するオフプライスストア だが、日本では?(Photo: J. Michael Jones)

 

オフプライスストア は規模縮小へ

  さて暖冬に始まり、未曾有のコロナ禍で身動きが取れなくなっている2020年のアパレル業界では、どんなことがこの1年のテーマとなるだろうか。

  私は、20年〜21年にかけて、本当の意味での「コンサル活用元年」と「デジタル活用元年」になると感じている。

 そこには但し書きがつく。

 まず、旧態化したビジネスモデルのアパレル、リテーラーは、事業継続が困難となる。その中で、独自の強みを持つ企業だけが、大きな資本あるいはファンド管理下に入ることを許されるだろう。過去、百貨店や銀行が経験したような、ロールアップ(複数の企業を結合し規模を大きくしてゆくこと)が金融主導で進むのである。その結果、アパレルの数は大きく減少し、統廃合が起きる。これは、後述するデジタル化の推進により、投資ができないアパレルとそうでないアパレルの差が大きくつくからだ。

  また、今成長が期待されている余剰在庫の買取ディスカウンター(オフプライスストア )は、大きく規模を縮小する。余剰在庫の問題は、ブランド自身が自ら販売した中古品を買い上げ、再プレス、ほつれ直しを行いweb上に構築した二次流通市場で中古品の自社ブランドを再販する時代が来る。ブランドがのんきに不要な余剰在庫を次々とつくり損益計算書を悪化させる一方で、そのどうしようもなくなった在庫を第三者が二束三文で買い取って激安販売し、上場するなどという異常なマーケットが続くはずがない。ブランド自身が買い取ればすむ話である。そちらのほうがよほど健全だし、ブランドパワーもコントロールできる。クルマ産業はそうしているし、最近ではAppleも中古品の下取りを強化し始めた。あるのかないのか分からないような定価をつけて、たたき売っているのはアパレル業界だけだ。アパレル企業は、仕入れを半分にし、定価販売の売り切り御免型ビジネスを行い、セール販売を大きく縮小する。真の意味でのサステナブル事業が現れるのだ。

 

商社とアパレルに迫られる「二択」

 その結果、商社の売上は大きく減少する。トレードビジネスが限界を迎え大胆な業態変革をしない商社は次々と統廃合を繰り返すことになる。商社は、10年ほど前から、先進的ビジネスを強化する企業と、相も変わらず「売れているアパレルはどこだ?」と、「コバンザメビジネス」を繰り返し、ユニクロなどに集まって果てしないコスト競争に陥っている商社に分かれている。当然ながら前社は投資などを強化し、後者は経営不振に陥っている。

  私は、商社の次世代の姿は、中小企業が投資できないハイテク技術にデジタル投資をし、それらのテクノロジーをクラウドサービス上におきSaaS(ソフトウエアをサービスで使ってもらう)で中小企業が使えるようすることであると、提言してきたし、前回その全体像を明らかにした。日本の99%以上のアパレル企業が年商100億円以下の中堅企業であり、この規模のアパレルでもユニクロやZARAのような巨大企業しか使えないデジタル技術を活用することができるようになるからだ。また、人材が乏しい企業に対しては資金と金を入れ、経営支援を行うなどインキュベーションやターンアラウンド事業をすべきだといってきたし、私自身が先頭に立って見本や手本をみせてきた。もはや日本で成長しているアパレルなど、数社もないのだから、商社のビジネスは論理的にいってこれしかない。

  ただし、現実的には総合商社は、伊藤忠商事などを除いて、もはや繊維事業に投資などしないだろうし、関与している人間が多すぎて議論もまとまらないだろう。例えばPLMの導入にいたっては、3年も同じ議論をしている。専門商社にいたってはバリューチェーン全体をデザインするなどという大局的視座をもっておらず、相も変わらず自社利益を最大化させる、「個別最適化」を繰り返し、結果的にバリュー・チェーンは脂肪太りとなって原価コストはあがり、ユニクロとの差は決定的なものになっている。商社は日本のアパレル業界のデジタル化のキーとなるべきなのだが、現実には商社自身に自己改革ができる力が無い。

  こうした状況から、2020-21年は、多くの商社、アパレルが「待ったなし」の状況となり、市場から退出を余儀なくされた企業にはそれなりの苦労が待っているし、生き残りをかけた商社、アパレルは信頼できるパートナーと取り組み、大きな自己改革を行ってゆくか、座して死を待つかの二択の選択となる。

  

アパレル商品の最大の弱点

 Zホールディングスの傘下に入ったZOZO3月、静かにZOZOMAT (足のサイズを計測し、その人にあった靴を提案するデバイス)をリリースした。

  桑田真澄の息子のMattに紹介させるなど、「だじゃれ」などやっている場合では無いはずだが、私は早々にZOZOMATを取りよせ足形を計測してシューズを買った。念のため、妻と娘にも同じことをさせたのだが、彼女たちは総じて「サイズが大きい」と言う。私も自分の足サイズは25-25.5なのだが、ZOZOMATには26と表示されている。私たち家族はZOZOMATのいうとおりにしたのだが、推奨される靴はブカブカだった。

  「不完全な技術で消費者を実験台にするのはいかがなものか」と感じたし、「ここが徹底した消費者起点のビジネスを展開するAmazonとの違いなのだろう」と思ったのもつかのま、私の妻が「すごい!」と叫んだ。観れば、ZOZOで数年前に買った商品がポップアップで表示され、「ZOZOで数年前に買った、この商品は、当社が1200円でお買い上げいたします」と出ていたのである。

  私は、某誌の取材で、「サステナブルビジネス」について意見を求められ、「今の、オフプライスストアは本質的な問題解決になっておらず、アパレルは相変わらず大量生産を繰り返し、余剰在庫が余る前提で商品を買い上げたたき売っている」とのべた。

 たとえば、アパレル業界は、「プロパー消化率50%、オフ率30%、残品率5%で企画原価率35%」などのように年度目標を立てるが、この目標は、「値引き販売」を前提に目標値を作っていることにお気づきだろうか。本来であれば、プロパー消化率100%、オフ率0、残品率0」とすべきだろう。

  「そんなことができるのか」、と言う人もいるだろうが、ユニクロ、ワークマン、そして、ハニーズなどの高収益企業はみなそうしている。商品を定番品に絞り、トレンドはVMDや商品の組み合わせで表現し、トレンド商品は少量生産にして絶対数を足りなくして欠品を追いかけない売り切り御免型とし、ライトオフ期間を5年以上にすればよい。また、ダイナミックプライスは、こうしたゼロベース発想ができない技術屋には正しい導入はできず、企業業績を悪化させることは述べたとおりだ。日本の風物詩となった「8月と1月の大セール」など直ちに辞め、ユニクロがやっているように、消費者が買い物に来る毎週末に値引きを行うなどの工夫をすべきだ。SPA(製造小売)である理由は、自ら店頭コントロールができるところにあるのだから、少しは工夫をすべきである。そうすれば、オフ率は0-5%以内に収まる。

  アパレル商品の最大の弱点は、「定価で購買した瞬間に価値がゼロになる」ということだ。私自身、10万円以上もするスーツやダウンを「買取業者」にもっていって査定をしてもらった経験が何度もあるが、ほとんどが「100円」、よくて「300円」程度である。ここが、アパレル商品が売れない、消費者が長く着て元をとろうとする理由なのである。この提言はZOZOによって既に稼働しており、彼らが運営する二次流通市場などで販売されている。ZOZOはアパレルではないので仕入れはしていないが、ブランドがこれをやればアパレル商品はもっと売れるだろう。細かな「部分」ばかりに目を向けず、このように大局的な視座からバリューチェーン全体を見て、その構造を理解しなければ本質は見えてこない。

 

今年がコンサル活用、デジタル元年となる理由

 ご存じの通り、アパレル、リテーラーは、2019-20年はデジタル技術に対して盲目的に過信し、失敗を繰り返した。今のビジネスモデルを放置したままデジタル導入しても、何ら競争力を持ちえないことを、ようやく身をもって知ったのである。こうした経験は、力のないアパレル企業を市場から退出させ、産業の新陳代謝を推進することに一役買った。

  上記に書いてある大胆な改革を実現化するためには、デジタル技術との相互連携が不可欠である。こうした青写真を、真っ白な紙の上にゼロベースで書ける、いわゆるデジタル戦略が描ける人材が決定的に不足しているのが今の課題だ。昨今の「戦略軽視」の風潮は酷く、多くのケースにおいて、こうしたビジネスモデル改革を行わず、既存のやり方にデジタル技術をのせようとする。だから、「デジタル化懐疑論」がでてくる。アパレル企業はこのことを嫌というほど学んだはずだ。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)