2020年度のアパレル業界 栄える企業と滅びる企業を分かつものは?

河合 拓
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米国で一定の規模を有するオフプライスストア だが、日本では?(Photo: J. Michael Jones)
米国で一定の規模を有するオフプライスストア だが、日本では?(Photo: J. Michael Jones)

 

オフプライスストア は規模縮小へ

  さて暖冬に始まり、未曾有のコロナ禍で身動きが取れなくなっている2020年のアパレル業界では、どんなことがこの1年のテーマとなるだろうか。

  私は、20年〜21年にかけて、本当の意味での「コンサル活用元年」と「デジタル活用元年」になると感じている。

 そこには但し書きがつく。

 まず、旧態化したビジネスモデルのアパレル、リテーラーは、事業継続が困難となる。その中で、独自の強みを持つ企業だけが、大きな資本あるいはファンド管理下に入ることを許されるだろう。過去、百貨店や銀行が経験したような、ロールアップ(複数の企業を結合し規模を大きくしてゆくこと)が金融主導で進むのである。その結果、アパレルの数は大きく減少し、統廃合が起きる。これは、後述するデジタル化の推進により、投資ができないアパレルとそうでないアパレルの差が大きくつくからだ。

  また、今成長が期待されている余剰在庫の買取ディスカウンター(オフプライスストア )は、大きく規模を縮小する。余剰在庫の問題は、ブランド自身が自ら販売した中古品を買い上げ、再プレス、ほつれ直しを行いweb上に構築した二次流通市場で中古品の自社ブランドを再販する時代が来る。ブランドがのんきに不要な余剰在庫を次々とつくり損益計算書を悪化させる一方で、そのどうしようもなくなった在庫を第三者が二束三文で買い取って激安販売し、上場するなどという異常なマーケットが続くはずがない。ブランド自身が買い取ればすむ話である。そちらのほうがよほど健全だし、ブランドパワーもコントロールできる。クルマ産業はそうしているし、最近ではAppleも中古品の下取りを強化し始めた。あるのかないのか分からないような定価をつけて、たたき売っているのはアパレル業界だけだ。アパレル企業は、仕入れを半分にし、定価販売の売り切り御免型ビジネスを行い、セール販売を大きく縮小する。真の意味でのサステナブル事業が現れるのだ。

 

商社とアパレルに迫られる「二択」

 その結果、商社の売上は大きく減少する。トレードビジネスが限界を迎え大胆な業態変革をしない商社は次々と統廃合を繰り返すことになる。商社は、10年ほど前から、先進的ビジネスを強化する企業と、相も変わらず「売れているアパレルはどこだ?」と、「コバンザメビジネス」を繰り返し、ユニクロなどに集まって果てしないコスト競争に陥っている商社に分かれている。当然ながら前社は投資などを強化し、後者は経営不振に陥っている。

  私は、商社の次世代の姿は、中小企業が投資できないハイテク技術にデジタル投資をし、それらのテクノロジーをクラウドサービス上におきSaaS(ソフトウエアをサービスで使ってもらう)で中小企業が使えるようすることであると、提言してきたし、前回その全体像を明らかにした。日本の99%以上のアパレル企業が年商100億円以下の中堅企業であり、この規模のアパレルでもユニクロやZARAのような巨大企業しか使えないデジタル技術を活用することができるようになるからだ。また、人材が乏しい企業に対しては資金と金を入れ、経営支援を行うなどインキュベーションやターンアラウンド事業をすべきだといってきたし、私自身が先頭に立って見本や手本をみせてきた。もはや日本で成長しているアパレルなど、数社もないのだから、商社のビジネスは論理的にいってこれしかない。

  ただし、現実的には総合商社は、伊藤忠商事などを除いて、もはや繊維事業に投資などしないだろうし、関与している人間が多すぎて議論もまとまらないだろう。例えばPLMの導入にいたっては、3年も同じ議論をしている。専門商社にいたってはバリューチェーン全体をデザインするなどという大局的視座をもっておらず、相も変わらず自社利益を最大化させる、「個別最適化」を繰り返し、結果的にバリュー・チェーンは脂肪太りとなって原価コストはあがり、ユニクロとの差は決定的なものになっている。商社は日本のアパレル業界のデジタル化のキーとなるべきなのだが、現実には商社自身に自己改革ができる力が無い。

  こうした状況から、2020-21年は、多くの商社、アパレルが「待ったなし」の状況となり、市場から退出を余儀なくされた企業にはそれなりの苦労が待っているし、生き残りをかけた商社、アパレルは信頼できるパートナーと取り組み、大きな自己改革を行ってゆくか、座して死を待つかの二択の選択となる。

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